4.可愛いは正義
リルファローゼです。3歳になりました!
この異世界において1年が365日だかは知らないけど、感覚的に大して違いは無いと思う。多分、きっとね!
適当人間の私が何故自分の年齢をちゃんと知っているのかというと、「リルファローゼ、2さいでしゅ」の自己紹介をある日「3さい」と直され、2本立てていた指を3本にされたから。
その日にケーキやちょっとしたご馳走も食べたので、誕生日のお祝い的な習慣もあるんだろうな。
そんな感じで現在、ぷりぷりの幼女です!
言葉も大分覚えたよ。まだ舌ったらずなのは、ご愛嬌。発音難しいんだよ。
いやぁ、人間必要に迫られれば何とかなるもんだね。子供の柔軟な脳味噌の助けもあって、毎日大量に新しい言葉を覚えてますよ。若さって、本当に凄い。
この調子で、文字とかもさっさと覚えておきたい所だけど、本格的に覚えるのは後1、2年は我慢かなぁ…。
最近は寝る前に絵本を読み聴かせてくれるので、それでこっそり言葉と文字を何となく一致させていく程度で、我慢している。
だって、今だってちょっと難しい言葉を使うと、周りの大人が滅茶苦茶褒めてくるんだよ。お手伝いさん達皆が皆、うちの子天才!うちの子一番!な親馬鹿状態。前世の下地がある分、何か居た堪れない。
あんまり期待させるのも心苦しいっていうか…どんな天才児だって、二十歳過ぎればただの人が大半なんだよ。
それなのに、皆メロメロ状態。まぁ、今が一番可愛い盛りだろうから仕方ないか。幼女最強。可愛いは正義。
特に美少女ってワケでも無いので、こんな状態は多分今だけだろうから「可愛い」の褒め言葉にも、素直ににっこり笑える。
うん、転生とかの小説の設定にありがちな、『美少女』『チート能力』一切無し。『言語能力』すら無いからね。…人生って厳しい。
お母様が儚げな美人だから、ちょっと期待して鏡を見たら……見事に地味だった。
まず、髪の色も眼の色も、お母様の淡い色彩とは全然違う。
黒髪に、明るい所で見るとやっと実は青い?って解かる程の、ほぼ黒と言って良い濃紺の眼。お父様の遺伝か?
顔立ちも、ベースはお母様似な顔だと思う。一つ一つのパーツも、そこそこ整っているし、配置のバランスも良い。けど、なんか華が無いっていうか…地味。これもお父様の遺伝なんだろうか…?
美少女とはほど遠い地味幼女だけれど、私としては非常に満足だった。
前世の黒髪黒眼とあまり変わらない色彩は、ちょっとつまらないけど、周りのお手伝いさんとかも似た様な色彩(大体黒や濃い茶色)なので、周囲と浮かなくて良い。前世と違う濃紺の瞳だけでも、見ていて飽きないし。
髪質だって、前世のぴょんぴょん跳ねるクセ毛と違って、サラサラのストレート!憧れのストレートヘア!
何より、目元が若干垂れ気味で、怒って眉を吊り上げても全然迫力が無い、これぞ女の子って顔立ち。地味でも可愛らしいと充分形容出来る、小動物系の容姿なのだ。
前世での眼つきの悪さは酷かったからね…。しかも、男顔。女子なのに、『暗殺者』『ラスト侍』が小学生の時のあだ名だったよ。
中学・高校では、私立の女子校だったからか、超モテた。女子に。……うん、女子に。
男っぽい顔立ちな上、剣道や居合いなんかの武道を色々とやっていたので、身体もがっしりしていて背も高かった。だから、余計にモテた。女子にな!
女の子らしいフリルやレースは一切似合わず、剣道の袴姿やジャージや男っぽい格好が異様に似合った前世の私。ちなみに、スカートは穿いてもオカマにしか見えなかったので、制服以外のモノはほとんど穿いた事が無い。
可愛い小物に、女の子らしい洋服。
嫌いじゃなかった。むしろ憧れでした。でも、似合わなきゃ身に着ける事が出来ないと諦めていた、別世界のアイテム。可愛い小物だけはちょっと持ってたけどね。
なので、今生の容姿には、本っ当に満足していた。
だって、フリフリのレースをあしらったスカートが似合う!たとえ地味顔でも、前世を思えば充分似合う!
まだ3歳の幼女だし、多少華美なドレスを着ていても、全然痛くないし。
前世は兄貴2人に弟1人の見事な男兄弟で、上2人のおさがりばっかりだったから、幼少期でさえ可愛い服ってあんまり着た事無かったんだよ。
成長したらまた顔が変わるかもしれないけど、出来ればこのままの可愛さで成長していって欲しいと、切に願う。
そんなこんなで今、毎日が凄く充実している。朝起きて、「今日はこの服!」ってレース一杯の可愛い子供服を選ぶの、超楽しい。
決めた、今日は淡いピンクのフリフリドレスだ。何かの発表会の様な格好だけど、この世界ではコレが標準装備。お母様も、これよりシンプルだけど毎日ドレスだし。
「ピンクにょが、いいでしゅ」
「はい。リルファお嬢様のお気に入りの、ピンクのドレスですね」
お目当てのドレスを握り締めて訴えた私に、周りの侍女さん達も、笑顔でそれに応じて着替えを手伝ってくれる。
幼少期の特権ですな。
勿論、お年頃になったら、こんなフリフリレースは着ないよ。自分の分は弁えてるからね。もっとこの顔に合う、地味なのにするつもり。スカートが似合えば、満足だし。
「きょう、お母しゃまに、あえる?」
大人しく着付けられながらの私の問いに、侍女さん達は表情を曇らせた。
お母様は風邪を拗らせてしまったらしく、ここ数日床にずっと伏せっているので、凄く心配だ。
「奥様は、今日もお加減が宜しくない様で……お嬢様に風邪がうつるといけませんから、我慢しましょうね」
「セラフィは、あえる?」
「セラフィーリラ様も、残念ながらお加減が宜しくない様で…」
その言葉に、項垂れる。
最近、セラフィ――正式名称:セラフィーリラ――までお母様と一緒に寝込んでいるから、余計に心配なのだ。
もう何日も、二人とまともに顔を会わせていない。妙な焦燥感が募る。
「リルファお嬢様、今日はフォスファの丘に行きませんか?」
「そうそう、今はファノベルの花が満開で、とっても綺麗ですわよ」
一気にしょんぼりして、今にも泣きそうな私に、侍女さん達がご機嫌をとってくる。
フォスファの丘は、屋敷から大人の足で徒歩30分程にある小高い丘で、真冬以外の季節はほぼ何かしら花が咲いている。バルコニーでは無い本当の“お外”が解禁された今、最もお気に入りの散歩コースだ。
ふむ、とぷにぷにの頬に片手を当てて考える。
ファノベルの花は確か、カーネーションに良く似た綺麗な花だ。カーネーションとくれば、答は一つ!
「いく!お花、いっぱいつんで、お母しゃまとセラフィにあげりゅ!」
これ程お母様へのお見舞いのお花に、ふさわしい花は無いだろう。
張り切って返事した私に「なんてお優しい…!」と感動している侍女さん達。やばい、このままだと私いつかこの人達に褒め殺される。
「午後になれば、奥様の具合も良くなって、もしかしたら直接お花をお渡し出来るかも知れませんしね」
「もしお会いになれなくても、お嬢様が摘んだファノベルの花を愛でれば、奥様達もきっと元気になられますわ」
「あい!いっぱいお花あげりゅの!」
お見舞いミッション、スタートです。