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拳術士  作者: とりあたま
第一試合
1/11

1R

信じられるか?

ついさっきまで大学にいたんだ。

それなのに…。


「どこだよここは…。」


見渡す限り、木、木、木。

そうだな。。

取り敢えずここが森の中って事は分かった。

しかもかなり大きな森だ。

視線を奥にやっても途切れる事の無い、木だけの景色。

こんなバカでかい木が生い茂ってる森なんてテレビ以外で見た事がない。


(というかここは日本なのか?)


例えばこのバカでかい木。


(俺の身体程の大きさのある葉を持った木なんて聞いた事も無いぞ?)


さらに俺を混乱させたのは自分の格好だ。

白くてボロい生地でワンピース程の太もも付近まであるTシャツのような服。

腰にはそれがヒラヒラしない様にする為か、革のベルトが巻かれている。

そして、手にはバンテージの様にグルグルに巻かれた布。

足には編み上げ式のサンダルの様な者を履いている。


(バンテージの様にと言ったが、毎日の様にバンテージを巻いていた俺からすればあり得ない巻き方だ。)


そもそもバンテージとは、殴った時に拳への衝撃を和らげる事と、手首を傷めない様に固定するのが目的だ。

こんなド素人丸出しのなんの意味もない巻き方をバンテージの巻き方と翔平は認めない。


ふむ…と腕を組み思案する。


差し当たり、現状を整理しよう。

俺の名前は安藤翔平。

歳は今年で21歳になる大学3年生だ。

サークルのボクシングの練習中に気絶。

目が覚めたらこの状況…。


「いや、整理出来ない。」


組んでいた腕を解き、髪を掻き毟りながらも混乱した思考はまとまる様子が無かった。


(一体全体、どうなってんだ。

どうしたら気絶から目が覚めたら、変な服着て森の中にいる状況になるんだ?)


一瞬だけサークルの仲間がイタズラしたのか?とも考えたが直ぐにその考えはあり得ないと思い直した。


翔平の通う大学は都心にあり、見渡す限り木しか見えない森なんて無いはずだ。

そもそも翔平は仲良し趣味サークルの中にあって、ストイックに強さを求める異質の存在。

有り体に言えば、浮いているのである。

翔平としてもそれは承知していた。

それでも強くなりたいと願っていた。

ただ集中してボクシングが出来れば、それだけで良かったのだ。


それだけに今の状況を、サークルの奴らが作り出したとは思わない。

サークルの中で浮いている、さらに言えばストイックに強さを求める翔平にそんな事をする意味が無いからだ。

バレたらどうなるか考えるだけでも恐ろしい。

驕りではなく、そう思わせるだけの実力を有しているという自負があった。


「…とはいえ、ここにいてもしょうがねぇか。」


と独りごちて、どうしたものかと思案した時にふと首元に違和感を感じた為、首へ手を伸ばした。


「なんだこれ?」


首回りに着いたソレを指で確認した時に、翔平はさらに混乱する事になる。


(なんだこれは…。素材は、皮か…?首回りを一周して…これは…鍵穴?おい、どういう事だこれは!これじゃあまるで…)


「いたぞ!」


怒鳴り声の様な大きな声に、はっとしてそちらを向いた翔平の目に飛び込んできたのは、鎧を着て槍を持った兵士の様な男達だった。

それすらあり得ないのに…。

その男達は赤や水色といった地球ではお目にかかれないような髪の色をしていたのだ。


ははっと掠れたような笑い声が自分の口から漏れたのが分かった。


「どこなんだよ?ここは…。」


本日2度目となる嘆きはしかし誰の耳にも届かず、腕を強引に掴まれた翔平の腕に鎖付きの手錠がはめられた。


「おいちょっと待てよ!なんだよこれ!」


手錠がはめられた事で現実に引き戻された翔平の意識は、手錠をはめられたという状況に対して抗おうとする。


しかし、周囲を取り囲んだ兵士は聞く耳を持たないのか、


「黙れ!逃げ切れると思ったのか!飼ってる拳奴に逃げられたら、俺らが雇い主に罰されるんだよ!黙って付いて来い!」


と、怒鳴り散らす様に命令してくるのだ。


(拳奴?それに飼ってるって…やっぱりこの首輪…奴隷の印かよ…

ていうか、どうなってんだよまじで。

ここが地球じゃないってんなら何かの小説みたいに異世界って事になる…

いや、でもなぁ…)


とりあえず、何よりも情報が欲しいと思った翔平は自らを連行する兵士へと質問をする事にした。


翔平は自分の右隣りを歩く赤い髪をした兵士に声をかけた。


「なぁ、俺はどこに連れてかれるんだ?」


「あん?どこってお前、決まってんだろ。お前が飼われてるヤーグだよ。ったくよぉ、訓練がしんどいからっていちいち逃げ出すなよなお前。探すこっちの身にもなれってんだよ。」


