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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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33.初めての休日~大都会の罠~


後編が長くなってしまったので、分割します。

それに伴い、33話の前編・中編のタイトルを変えました。

内容は、誤字修正以外一切変わってません。

誤字報告ありがとうございました!




 魔道具屋で予定外の時間を過ごしてしまったけれど、中々に貴重な体験だった。

 もう今日は、本来の目的である服屋だとかのお店は見れないかと思ったけれど、魔道具屋の店主さんが近くにあるお勧めのお店をいくつか教えてくれたので、ささっとその辺を回って目的の下着や服も無事にゲットした。

 だいぶ慌ただしかったけど、直感でさっと選んだから、下手に迷うよりかは自分好みの物が買えたのかも。こういうのって散々迷ったあげく、結局は最初に手にしたのが一番よかったりするし。

 とりあえずこれで次に城下町に遊びに行く時は、ちゃんと都会のお嬢さんの格好で外出できるだろう。

 でもどうせなら、服はリリシズと一緒に色々見て回りたかったなぁ。絶対楽しいでしょ。

 リリシズがまだ王都に来てないから、しばらくは無理なんだけど。よし、リリシズが来たら、絶対に一緒に回るぞー!


 さて、後はどこかお店に入って、がっつり夕飯を食べてから帰ろうかな。

 どうせ帰ってからもまた寮の食堂で何か食べるんだけど、質より量が優先の寮の食事よりも、外の方が凝った料理を食べられるみたいなので、是非味わっておきたい。

 きょろきょろと視線をさまよわせながら通りを歩くが、近くには普通の飲食店はいくつかあるけれど、竜持ちが入店可能なお店が見当たらない。


 竜持ち――特に竜騎士や龍術師の外での食事は、“竜”か“龍”の屋号が入っている店でというのは、竜持ちたちの間で不文律となっている。

 仕事終わりに小腹を空かせた竜騎士や龍術師が何人か連れ立って来店しただけで、食料という食料を全部食い尽くしてしまうので、一般的な食堂のその日の営業は終わってしまう。

 完売するのは店としては良い事かもしれないが、その食堂を利用しようとしていた一般の客にしてみれば、とんでもなく迷惑な話だ。

 なので、常に竜持ちに対応可能な特盛りの食事提供が出来る食堂には、屋号に“竜”か“龍”の名を入れて、一般的な食堂と棲み分けているらしい。

 もちろん、複数人で来店する場合は事前に予約が必要な場合が多いみたいだけど。


 それにしても、竜持ち御用達の食堂がどこにも見当たらない。

 ウロウロ歩いているうちに、うっかり裏路地みたいなところに入り込んじゃったのが悪いのか、普通の店もまばらだ。人の気配までなくなってきたよ。

 うーん、これは一度戻って、大通りに出た方がいいかもしれないな。

 確か大通りの方に、竜持ちが入れる食堂をちらほら見かけたような気がする。っていうか、絶対にこの辺よりはあるでしょ。

 教官たちお勧めの店の場所、もっと詳しく聞いておくべきだったかもしれないなぁ。

 くるっと方向転換すると、今まで私の後ろにいたのだろう、複数の若い男たちに進路を阻まれた。

 前に二人、後ろに二人と、私を取り囲むように狭い道をふさがれる。……これ、喧嘩売られてるの?


「ねえねえ、さっきから一人でどこに行こうとしてたの?」

「もしかして、迷っちゃったー?」


 友好的……というよりも、馴れ馴れしく話しかけてくる若者たち。

 一見爽やかで親切そうに見えるが、どこか下卑た雰囲気を感じるのは、私の気のせいだろうか。


「ずっと歩き回ってて疲れたでしょ? よかったら、どこかでお茶でも飲んで休憩しない?」

「おごるからさ~」


 あれ、もしかしてこれって……ナンパですか!?

 私にこんな風に声をかけてくる相手なんて、地元じゃまずいないから、ちょっと嬉しいかも。

 仲の良い幼馴染みグループ以外の若者と道ばたですれ違う時とか、大抵目を合わせないようにされるからね。

 わー、人生初ナンパだー。

 まぁ、お誘いには応えられませんが。


「あー……別に道に迷ってたわけじゃないです。もう帰るところですから」

「ええー、そんなこと言わずにさぁ。ちょっとだけでいいから、付き合ってよ」

「どうせ田舎から王都に来たばっかで、色々見て回ってるんでしょ? なら俺たちが案内するからさー」


 ……どうしよう、しつこい。

 暴力的でなく、あくまで友好的に誘ってくるので、こちらも丁寧に断っているんだけど、いい加減苛ついてきた。

 もっと人攫い並の実力行使系だったら、殴るか投げるかして速攻で終わらせられるんだけどなー。ただ声をかけてくるだけじゃなー。

 人生初の事態で、正直これ以上どう対処したらいいのか分からない。一瞬でも浮かれた自分が馬鹿でした。


「い、急いで帰らないといけないので……」

「またまたー、さっきまでゆっくり歩いてたじゃん」

「本当は、まだ時間あるんでしょ?」


 盛大に舌打ちしちゃいそうになるのを、ぐっとこらえる。

 確かにまだ帰宅時間には余裕あるけどね。って、この人たち一体いつから私の行動を見ていたんだろう。

 初めての王都に完全にお上りさんで、気配とか一切気づかなかった。

 元々人で溢れてて雑多な街並みだから、尾行とかされても気づき難いんだろうけど……都会、怖いよぅ!

