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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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33.初めての休日~魔道具屋・マリーフィア~



 王都リザ・リューゲルの城下町は、祭りでもないのに人で溢れかえっていた。

 正直、ファンドルク村の収穫祭より活気がある。


「これが、大都会……!」


 当たり前だが、ヴァリエーレ領の城下町とも規模が全然違う。ずっと村に引き籠もっていたから、あっちの城下町ってほとんど行ったことないんだけど、明らかに人口密度の違いが分かる。

 違うことといえば、竜も多い。

 見上げれば、小型竜が空を飛び交う姿がそこかしこに見られるし、地上では小型竜や小さめの中型竜が、石畳の街路を荷物や人を荷台に乗せて引いていた。馬車ならぬ竜車というやつだ。

 私も、竜騎士団からここまで、乗り合いの竜車でやって来た。バスみたいなものかな。だったら個人で乗るちょっと贅沢な竜車は、タクシーとかハイヤーってところか。

 どちらにせよ、竜車は馬車よりも運賃が高めなんだけど、愛竜が馬をパックンするという惨劇をおこさないためにも、竜持ちは総じて竜車のみを使用する。

 愛竜が見ていなくても、後でバレたら怖いからね……。

 ちなみに、王都内を巡る竜車の竜は、馬が視界をちらついても襲いかからないように訓練されているそうなので、滅多にそういった事件はおきないそうだ。

 それでも極力馬と鉢合わせしないように、馬車も竜車もかなり厳密に一日のコースがそれぞれ決まっているらしい。

 それにしても、まだ大通りの入り口だっていうのに、色々と珍しい物で溢れていて、ついキョロキョロと目移りしてしまう。完全に、おのぼりさん状態だ。


 王都では、王城と城下町を繋ぐ大通りのど真ん中に、どーんと道沿いに屋台や露店が続いていて、それをまとめて市場と呼んでいる。

 普通、道のど真ん中に出店とか、邪魔でしかないだろうけど大丈夫。大通りって文字通りに大きいっていうか、広々としているから。

 祭事やらお祝いだとかで、竜騎士団や王族が愛竜(龍)に騎乗して大通りを練り歩くという、いわゆるパレードをたまにやるらしい。

 なので、周囲の建物や見物人に被害が及ばず、大型竜がゆったり歩けるくらいにと、大通りの道幅はちょっと見たことないほど広々している。

 当然、そんな道幅はパレード以外で使わないしもったいないので、余った土地を有効活用しているというわけだ。

 道のど真ん中に市が立っても余裕で馬車や竜車が行き来できるほどなので、市場がなかったら逆にストレスを感じる道幅なのかもしれない。

 そんなわけで、王都大通りという最高の立地にある巨大市場は、常に活気に溢れかえっていた。


「よし、行きますか」


 露店を冷やかしつつ、美味しそうな匂いを振りまいている屋台料理を適当に買って、食べ歩く。うん、このケバブみたいなの、野菜シャキシャキでお肉も多くて美味しいな……後でおかわり買おうっと。

 田舎者なので人混みに流されないか不安だったが、前世の日本を思い出せば、すぐに行きたい方向へとスムーズに進むことが出来た。よく考えれば、これくらいの人混みで尻込みしていたら、東京の繁華街とか生き残れないもの。

 ここの市場に出店して人気店になって、ゆくゆくは王都(出来れば大通り沿い)に店を持つというのが、地方から王都に進出してきた商人たちの夢だ。

 私も、そんなサクセスストーリーを夢見ていた一人というか、まだまだ諦めてはいないので、目に付いた屋台料理を片っ端から買い食いしちゃうのは、無駄遣いじゃなくて研究のためだと言い張っておく。これは将来への投資だ。

