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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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32.夜会の余興・前編



 レイオリュエル王太子殿下が、王都へと帰還してから早三日。

 今夜は急遽、王宮で視察から帰ってきた者たちへの慰労の夜会が開かれることとなった。

 帰ってきてすぐに、レイオ殿下除く全員が酒で潰れるような飲み会やったでしょ……と思ったが、今回はちゃんと正装して国王陛下にも労って頂く、正式な夜会なのだそうだ。

 何でも、王都へ帰還する十日位前までは、殿下の機嫌がかつてないほど最悪だったらしい。

 今現在はころっと上機嫌なのだが、見た目だけ上機嫌で腹の底では……な事態に備えて、とりあえずご機嫌伺いで夜会を開催することになったという。

 そんな噂が、竜騎士団内全体に流れていた。

 ……殿下って、お酒の妖精じゃなくて祟り神だったのかな。殿下に対する周囲の怯えっぷりが凄い。

 でも、先日の飲み会に参加できなかった者たちの「殿下と飲み会……ずるい!」という声も多くあったそうなので、殿下の謎のカリスマ性が新参者の私にはよく理解できない。

 一応私も、まだ正式には殿下に挨拶出来ていないので、今日の夜会に参加することになっている。

 他の見習いたちも「また高級肉出るかな?」とか言っていたので、参加するようだ。まぁ、寮生活じゃ滅多にお目にかかれない高級肉をみすみす逃す訳ないよね。

 とにかく、無事に夜会を乗り切れるように、祈っておこう。






「あら、貴女が新しい竜騎士かしら?」


 前回の夜会と同じ大広間に着き、早速とばかりに立食スペースで今夜の肉を漁っていると、凄く迫力のある美女に声をかけられた。

 鮮やかな真紅のドレスを身に纏った美女は私を見て、赤茶色の眼を細めた。

 肉感的で迫力のある美女なのだが、特に胸部が豊満で、同性なのに視線が胸の方へいってしまいそうになる。

 ここのところむさ苦しい男だらけの生活が続いていたので、急に見知らぬ美女に話しかけられて動悸が激しくなった。


「あ、はい。そうですが」


 戸惑いながら応えれば「やっぱり!」と嬉しそうに顔を綻ばせた美女に抱きつかれた。


「ああああのっ?!」


 顔が! 胸に! 胸にっ……!

 固まったままリアクションの出来ない私に、美女は抱きついたままバシバシと私の背を豪快に叩きだした。痛いデス!


「あー、ごめんなさいね。仲間が増えて、つい嬉しくって!」


 美女に「若い子可愛いー」とか言われながらぎゅうぎゅう抱きしめられるって、これは一体何のご褒美なのか。

 同性同士だから許されるスキンシップだよね。

 これが異性だったら、完全にアウトだ。女で良かったぁ。


「……君たちは、何をやっているのかな?」


 謎の美女に抱きつかれるがままにされていると、新たにやって来た人物が呆れた様にこちらに声をかけてきた。

 男性用の正装に身を包んだその人は、細身で長身だが、どう見ても女の人だった。

 ……うわぁ、男装の麗人だ。


「あら、今日はその格好なの?」

「今日は旦那がいないからね。ドレスは動きづらい」

「旦那はその辺にいるけど、私もそっちにすれば良かったかしら」

「……ディッドが泣くぞ」


 美女の知り合いなのか、こちらを余所に会話を続ける二人。

 男装の麗人と迫力美女が並ぶと、とてつもなく豪華で……何となく某女性しかいない歌劇団を連想してしまう。

 前世、中学・高校と女子校で女子にモテていた私が断言する。この二人、女子校で凄く女子にモテるタイプの人たちだ。

 男装の麗人もさることながら、迫力美女の方も性格がさっぱりしていて姉御肌っぽい、憧れのお姉さまとして崇めらていそうな感じだ。

 現に、先程から周りの女性陣たちからの熱い視線をチリチリと感じている。

 私はこのお姉さま方とは無関係なので、変に目をつけられる前にさっさとこの二人から離れたいところだ。

 それにしても男の方が多いはずなのに、恋する乙女の視線が美女二人に注がれるって……哀れ、男共。


「――えーと、何の話だったかな?」

「そうそう、竜騎士見習いよ! 私たちの可愛い後輩よ!」


 回避する間もなく、気が付けば美女に再び、ぎゅうぎゅうと抱き寄せられていた。


「ああ、やっぱり君がそうか。私は、オーシェスカルデ・フィア・ベルージェス。一応、先輩竜騎士ってやつかな?」


 茶目っ気たっぷりにウィンクしながら、自己紹介する男装の麗人ことオーシェスカルデさん。その辺にいる男共より、麗しい上に格好良い。

 でも、あれ、え、先輩竜騎士って……!


「そういえば、まだ名乗ってもなかったわねぇ。私は、アンジェドーレ・ガイ・バラディーンよ。数少ない女性竜騎士同士、よろしくね」

「数少ないというか、現役はこの場にいる三人だけなんだけどね」


 やっぱり、女性竜騎士の先輩だったか!

 初めて顔を合わせる女性竜騎士の先輩たちに、テンションが一気に上がった。


「あのっ私、リルファローゼ・リオ・ヴァリエーレです。よろしくお願いします!」


 これでやっと、右を見ても左を見ても汗臭い男共かラスボス顔の大型竜しかいない状況から脱出出来る!

 こちらのそんな内心が伝わったのか、先輩竜騎士たちは「しばらくは王都にいるから、女の大型竜持ち同士、何か悩みや相談があればいつでも聞くからね」と、実に頼もしく請け負ってくれた。

 二人ともつい最近まで、あのレイオ殿下と一緒に各地を廻っていたのだとか。


「今回の視察は、色々と勉強になったからいいんだけどね……まさか、殿下の女除けにされるとは思わなかったよ」

「あら、若い()たちとたくさん話せて、楽しかったじゃない」

「うーん、そうなんだけど、女同士のやり取りとは、大分違った気がして……旦那もいる身としては、かなり複雑だったから」


 苦笑するオーシェスさんに、アンジェさんが妖艶に微笑んだ。


「ふふ、それもまた一興でしょ? 殿下の負担も減るし、役得じゃない」


 あ、コレは女の子も惚れるわ。

 ……この人たち、天然のたらしって奴だな。

 目の前で繰り広げられる、どこか倒錯的な別世界のやりとりに、ついていけそうにない。

 殿下がこの二人を女除けに使ったのも、頷ける。

 現に今も、独身の竜持ち男性を尻目に、年若いお嬢様集団に囲まれた二人は「一緒に踊って下さいな」とせがまれ、あっという間にダンスが出来る広間の中央へと押しやられてしまった。

 ドレス姿のアンジェさんだが、構わず女同士で踊るらしい。

 これで二人とも、ちゃんと異性の旦那さんがいる、立派な既婚者なんだよなぁ。

 何故か私まで一緒に踊らないかとお嬢様たちに誘われたが、まだ挨拶が済んでいないからと丁重にお断りしておいた。


「またね、リルファちゃん」

「今度、ゆっくりお茶でも飲みましょう」

「あ、はい。また今度」


 うーん、将来一人前の女性竜騎士になったら、私もこの二人みたいになるのかな……?




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