三日月の夜の8月12日9時47分
8月12日9時47分は…
8月12日の午後9時47分、病院の屋上から飛び降り自殺した僕のお姉ちゃん。
僕はお姉ちゃんが大好きだった…。
でも、なんだかまだ何処かに居るようで
まだ何処かで遊んでいるようで
何処かでまた小さく笑っているようで…
辛かったのかな?
苦しかったのかな? 飽きてしまったのかな?
もぅ…分からないよ僕は。
もぅ、捜したくないよ。心が苦しくて苦しくて息が詰まるんだ、涙が溢れて溢れて前が霞むんだ…
やるせない気持ちと力尽きそうな気持ちが身体に滲んで僕を支配するから
だから、もぅ一度だけちゃんとお別れしたいよ。
ちゃんと『僕のお姉ちゃんでありがとう』って僕の口から伝えたいよ…
なんでいつも僕より先なんだろ、産まれた日も友達を先につくった時もお風呂に入る時も寝るときも起きる時も…
そしてこの世からいなくなる時も…。
自分から先に先にと未知という名の世界へ行ってしまった…
僕はつまらなくて寂しくて悲しいよ
ブランコだって一人。
おやつを食べる時だって家で遊ぶ時だって……。
だから、もぅ帰って来て
お願いだから帰って来てよ。
僕なんでもするから、お姉ちゃんにも僕の分のおやつもおもちゃもみんなあげるから…
ねぇ…
まだ行かないで…
遠くに行かないで…
こんなの酷いよ…。
僕は無力だった。
健気だったかな?
なくなりつつあるものに必死にしがみついていただけ?
弱って衰弱した身体は最後の力を振り絞ってコンクリートの塊の頂上、地上三十メートルから大空へと大きく身体を浮かせ扇いで地上に無感情な造形跡をつくった。
あれから、五年…
三日月を見て思っていた時にフッと我に返った僕は
今日は、8月12日で
時刻は9時47分になった。
『ダメでしょ、男の子は泣いちゃ…』と不意に後ろから小さく笑われた。
!
僕は息ができなくなるくらいに泣いた。
僕とお姉ちゃんとの大切な時。