 やっぱり、味噌味や醤油味の料理は王都では珍しいみたいだから、これで一旗揚げられると思うんだけどなぁ。


 食べ歩きながら市場をぐるっと一周する頃には、満腹とはいかないものの腹八分……否、腹七分くらいにはなった。

 まだお昼前なのに、結構お小遣い使っちゃったなぁ……。屋台の軽食は安価なものばかりとはいえ、塵も積もれば中々の金額になってしまう。

 国から支給された支度金が丸っと小遣いとして残しているが、こんな調子で使っていたら、金貨十枚の大金でもあっという間に使い切ってしまいそうだ。

 以前エルトおじ様が「小遣いなんて、いつの間にか無くなってますよ」と、若干遠い目をしながら断言していたけど……今更ながらに納得した。

 なるべく貯蓄しておきたいんだけど、なんかもう無理そうなので竜騎士団のお給金は死守して、お小遣いはお小遣いとして、大事に使おう。

 うーん、でもせっかくの大金がほぼ全部食べ物で消えていくっていうのは、つまらないしもったいないな。

 どうせならお金があるうちに、多少値が張っても有意義な買い物をした方がいいかも。

 とりあえず腹ごなしついでに、市場じゃなくてちゃんとしたお店の方を見てみようか。……そういえば、服もまだ買ってなかったよ。





「……ん?」


 ずらりと並ぶ大通りの店を一通り見ていると、とある店が気になり立ち止まる。

 ランタンを持つ竜の装飾が施された店の看板には『魔道具屋・マリーフィア』とあった。

 おお、これが魔道具屋かー。初めて見た。

 魔道具は、動力部分に魔石さえ入っていれば、魔力なしの人間でも使えるとても便利なアイテムだ。

 まぁ、用途は色々あるんだけど、ざっくり言えば家電みたいなものかな。

 でも、残念ながら魔道具も魔石も高級品なので、一般家庭にはそう普及していない。

 魔石は竜持ちならば入手が容易なので、魔道具は主に竜持ち家庭と一部の裕福層のみが使用している高級アイテムだ。私も一応貴族の子だから、小さな頃から魔道具は使っていた。

 そんなわけで、魔道具屋は一般市民はそうそう立ち寄らない高級店なので、店構えも相応に立派というか……歴史のある老舗店って感じの佇まいだ。小娘一人で気軽に入るのは、かなり勇気がいるな。

 まぁ、気になるから入っちゃいますけどね!

 カラコロというドアベルの音と供に、店の中に入ってみる。

 そこそこ広い店内だったが、お洒落なランプやインテリアの他にも、何に使うのかよく分からない魔道具が、商品棚や壁の端に所狭しと置いてあった。天井からも、様々な商品が吊されている。

 魔道具って種類が多いから、どうしても雑多になっちゃうのかな。

 ベルの音に誘われてか、一頭の小型竜が店の奥からひょっこりと顔を覗かせた。可愛いな。

 小型竜はこちらに近寄ってきて、フンフンと鼻を鳴らした。


「こんにちは?」

『…………ギャッ』


 声をかけたら、小型竜は急にビクッと身体を揺らして短く叫び、すぐに店の奥へと引っ込んでいってしまった。フラれた……。

 挨拶しただけなのに、何故か怯えられて地味にショックだ。


「――ああ、いらっしゃいませ」


 小型竜が引っ込んでいった店の奥から、店主らしき小柄なご老人が出てきた。その後ろには、先ほどの小型竜。

 店主の陰からちょこんと顔だけ出して、こちらを覗っている……つもりなんだろうけど、小型とはいえ店主さんより身体が大きいから、隠れてない、隠れてないよ。

 怯えてプルプル震える小型竜に、私何かしたかな……と、心配になってしまうが、小型竜の様子など気にしていない店主に「何か、ご入り用ですかな」と話しかけられて、我に返る。


「あの私、王都に来たばかりで、魔道具屋って初めて見たので気になってしまって……色々見てもいいですか?」

「もちろんどうぞ、お嬢さん。私は店主のジェムリカラングです。こちらは愛竜のマリーフィア。気になるものがあれば、遠慮なく訊いて下さい」


 なるほど、屋号が愛竜の名前だったのか。

 魔道具など縁のなさそうな田舎者にしか見えないので、最悪の場合追い払われるかもと思ったが、店主は人好きのする笑顔を浮かべて、私を店の奥へと案内してくれる。

 さらには、客が私以外にいないからか、興味を引く魔道具があると、丁寧に一つ一つ魔道具の説明をして貰った。いい人だ。


「――ああ、それは通信用の魔道具ですね。これは対になっている物同士で、遠く離れていても会話が出来るという品です」

「へぇ、なるほど……」


 対の魔道具限定だから、携帯電話というよりはトランシーバーみたいな機能か。

 こんな便利な魔道具、初めて見たよ。


「竜騎兵団や竜騎士団なら、もっと高性能の通信用魔道具を使っているから、お嬢さんもそのうち訓練で使いますよ」

「あー、そうですかね……って、え?」


 何で私が竜持ちだって知ってるの。

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。店主は「店に入った瞬間に、大体分かりますよ」と、さらりと言った。


