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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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30.適性魔法



 今日の午前の座学は、算術だった。

 結界魔法の細かい計算式や飛行時の移動時間に距離の算出の仕方、果ては領地経営にも必要になってくるので、竜騎士にとって算術はかなり重要な科目だ。

「大体、勘で何とかなるぜ」っていう、フェオン教官の言葉は信用してはいけないので、話半分に聞いて真面目に授業を受ける。

 だがこの算術の座学、結構かったるくてキツかった。

 バリバリ理系の人が解くような計算式ばかりで、村にいた頃とは全然勝手が違う。一気にハードルが上がってしまった。

 簡単な計算だけだったらまだ自信があるんだけどね。……これもう、算術っていうより数学レベルだよ。

 現役女子高生を強制終了してから十四年以上経ってるので、複雑な数式とか勘弁して欲しかった。

 たとえ現役バリバリの頃でも、元々大学はスポーツ推薦でどこかの体育大学に滑り込めればと考えていた人間なので、お察し下さい。

 それでも、何とかギリギリ講義についていけているのは、エルトおじ様による突貫お貴族教育のおかげだろう。


「ワタシの講義に集中しない輩は、この吹き矢の餌食となりますよ」

『なりますよー』


 愛用の吹き矢をちらつかせながら数式を黒板に書き出しているのは、フォルクトヴァリー・ジュエ教官。現在、竜騎士見習いたちの指導をする教官たちの中で、唯一の竜騎兵団所属の小型竜持ちだ。

 本来なら算術の座学は、龍術師が教えるのが適任なのだが、いつも通りの仲の悪さを発揮した結果、特別に竜騎兵団から抜擢された人材の様だ。

 ひょろっと貧弱ともいえる体格のフォルク教官は、竜持ちとしては珍しいタイプの神経質そうな学者タイプの男性だった。

 剣が昔から絶望的に使えなかったそうで、試行錯誤の末に見つけ出した武器が“吹き矢”だったそうな。最小限の力で敵を屠れる、というのが良いらしい。

 算術というか数学オタクなフォルク教官は、少しでも長く数の世界に浸りたいからと、長寿目当てで竜持ちを目指した変わり者だ。

 教官の愛竜のジュエスリーブは、小さい身体でちょこちょこと雛の様に教官の後を追いながら、教官の語尾を真似していた。


「一つの計算違いが命取りになります。結界魔法が発動せず、隣国にでも攻め入られたら目も当てられませんよ!」

『あてられませんよ!』


 ……小型竜って、どうしてこんなに可愛いんだろう。大型竜とはまた別の可愛さがあって、たまらないな。

 講義中に気を散らしたら、すかさず寄ってきて牙をガチガチ鳴らして威嚇してくるのも、また可愛らしかった。どんなに威嚇されても、個人的にキツイ座学の唯一の癒しだ。

 集中していないと宣言通りに容赦なく吹き矢を飛ばしてくるだろうから、今日も頑張って一つでも多くの数式を覚えよう。





 外は小雨が降っているが、多少濡れても大型竜持ちは風邪を引かない強い子だからと、今日も容赦なく野外で飛行訓練を終えた後、外にある魔法演習場でいつも通りの訓練だ。

 室内の魔法演習場もあるのだが、力加減が壊滅的な見習いたちは室外の方で訓練を行う事が多かった。

 待機している龍術師も「書類が濡れる! 湿気る!」と文句を言いながらも、雨除けのある隅の方のスペースに収まって書類仕事を続けていた。相変わらず、下手に突いたらいけない雰囲気を放っているな。



「……うーん」


 的を前にして、思わず自分の掌をまじまじと見つめてしまう。

 水魔法から始まった、風魔法以外の他属性の魔法訓練は、一向に上手くいっていなかった。

 ここ数日練習していた、地面から岩を出したり植物を生やしたりといった魔法も、非常にしょぼい結果に終わってしまった。どうやら、地魔法系の魔法の才能も自分には無いらしい。

 まさか、フェオン教官みたいに風属性の魔法だけしか使えない……なんて事ないよね?

 まだまだ試していない属性の魔法も多いとはいえ、段々不安になってくる。

 フェオン教官を見ている限りは、風属性だけしか適正がなくても特に支障はなさそうだが、やっぱり他属性の魔法も使えた方が、攻撃パターンも増えて色々と便利そうだった。

 魔力量の関係上、風魔法の練習の他に一日一種類程度しか他属性の魔法を試せないのが、痛いところだ。

 水魔法が今一でも、水魔法の応用にあたる氷魔法は結構使えるとかあるらしいけど、中々全部は試せない。

 もっと長期的に構えればいいんだろうけど、ついつい焦って愚痴りたくなる。



「適正魔法? ぼ……俺も色々試したら、結局雷撃とか結構珍しいのが適正だったよ。ほら、こんな風に――――」

「ちょ、待て待て待てっ!!! 今電撃放ったら、最悪全員死ぬから! 雨降ってるから!」


 電撃魔法を放ちそうになったダリュンを、必死で止める。

 小雨で濡れた身体に電撃魔法とか……距離が離れていても、濡れた地面伝って感電するだろうが!

 いくら竜持ちでも、強力な電撃魔法に耐えきれるか分からないし、試したくもないよ。

「あ、そっか。ごめーん」って、可愛くテヘペロしても、お前周囲の人間殺すところだったからな。

 ……感電死とか、マジで洒落にならないよ。


 ――さて、今日は何の属性魔法にしよう。もちろん、電撃以外で。

 しばし思案する。

 水魔法も地魔法も、色々応用しても使えそうにないな。手ごたえが無さ過ぎる。

 出来れば、全然違う属性を色々と試してみたい。

 うーん、魔法といえば光魔法とか闇魔法とかかな?

