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拳術士  作者: とりあたま
第一試合
5/11

5R

焦らすや〜ん。

兵士に連れられた翔平は、レギーナのいたテントの裏手へと辿り着いた。

そこは凡そ20m四方の広場で、周りには野次馬だろうか?先程の試運転の際に翔平を嘲笑った男達の姿も見える。

どうやら翔平(デュラン)の試合が行われる事は周知の事らしい。


「来たわね、これから始めるのだけれど準備はいいの?」


翔平の姿を見出し声を掛けたレギーナに、ちょっと待ってくれと告げながら、手に巻いていた布を解き始めた翔平を見たレギーナは不思議に思い声をかけた。


「何してるの?素手での試合は認められないわよ?」


「あぁ、巻き直すだけだ。どうにもしっくりこないんでね。」


翔平はそう言いながら解き終えた布を拳の辺りに一周二周と巻いていく。

ここで巻いているこの布はボクシングではバンテージと言われ、主に拳と手首の保護を目的としている。

個人毎に巻き方は異なり、各々にあった巻き方をするのが一般的だ。

経験者であればある程、自分の巻き方にこだわりを持つそれは、神経質な人ならほんの少しのシワすら気になる、という程に繊細な物だ。


例に漏れず翔平にも拘りの巻き方がある。

まず、拳に10周巻いて手から抜き取り、それを重ねて拳の上にのせる。

これは、拳をしっかりと保護する為だ。

本来は5周しかさせないが、今回はグローブがない為、顔を殴った際の衝撃吸収や、口を殴った時に歯が刺さらない様に多めに設定した。

多く巻いたとしても固く締められた布は中々に強度があり、拳とさほどの差はない。

それよりも拳が壊れない事を優先したのだ。

そうしてその周りを2周巻いて人差し指を一周させて手首へ向かわせ、手首を一周。

同じ様に中指、薬指と続け小指はフリーの状態にして、余った布は手首の固定に使用する。


(随分と手慣れてるけど、あんな巻き方は見た事ないわ。何処で習ったのかしら…でも、あの子記憶喪失なのよね?)


手慣れた手つきで布を巻いていく翔平を訝しむ様に眺めていたレギーナはしかしどうでもいいか、と頭からその思考を排除した。


「待たせた。さぁ、やろうか。…相手は?」


両手を巻き終えた翔平はレギーナに向き直り自分の相手は誰だ?と確認する。


それ程待ってないけどね、と肩を竦めたレギーナが今回の試合の相手へと呼び掛けた。


「カルザゲ!準備はいい?」


「おう!こっちはいつでも良いぜ!それにしても、まさかデュランと試合(やる)事になるとはなぁ。面倒だから逃げ回るなよ?」


不遜にも侮りにも取れる発言と共に、野次馬の輪から出てきたのは筋肉隆々とした大柄の男だった。

身長は翔平の頭が男の肩に届くかどうかといったところか。

翔平はその言葉を無視しながらも、しっかりと男を観察する。


(デカイな…。身長はまぁいい。これぐらいなら顔に届くだろう。それよりもサイズがヤバいな…。豪腕ねぇ、振り回すタイプか?)


肩から二の腕にかけて盛り上がった筋肉と脇、広背筋のパンチに使う筋肉が発達した身体は一撃の重さを容易に想像出来るものだ。


さらに太い足の筋肉を見るに打たれ強さもあるのだろう。

異世界で初めて感じた強敵の匂いに、翔平は口元がつり上がるのを抑えきれなかった。


「おい、デュラン。負けてもいいから精一杯やれよ。」


レギーナさんには俺が何とかフォローしてやるから、と翔平に語りかけるラングフォードに、あぁやっぱりコイツはいい奴だと緊張感の欠ける感想を抱いた翔平は、ありがとなと一言告げて、広場の中央に向けて歩を進める。


これから始まる戦いに胸を躍らせながら。


「…何が可笑しい?」


「いや、別に何でもない。」


広場の中央で顔を合わせた2人の顔は対照的なものだった。


かたや、これからの戦いを思い不敵な笑みを浮かべる顔。

かたや、圧倒的弱者と思っていた相手の余裕に困惑した顔。


「さぁ…やろうか。」


「ふん、性格が変わったからと実力が変わった訳じゃねぇんだ。調子にのるなよ小僧。」


翔平の言葉をうけてこめかみに青筋を浮かべながら言葉を発するカルザゲの気持ちは当然といえた。

自分を含め、周りからは逃げ腰のデュランと呼ばれている目の前の男は、さもお前など恐るるに足りないとでもいう様な態度なのだ。


「試してみるか?」


「てめぇ…」


知った事かとでもいった様な翔平の言葉にさらに怒りを露わにするカルザゲを尻目に上手くいったと一人ほくそ笑む翔平。


(チョロ過ぎる。あり得ん程にチョロい。脳みそまで筋肉の単細胞か?コイツは…)


「お嬢!そろそろ始めてくれ!」


待ちきれないとばかりにカルザゲがレギーナへ開始の合図を求める。

2人のやりとりを目を丸くして見ていたレギーナは、ハッとした様に我に返り試合開始の合図を告げようとした。


「そうね。それじゃあ…」


「面白そうな事してんじゃないの〜」


えっ?と振り返った先に立った男にレギーナは驚きを隠せなかった。


「オスカー!アンタいつ帰ってきたの!?」


ついさっき、とニヒルな笑みを浮かべたオスカーと呼ばれた男はレギーナに歩み寄り頭をポンポンと軽く叩く


「相変わらずちっちゃいのな。飯を食べなさい、飯を。さて…これどういう状況?…なんで俺抜きでこんな楽しそうな事してんの?」


おちゃらけた雰囲気から一転し、遊びに混ぜて貰えなかった子供の様に、じとっとした目を向けるオスカー。


そう問われたレギーナは、はぁ…とため息をひとつ、事の顛末をオスカーへと説明する。


「……って事で、デュランが役に立つところ見せるって話しになったのよ。ってアンタ、ちゃんと聞いてる!?」


説明する自分に視線を向けない相手に業を煮やした、といった様子のレギーナに向けてあはは…と苦笑いを浮かべながら後方を指差すオスカー。


ん?と振り返ったレギーナの前に青筋を浮かべたカルザゲとデュランが立っていた。


「お嬢…そろそろいいか?」

「同感だ。いい加減待ちくたびれたぞ。」


確実に怒気のこもった二人の声色に、やば〜と苦笑いを浮かべるレギーナと目を丸くして驚くオスカー。


「おい、嬢ちゃん。デュランが何か怖いぞ。…いつもの可愛いデュランじゃない。」


「ちょっと黙ってオスカー!二人ともごめんね。それじゃ始めましょう。…試合開始!」


すいません…。

戦いに入らなかった。


いや本当に小説って難しいのね。


努力します。

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