第一試合終了
ラングフォードの視点です
--side ラングフォード--
すげぇ。
驚愕の結末。
この試合はそう呼ばれるに相応しい試合なんだろうな。
一体誰がこの展開を予想できた?
今でも信じられねぇ。
あの逃げ腰デュランが、カルザゲを倒しやがった。
しかも左手一本だぞ!?
あいつは最初、逃げ回ったんだ。
ただ、何時もと違うなって思ったのは、カルザゲのすげぇ直拳を見ても眉一つ動かさなかった事。
構えを解いて逃げ出さなかった事。
…何よりも目だ。
試合が始まってからのアイツの目は、そうだな…鷹みたいに鋭かった。
それに何かカルザゲを観察?してる様な目だった。
本当はどうだか知らねぇけど、そんな気がしたんだ。
ジワジワとカルザゲに近づいては直拳を撃たれて飛び退いて。
それを繰り返す内に周りの奴らから野次が飛んだんだ。
ふざけんな!
そう思ったよ。
お前らの中で何人がカルザゲと打ち合える!?
しかもアイツは逃げてねぇ!
何か狙いがあるんだよ!ってな。
デュランの目を見てそう思ったんだ。
そうしてたらカルザゲの顔が跳ね上がった。
一瞬目を疑ったぜ?
あいつが身体を動かすって一緒に訓練所に行った時に見た直拳と全く同じ直拳。
確かにスピードは出鱈目に速ぇなと思ったけどさ。
けど、流石にカルザゲには効かねぇだろ?って。
それに左手は精々が防御か牽制に使うくらいだろ?
まさか非力なデュランの左拳でカルザゲの顎が跳ね上がるなんて思わなかったんだ。
そんな事考えてるうちにな、デュランが身体を左右に動かし始めた。
スピードがある小柄な剣士がやる様な動きあるだろ?
それに近かったな。
俺はその動きをするデュランから目が離せなかった。
不規則に動かしてるその動きにも意味があるんじゃねぇかって。
槍も使うが俺も剣士だからな。
少しは見る目があると、自分じゃ思ってるんだぜ?
そこからデュランが一気に加速した。
さっきカルザゲにお見舞いした左の直拳を叩き込んだと思ったら、もう一度踏み込みながらの直拳。
あっ!と思わず声が出た。
カルザゲがデュランの拳を顔面に受けながら右拳を放とうとしたからなんだが…
それはいらぬ心配ってやつだったな。
デュランはカルザゲの右の直拳を掻い潜ったんだ。
カルザゲが右の直拳を放った時に、アイツは膝を曲げ、腰を落として防御を固めながら斜め前に踏み込んだんだよ。
で、カルザゲの直拳はデュランの上を通過しただけに終わったって事だな。
それでよ、
カルザゲの拳を躱した直後に跳び上がる様にして顎に"上げ拳"(アッパーカット)を撃ち込んだんだ。
流石のカルザゲも堪らなかったんだろな。
膝がこう…ガクっと落ちたんだよ。
そこでデュランは、顎目掛けて"横拳"(フック)を振り抜いたのよ。
そしたらカルザゲの奴、潰れる様にして膝から崩れ落ちたんだ。
凄かったなぁ。
あんな見事な打倒は早々目にする機会はねぇよ。
うちで一番強ぇオスカーでも、あそこまで流れる様な動きで相手を倒した事は無ぇだろうさ。
それ程に見事だった。
なんていうか…流麗っての?
分かんねぇけどそんな感じだわ。
お嬢とオスカーを見たら、さぞ驚いたんだろうな。
目を丸く見開いてたぜ。
俺はそれが堪らなく可笑しくて、何よりも嬉しくてよ。
気付いたらグッと拳を握り締めてた。
アイツは記憶が失くなる前から努力してた。
身体が小さい自分は速さが大事だから。
そう言って短い距離を何度も何度も、朝から晩まで全力で駆けてたんだ。
ただよ、アイツは優し過ぎたんだ。
殴り合いだってのに…
殴り返すのが怖いって、なんだそりゃ?って思った。
けどよくよく考えたら分かる事だったんだな。
アイツはヤーグの近くに住み着いてる動物達に餌やったりする様な善人だもんな。
しかも、少ない自分の分のメシをだぞ?
そんな底抜けに優しいアイツには、人を殴るなんて無理だったんだろうなぁ。
記憶失くしたアイツは別人みてぇに変わったよ。
俺の事だけじゃ無くて、自分の事も、常識さえも忘れちまったらしくてよ。
色々と質問されたんだ。
話してみて思ったのは、もしかして別人なんじゃ?っていう有りえねぇ考えだったよ。
だってよ、アイツは自分の事は"僕"っていってたんだぜ?
それなのに記憶失くしてからは"俺"になってたし。
訓練所でも、周りの奴の目なんて気にならねぇとでもいう様な態度だった。
その変化に俺の頭がついていってなかったんだな。
だけどよ、記憶が失くなって、別人みたいに気が大きくなってもアイツの本質は変わってねぇ。
優しい。
話してみて思ったよ。
他の奴には分かんねぇだろうけどさ。
俺はアイツと一番長く居たんだ。
だから分かる。
言葉の節々に出る俺への感謝のセリフ。
試合前だってのに、心配する俺を安心させる様な笑顔。
アイツはやっぱりアイツだ。
底抜けに優しくて、思い遣りのある俺の親友だよ。
俺はデュランの勝利が嬉しくて仕方なかったからさ。
試合の後、直ぐに駆け寄って抱き着こうとしたんだよ。
そうしたらアイツは苦笑いを浮かべて両手開いてさ。
華麗に避けやがった。
ほんの一瞬だけ、やっぱり別人かもと思ったね。
まぁ、祝いだ!
勘弁してやるけどな!
ラングフォード。
この小説では私のお気に入りになりそうです。
盛大な勘違いをしていますが、彼こそほんとうに優しい男なんでしょうな〜とジジ臭い事をシミジミと。