 光魔法は、ピカッと眩しい光を浴びせるとか。それとも、破壊光線的な奴もありか。

 ……何か、都市消滅レベルの危険なイメージしか出てこないんだけど。万が一成功したら怖いので、却下しておこう。

 闇魔法とかは……今一どういう魔法かイメージし辛いな。

 目潰しするみたいに視界を闇に染める的なのとか……?

 あれか、暗黒なんちゃらみたいな、厨二全開の技名が出てきそうな攻撃をイメージすればいいのか。こっちは、光魔法とは別の意味で危険なイメージだな。

 ……光・闇魔法は、どうしても他の属性が出なかった時の、最終手段でいいか。

 あ、そういえばまだ、王道中の王道の属性を試してなかったかも。


「ジェリオ教官ー!」


 新しい属性の魔法に挑戦する前には、必ず教官の許可を貰ってからが決まりなので、近くにいたジェリオ教官に声をかけた。


「今日、火属性の魔法に挑戦してみたいんですけど」

「火属性かぁ……」


 いつもは軽く「いいぞー」と、簡単に許可をくれる教官だが、何故か今日は渋い表情になった。


「火属性は、暴走させたら周りの被害が酷いからな。……まぁ、今日は雨も降っているし、そうヤバい事にはならないだろう。気を付けて、ちょっとずつ魔力を注ぐんだぞ」


 あー……確かに、火の扱いは細心の注意が必要か。

 でも、小雨とはいえ雨が降っている今日だからこそ、挑戦するチャンスなのかもしれない。天気の良い日だったら、まだ許可が下りなかっただろうし。


「はい、気を付けます」


 とりあえず、マッチを擦った位の火から始めれば、もし暴走してしまっても大惨事とかにはならないだろう。

 いつもの要領で、掌に魔力を集中させる。

 風属性以外は、しょぼい魔法しか放てないとはいえ、段々とこの作業には慣れてきた気がする。魔力を集中させる時間が、ほんの少しずつだけだけど、短くなっていっていると思う。

 ――うーん、マッチじゃ流石に弱過ぎるかも?

 マッチに灯る火を脳内にイメージしてみるが、今までの他の属性の失敗例を考えると、もう少し強めの火のイメージじゃないと発現しないかも。

 ……蝋燭の火くらいにしておくか。それでもかなり弱いけど、仕方がない。

 その判断を、一瞬で後悔する事となった。


 ポッでもボゥッでもなく、ゴォウッという効果音付きで飛び出した、青白い焔。炎っていうより、焔。

 明らかに、マッチとか蝋燭の可愛いらしい火じゃない。火炎放射器レベルだ。

 もっと赤とかオレンジの、普通の蝋燭に灯る火を思い浮かべてたのに……どうしてこうなった。

 青白い焔は、目の前の的を両隣の的まで巻き込んで、灰も残らぬ勢いで燃やし尽くした。

 そういえば、火って青とか白っぽい方が、高温で火力があるんだっけ……?

 やばい。的以外に燃え移らなかったのが奇跡だ。雨がどうとか関係なく燃え続けてるし。怖いよ何これ。

 想像以上の威力に、マジでビビってしまった。


「おー、凄ぇな!」

「今度はあっちの的に、もう一回当ててみな?」


 どん引きする私をよそに、教官たちは平然ともっとやれと言う。

「感覚忘れないうちに、もう一度やった方がいいよ」と促されても、ちょっと魔力込めただけでこの威力だったから、もう一回やって前回以上の威力が出たらと思うと、かなり勇気がいる。ちょっと一回落ち着きたいんですけど。

 しばらくグズグズしていたら、「結界強化したので、やるならとっととやって下さい」と、龍術師まで口を出してきたので、渋々もう一回挑戦してみた。


 今度はマッチの火くらいのイメージで魔法を放ってみたのだが、見事に先ほどと同じ様な、立派な火炎放射級の青白い焔が放出された。

 ……どうしよう、大して威力が変わらないよ。

 しかも、魔力の消費も相性が悪い属性の魔法より少なくて済んでいるのか、まだ少し余裕がある。

 いつもだったら後一発位攻撃魔法を試したら魔力が尽きる感じだけど、この威力だったらもう何発かいけそうだ。


「火ぃ、青いなー」

「そういえば昔、緑の焔を出す竜騎士がいたような……?」

「あー、いたいた」

「記録では、黒い焔を操る龍術師もいましたね」


 何それ、超見たいんですけど。

 結構いろんな色の焔やら光線やらを出す竜持ちたちが、過去にいたようだ。

 焔が青白いのしか出なくても、ちょっと珍しいだけで何ら問題はなさそうで安心した。

 その内、暇な時にでも過去の竜騎士や龍術師の記録を色々調べてみるのも面白そうかも。


「わぁ、何か綺麗な色出てるね。威力も強そうだし、良いなー」

「でっしょー!」


 ダリュンが言う通り、他の竜騎士の火魔法よりも威力強そうだし、私ってかなり火属性の魔法とは相性が良いみたいだ。

 という事は、璃皇も同じく青白い焔を吐くのかな? ……格好良いな!

 火は少しでも力加減間違えただけで、大惨事になりそうで結構怖いんだけど……まぁ、攻撃力とか他の属性よりも高そうだし、慣れれば問題無いか。

 とりあえずは、風属性以外の適性があって、ラッキーって思っておこう。




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