28.謁見式と夜会・おまけ
フェイルもどきが去った後、予定通り璃皇の様子を確かめる事で、荒ぶる心を無理矢理落ち着かせた。
昼間からずっと庭園で昼寝していたらしい璃皇は、鱗を撫でたらぱちりと片目を開けてこちらを見たが、まだ少し眠そうだ。かわいーなー。
璃皇はグアァッ……と盛大に欠伸をした後、私の方へと顔を向けた。
『……んーリル、何か怒ってる?』
「怒ってるけど、大丈夫」
『ふーん? 喧嘩や殺し合いなら、手伝うからね』
「ありがとう。でも、手伝いはいらないから」
やるなら、自分でやるから大丈夫だよ!
とはいってもガチでやっちゃうと大問題なので、璃皇の鱗を撫で回して心の安寧を図った。
まさか社交界デビューの日に、衝動のまま王城を破壊する訳にもいくまい。そんな事やらかしたら、速攻で首刎ねられるから!
うーん、やっぱ璃皇を撫でるのが一番落ち着くなぁ。
ドレスじゃなかったら抱きついて、もっと豪快に撫で回せるんだけどなー。今日は我慢だ、我慢。
……とりあえず、フェイルを捕獲しに行かなきゃ。
「フェイルリート!」
荒れていた心も大分落ち着いてきたので、璃皇と別れて大広間に戻り、真っ先に目的の人物を捜し当てた。
フェイルはずっと立食スペースにいたのか、おかわりのステーキの他にも、新しく追加された料理を大量に自分の皿に盛っていた。
「急に何だ。……これはやらないぞ。自分でよそえよ」
こちらに不審そうな目を向けながら、皿を庇う仕草をするフェイル。
正直、料理もちょっと気になるけど、違うってば!
やっぱりあのフェイルもどきは、フェイルと同じ顔なのに雰囲気とか表情が全然違うな。
フェイル本人も、まぁ……基本的に塩対応であまり褒められた態度じゃないんだけど。
何ていうか、根は真っ直ぐ突っ走る真面目君だから、腹黒とか陰険とかいう言葉とは無縁だ。正々堂々、正面から殴る典型的な大型竜持ちタイプってやつだ。
服装の方も、フェイルもどきもフェイルとほぼ同じような正装をしていたから一瞬騙されたんだけど、よく見れば細かい部分のデザインだとかがところどころ違った。非常に紛らわしい。
「さっき、フェイルそっくりな生き別れの双子の兄弟みたいな奴に会ったんだけど……心当たりない?」
私の言葉を聞いた途端、心当たりがあったのか、うんざりした表情をするフェイル。
心底嫌そうに、溜息を吐いた。
「……ああ、あいつに会ったのか。別に、生き別れてない」
「うん?」
「フェアルリーン・ミュカ・マルクィス。非常に不本意ながら、俺の双子の兄だ」
フェイルは眉間に皺を寄せ、苦々しさを多分に含ませた声を出した。
「……兄弟仲、悪いの?」
「世の双子が、全て仲好し小好しだと思うなよ。とにかく、あいつとは昔から気が合わない」
即答で返される。
こいつは……重症かもしれないな。
私たちのやりとりを聞いていた、他の見習いたちが話に入って来た。
「否、お前ら……少し前に一度だけ飛行演習で組んだ時、合図無しで色々やってただろ」
「……あの程度、誰でも普通に出来るだろ?」
「出来ないよ!」
「普段仲悪いクセに、あーいう時だけ息ピッタリなのな。お前ら、実は仲良いだろ」
「断固否定する」
きゃいきゃい言い合う見習いたち。……そろそろ、突っ込んでも良いかな?
「えーと、フェアルリーンも竜持ち……って事だよね?」
名前的にも同じ竜持ちだろう事は分かるけど、竜騎士じゃないのは確かだし、中型竜持ちとかなのかな。
フェイルの眉間の皺が、更に深くなった。眉間の皺、クセになるぞ。
「……龍持ちの、龍術師見習いだ」
あー、ああ。うん。何か納得した。そりゃ、見た事ないはずだわ。
竜騎士と龍術師は、基本的に何故か仲が悪い。
喧嘩防止のため、龍術師と竜騎士の使用するあらゆる施設は、それぞれ別にされていてあまり普段の生活で顔を合わせずに済むようになっている。寮はもちろん、修練場から食堂までだ。
竜騎士の食堂に龍術師が紛れ込んで一緒に食事をしている姿を見た事があるので、そこまで険悪な仲って訳でもないみたいだけど。
エルトおじ様も身内に竜騎士が多いからか、竜騎士に対しても割と友好的な態度だしね。
「――どうせあいつ、口説いたり失礼な態度とったりしたんだろ」
と、まるで見ていたかの様に言い当てたフェイルは、自らの皿にあるまだ手をつけていなかったステーキを新しい皿に取り分けてくれた。
まさか、あのフェイルが貴重な高級肉を差し出すとは……。双子の兄のせいで、色々と苦労していそうな事が伺えた。
とりあえず、ステーキは遠慮なく頂いておいた。




