黒い男とキャク
ホラー(笑)です
「そんなあなたにオススメのコースがありますよ」
怪しげににっこりと笑う顔で視界が一杯になる。近いからだけではない、もうそれほどまでに視覚さえ衰えてきていた。
「オススメ……の……?」
「そうです! お代は後払いでいいですよ」
真っ黒い服に身を包んだ彼は手を合わせ貼り付けたような笑顔で話しかけてくる。
「あなた今、絶望しているでしょう?」
ドクンと心臓が跳ねる。
「そして生活も対人関係も夢見に至るまで最悪」
オススメのコースとはそれに関することだろうか。
「私が夢見に関しては助けてあげましょう!」
その黒に包まれた笑顔は、いっそ天使のように見えた。
「もちろんタダでとはいきませんが、大丈夫です。あなたの今の状態でも払えますし、あなたが気が付かないほどの代償です」
兄弟でさえ助けてくれなかったのに見ず知らずの自分を助けてくれるなんて、藁にもすがる思いだった。
「た、たすけてくだ、さい」
ずいぶんかすれた声だった。
「はいはい、それではあなたの家に案内してください♪ あ、金を盗もうだなんて思ってませんよ。安心してください。金なんて持っていても意味がないですし」
「……?」
「おっと、こちらの話です」
もう頭が回らなかった。
「こ、こっち……」
家に着くなり寝室に入るよう言われた。
「さあ、ではよく眠れるようにしてあげます。寝っ転がって目を閉じて」
言われたとおりにした。
「それでは……楽しい夢の国へいってらっしゃい♪」
もともとおぼろげだった意識がすっと落ちていった。
「さあそれではお代をもらうとしましょう」
男は目の前で寝ているキャクの頭に手をかざした。
「ふふふ……ああ……ずいぶんと楽しそうな夢をみていますねぇ、そんなに寝かしつけられるのが良かったんですかねぇ……うふふ……あは」
今度はその人差し指をキャクの額にピトと当てる。
「いただきまぁす♪」
「おはようございます。よく眠られていましたよ。ご気分はいかがですか?」
貼り付けた笑顔の目の隙間から本物の笑みが溢れる。
「……………」
「よさそうですねぇ。では私はこれで失礼しますね」
そのキャクは人の目をしていなかった。
「だから言ったでしょう。あなたが気が付かない代償だと。廃人になってしまったあなたには私の存在すら映らなぁい♪」
黒服の男は街のスキマに消えていった。
いろいろと説明不足ですが、疾走感を出すためです。書いてない部分の設定はほとんどしていないので聞かないでください。(なんで絶望しているのかなど)むしろ私が聞きたいです(笑)