 なんとか突破しようと隙をうかがうも、相手も見越しているのか上手い具合に連携して行く手を塞いでくる。

 心なしか、包囲網がじりじりと狭められている気もする。

 ……これ、強行突破しちゃ駄目かな?

 なんでもかんでも、暴力で解決するのはよろしくないんだけど、そろそろ理性の限界が近づいてきた。


「いいから、一緒にイイトコ行こうぜぇ」


 ナンパ男の一人が、こちらに手を伸ばしてきた。

 よし、少しでも触られたら痴漢ってことで、ちょっと捻るくらいならいいよね!

 臨戦態勢で待ちかまえていたのだが、こちらに向かってくる手を阻む第三者が現れた。


「――おっと、嫌がってる相手にしつこくするのは、男らしくないぜ」


 ナイスタイミングで現れた救世主は、背に庇う様にずいっと私とナンパ男たちの間に割って入ってきた。

「な、なんだお前……放せよっ」と、急に現れた相手に手を捕まれたナンパ男が噛み付くが、相手の服装を認めた瞬間、表情が固まった。

 救世主の左上腕部分にある、交差する槍と竜の紋章は、正真正銘我が国の竜騎兵団の証しだ。

 ちなみに、竜騎士は交差する剣と竜、龍術師は盾に巻き付く龍の紋章が、制服の左上腕部分にそれぞれ縫いつけられている。


「このまま大人しく帰るなら、今日のところは見逃すけど……どうする?」


 どうやら救世主は二人だったらしい。

 背後から、穏やかに問いかけつつも有無を言わせない声がした。こちらも、後ろにいたナンパ男の間に割って入ってくれたようだ。


「何なら、そこの竜騎兵団の屯所でじっくり話し合おうか?」

「べ、別にっ、何もする気なかったし! 無理なら無理でいいんすよ」


「ほら、行こうぜ」と、ナンパ男たちは脱兎のごとく退散していった。

 ……ナンパのマニュアルでもあるのかってくらいに、最初から最後までベタな奴らだったな。

 それにしても、あんなにしつこかったのに一瞬で解決したよ。竜騎兵団効果、凄いな。

 何にせよ、凄く助かった。


「ありがとうございます。助かりまし、た……」


 救世主たちにお礼を言うも、彼らの顔を認めた途端、それも尻すぼみになってしまった。


「おう、大丈夫だった……かっ!」


 救世主の一人も私の顔を覗き込んだ瞬間、盛大にのけぞった。


「なっ、なんっ……何でお前がここにいんだよ?!」


 相変わらずいいリアクションだな、ジャイルトーアンよ。

 お互い、昔の面影をがっつり残してそのまま大きくなっていたからか、実に数年振りの再会だっていうのに、一目で分かってしまった。

 うん、図体はかなりでかくなったけど、まごうこと無き、ファンドルク村の幼馴染みのジャイルトーアンだ。


「……あれ、リルファ? 久しぶりー」


 お約束とばかりにもう一人の救世主はスゥネサービオだったらしく、つい数日振りに道端でばったり会った友人のようなテンションで挨拶された。スゥネはスゥネで、ある意味凄いリアクションだ。


「あー、うん久しぶり。……そういや、あんたら王都にいたんだっけ」


 正直、忘れてた。……っていうのは嘘だけど、二人が王都に行ってからとんと音沙汰がなかったから、半ば忘れかけてはいた。

 二人とも成長期まっただ中らしく、ぐんと背が伸びて体つきも男らしくなっていたが、ちょっとした仕草や雰囲気は昔とあまり変わっていないようだ。

 この大都会で、初めての休日を満喫中に出会うってのは、中々の奇跡だ。

 うーん、旅行先や遊園地なんかのテーマパークで偶然知人や友人に遭遇したような感じ?

 とりあえず、この状況を一言で表すなら……


 世間、狭いよ!!!






「おーい、お待たせ! 焼き菓子詰め合わせ、あるだけ買ってきたよー!」

「よっしゃ、これで明日のおやつは充実したぞ!」

「今日の夜食で全部消えなきゃいいけどな」

「それな」

「後、ついでに串焼きも!」

「おー! さっすがダリュン、分かってるぅ!」

「……ん、こっちの串焼きも美味いな。あっちの角の店とはタレが全然違ってさっぱりしてるな」

「やっぱ肉は最高だな! 牛も豚も!」

「鶏もね!」

「向こうの通りの串焼きも、また違ったタレで美味しいぞ。肉の質も良いし、種類も豊富だしな」

「よし、ちょいと買ってくるかー!」

「全員分よろしくな……て、あぁ!」

「うわぁっ、リルファ滅茶苦茶絡まれてるじゃん!」

「……あ、やっべ!」



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