赤い髪をした、歳は20台前半といったところだろうか?若々しさを感じる兵士は吐き捨てるように返事を返してきた。


(ヤーグ?知らない単語だな。)

そう思った翔平はさらに兵士へと質問を続けた。


「ヤーグ?ヤーグってなんだ?というかここはどこなんだよ?日本じゃないんだよな?」


「ヤーグはヤーグだろ。大体ニホンってなんだ?聞いた事も無いぞ。」


にべもない態度で返された言葉に、翔平はうんざりしたような表情になる。

あぁ…やっぱりここは地球じゃないんだなと。


しかしなぜ日本語が通じるのか?

通った鼻筋、凛々しく堀の深い目をした顔は外国人のそれだ。

見た目は明らかに日本人とは異なるし、そもそもここは地球じゃない可能性が高い。

にも関わらず、日本語が通じる不思議。


しかし深く考えたところで答えは出ないだろうと翔平はその事について考えることをやめた。


むしろ言葉が通じるのは幸運なんだよなぁ…とすら思う。

意思疎通が出来るなら、ある程度の情報は手に入れられると考えたからだ。


その上で考えたのは先ほどの質問についての兵士の答えだ。


(当たり前のことを何言ってんだと返されたが、俺にとっては当たり前じゃないんだよな。

ただ、それを聞いても面倒くさがって喋らないだろうし…不審がられるのも困る。

しょうがない、記憶喪失の振りでもして情報を聞き出すか。)


そう考えた翔平は、兵士に対して嘘をつく事にした。


「ヤーグってなんだよ?俺はなんでこんな事してんだ?というか俺は誰なんだ?」


「は?何言ってんだよ?…お前もしかして何も覚えてないのか?自分の名前もか?」


困惑顔で聞き返してくる兵士に対して上手くいったか?と考えた翔平はさらに続けた。


「まったく何も覚えていないんだよ。ヤーグってのがなんなのか。自分の名前すら覚えていない…。なぁ、ここはどこなんだ?なんで俺は手錠をはめられてるんだ?」


「おいおい、まじかよ?」


困惑顔だった兵士は、その顔を歪めて困ったなと頭を掻く。


「あ~、ちょっと待ってろ。俺には判断できねぇ…。隊長っ!!」


隣にいた兵士は困惑顔のまま、判断が出来ないので隊長を呼ぶことにした様だ。


「・・・なんだ?どうかしたか?」


「それが、コイツ何も覚えてないとか言ってるんですよ。ヤーグの事も分からないって言ってるし、自分の名前も分からないとか言い出してるんですよ。」


返事をしたのは、厳つい顔をした大柄の兵士だ。

(…隊長か。コイツならある程度の情報は集めれるか?)


「お前、記憶がないって本当か?」


「本当です。自分が何なのか、何故こういう状況に置かれてるのか…全く分からないんですよ。」


隊長と呼ばれた大柄の男の問いに、翔平は間髪入れずに答えた。

その顔には、俺困惑してますという思考がありありと浮かんでいる。


「ふむ…デュランという名前に聞き覚えはあるか?」


少し考える素振りをした隊長と呼ばれた男は、翔平に対してそう言った。


「デュラン?聞き覚えがないですね。それは誰です?」


翔平は当然の様に隊長へ聞き返す。


「お前の名前だよ。本当に覚えてないのか?」


(…は?何言ってんだコイツ?俺がデュラン?んなバカな…。どう考えたって外人の名前だろそれは…)


そう言われて混乱している翔平の顔を見て納得したのか、隊長はため息をつきながら


「はぁ…本当に記憶喪失か。面倒だな。とりあえず歩きながら話すぞ。早くヤーグに戻らないといけないからな。」


「ちょっと待って下さい!俺の名前がデュランってどういう事なんですか!?それにさっきから言ってるヤーグってなんなんですか!?」


俺は今、混乱している。


(一体どうなってるんだ?

何故俺がデュランとかいうやつになってる?

なんなんだよ…)


翔平の考えは当たり前といえた。

気絶から目覚めたら森の中。さらには変な服装の上に手錠までされて、自分の名前がデュランという聞いた事もない名前になっている。


(意味が分からない…)


先ほどからここまで何度もおちいるその思考は翔平の心を掻き乱す。


「それもふまえて説明してやるから、さっさと歩け。早く雇い主のところに連れて行かないといけないんだ。」


「わかったよ…。全部説明してくれ…。もぉ何がなんだか分からないんだよ…。」


焦燥を隠しきれない翔平の顔を見て、さてどこから話したものかと、一人思案する隊長であった。


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