「冷やかしだけで入ってきたお客さんは、竜持ちじゃなければ店に入ってうちのマリーを見た瞬間、早々に店から出ていってしまう方がほとんどですからね。お嬢さんはマリーに近寄られても、一切怯まず堂々としたものでした」


 まぁ、竜が多い王都とはいえ、なんの心の準備もなく急に竜に近づいてこられたら、一般の人は怯むのかな。

 マリーフィアも、小型とはいえ竜は竜。近くでよく見たら、やっぱり顔怖いしなー。


「それにね、マリーは他の竜よりずいぶん臆病な子でして……マリーの怯えた様子を見るに、お嬢さんの愛竜はマリーよりもかなり大きそうだ」


 竜は人間が竜と魂を結んでいるかどうか、なんとなく分かるらしいけど、マリーフィアはその性格故か、その人間の愛竜の大きさまで嗅ぎ分けてしまうらしい。


「小型竜ほど大型竜の気配に敏感で、大型竜は気にも止めないのがほとんどですが」


 だから、あんなに私に怯えてたのか……。

 そしてうちの璃皇は、そういうのは一切気にしないタイプだな。


「そういえば最近、東の辺境伯の所のご令嬢が大型竜と結んで、竜騎士見習いになったとか……」

「あ、ははははは……」


 バレバレじゃないですか。


「こういった商売ですからねぇ。新たな竜持ちの噂なんかは、できるだけ耳に入るようにしているんですよ」


 そうでした。魔道具屋って使う人間が限られてるんだから、新規の大口顧客になりそうな人間の情報には敏感ですよね。

 ただ、ちょっと話しただけでここまで見抜くのは年の功ってやつなのかな……。都会の商人怖いっ!

 人のいい店主さんだと思ったんだけど、だんだん妖怪みたいに見えてきた。性別不明なところとか特に。

 ジェムリカさんって、お爺ちゃんでもお婆ちゃんでも、こういう人いるよねって感じで、さっきから微妙に性別気になってたんだよね。服装とか声からでも、判別不能。

 本人にどっちか訊くのも、なんだか失礼だし。ううむ、謎。


 店主はそのまま飄々とした態度を変えることなく、引き続き丁寧に商品説明をしてくれた。そのおかげで少しだけ、最新の魔道具に詳しくなった。

 魔道具か……色々見ちゃったら、つい欲しくなっちゃうな。

 これっていう品があれば、お小遣いの有意義な使い方として、いいかもしれない。

 いっそ、前世の知識を活かした、特注の魔道具とかさ!

 ……どれだけ費用がかかるのか、想像するだけでも怖ろしいけれど。また今度お店に行って、色々相談してみようかな。

 それにしても、店を出る時「魔道具をご入り用の際は、是非当店にご相談下さい」と、笑顔で送り出してくれた店主は、本当に商売上手だと思う。






「……で、何で貴重な休みが同僚の尾行になるんだ?」

「あはは、余計な気を回した結果だねぇ。教官たちにちらっと言ったら、『心配だから、見守ってこい』って命令されちゃったし」

「何も、こんな全員でゾロゾロ尾行する必要は無いんじゃないか?」

「一人で尾行とか絶対嫌だし、端から見たらヤバい奴だろ。皆で尾行なら万一バレても誤魔化せるし、休みが潰れるのも一蓮托生だ!」

「まぁ教官たちが小遣いもくれたし、屋台料理をつまみながら遠くから見守るだけだからなぁ」

「……初めて屋台料理というものを食べたが、この串焼き結構美味いな」

「侯爵家の坊ちゃんめ……いっぱいお食べ」

「ほら、こっちの揚げパンも美味いぞ」

「……うーん、リルファが下着を買うとか言わなきゃ、普通に一緒に廻ったんだけどなぁ」

「異性の同僚の下着買う場に居合わせるとか……」

「無理だな」

「無理無理」

「マジ無理」




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