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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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28.謁見式と夜会・後編



 ――――あ、割と普通の舞踏会だ。


 先ほどガル爺たちに、残念な夜会の片鱗を見せつけられた為か、大広間に足を踏み入れた瞬間、映画の中の様なキラキラした世界の光景に、感動よりもまず”普通”という感想を持ってしまった。

 会場となる大広間は、魔道具による照明が惜しげもなく使われいるおかげか、昼間のように明るく、高い天井に吊された豪奢なシャンデリアが燦然と輝いていた。

 女性たちのドレスも、それぞれ華やかかつお洒落で目に楽しい。

 ここのところ、ガチムチか細マッチョな野郎共しか周囲にいなかったから、目の保養だ。女の人って可愛いし綺麗だし、やっぱ良いなぁ……。



 ダンスホールとなっている大広間の中央では、すでに気の早い男女が数組、楽しそうに踊っていた。

 もう少し人が揃ってきたら、あの中央の方に新人が一度集められ、軽く紹介された後にパートナーと初ダンスを披露するそうだ。

 それまでは先に軽く踊ったり、立食スペースで食事を摂ったりと、皆それぞれ気楽に楽しんでいるみたいだ。

 そしてよく見たら、立食スペースが私がイメージする普通の夜会とは、明らかに違っていた。というか、よく考えれば当然の光景が広がっていた。


 立食スペースは、大広間の奥の方にどどんと設置されていて、大広間の中でも特に人で賑わっている。

 バイキング形式で大皿に盛られた料理を、自ら皿に盛りつけるという料理がほとんどなのだが、メインとなる人気のメニューには給仕専門の使用人が何人も張り付き、皆に平等にいき渡るように調整しているようだ。

 今日は夕飯の他に夜食の分もこっちで食べられるかなと思ったけど、十分な量を確保するのはかなり厳しいかもしれない。

 賑わう立食スペースの様子を見て、急に不安になる。

 先ほどから、平たい大皿を持った体格の良い男たちが、立食スペースの端から端までを、まるで檻の中の飢えた猛獣かの様にうろうろと行ったり来たりしていた。

 見知った顔がちらほらいるので、あの人たちの大半は竜騎士に違いないだろう。

 まだ本日のメインであろう肉料理が出されていないというのに、この状態である。

 竜騎士の他にも、小型・中型竜持ちの竜騎兵団まで入り乱れているのだ。大型竜持ちよりもやや控えめといえど、彼らも立派なフードファイター。

 この先、本格的に主菜や人気の副菜が並べられたら、確実に戦争になるな。給仕の人も、笑顔だけどどこかピリピリしてるし。

 ……あー、うん。割と普通じゃなかったわ。

 男性陣だけじゃなく、見た目上品そうな貴婦人のお嬢様奥様方も、堂々とお皿に料理を山ほど盛りつけている。人気メニューを男性に貢がれているお嬢様方も、何人かいるな。

 やっぱり私も、ダンスの前に何か食べたておきたいな。

 ドレスアップの最中にちまちまと軽食を口にしていたけど、足りない。あの程度で、私の胃袋は満たされないよ!

 早速真っ白なお皿を手に取り、目に付いた料理を次々と盛りつけていった。




 夜会料理、最高!

 いつも食べている竜騎士団の料理とは、比べ物にならない高級料理の数々。

 竜騎士団の料理も、ちゃんと専属の料理人たちが丹精込めて作ってくれるからちゃんと美味しいんだけど、質より量! とにかく量が大事! とばかりに、普通のお店では絶対に入ってないだろうキャベツの芯なんかも、平気でスープに浮いている。よく煮込んであるからほくほくしてて美味しいんだけどね、決して高級料理とは呼べない。

 次は何を食べようかな……と、エルトおじ様とワルツを踊りながら気もそぞろに思案する。

 貴族の皆さんへの挨拶を無事に済ませ、現在初めてのダンスの最中です。

 特訓の成果で、考え事をしながらでも高めのヒールでダンスが出来るようになりました。リードの上手いエルトおじ様のおかげとも言えるけど。

 元々、ダンスだけならガル爺やイーヴァソールに小さい頃から軽く教わってたから、高いヒールにさえ慣れれば何も問題はなかった。

 挨拶の前に一度侍女さんたちに回収され、口元を中心に化粧直しをされたので、まだまだ美少女リルファさんを維持している。

 内心はさておき、完璧な社交界デビューだ。

 一緒に踊っている他の新人さんたちも、緊張しつつもたまにちらっと立食スペースの方に視線を向けている。だよね!

 ダンスが一曲終われば、本日のメインとなるお肉料理がやってくる。

 牛肉である事はどこからか漂ってくる匂いで確定しているので、先程から会場内の話題は、牛の産地予想が中心だった。肉の焼ける匂いだけで産地を嗅ぎ分けるって、どんだけだよ。

 ……もうこれ、今日の主役は牛肉じゃないかな?




 結局、もう一曲を今度はガル爺と踊った後に、ようやく立食スペースへと戻る事が出来た。


「よ、お疲れ!」


 立食スペースの一角に、竜騎士見習いメンバーが勢揃いしていた。

 そういえば私のデビューのために、今夜の夜会は見習い竜騎士たち全員出席だったっけ。

 身内や知り合いが新人デビューでもない限り、毎回夜会に出席するわけではないらしい。

 普通に授業もあるし、夜会のために魔法訓練免除なんて、滅多にないみたいだものね。


「あ、そのドレス……東の方の新しい製法で作られた生地かぁ。綺麗だねぇ」


 ダリュングレットが笑顔で褒めてくれるが、完全に商売人の目線だ。流石は、商家のお坊ちゃん。

 生地だけじゃなく、私本体も褒めて欲しかったな!


「……今日初めて会ってたら、何も知らずに騙されるところだったな。女の化粧ってすげぇ」

「うるっさいよ、アルシェ。……それ、こっちの台詞でもあるからね」


 普段の見習いの制服とはまた違う夜会用の正装は、それぞれ凝った衣装で凄く格好良かった。

 全員、高級な服も着慣れているのか、堂に入っていてよく似合っていた。

 もしこれが皆との初対面だったら、ちょっとときめいていたかもしれない。もうそんなときめきが発生する事は皆無だが。

 まだ出会って数日の短い付き合いとはいえほぼ一日中一緒にいるし、長時間の食事中にそれなりに世間話もするので、お互いの人となりは大体分かっている。

 餓えた獣状態の食事風景やら色々と残念な生活を共有していると、ときめきよりも仲間意識の方が芽生えるのですよ。


「もうお肉食べた?」

「おう。何とか全員、一皿ずつ……な」


 本日の主役が配置されているであろう、立食スペースの一角を見れば、案の定人だかりができていた。

「皆様、順番に……順番にお願い致します!」という、給仕の人であろう声も聞こえる。


「リルファも早く食べた方が良いよ! 昨日の肉とは、もー全然違うから!」


 そうしたいのは山々だけど、あそこに突入するのは勇気がいるな……。

 躊躇していると、人だかりの中からエルトおじ様が抜け出してきて、こちらの方へとやって来た。

「リルファの分ですよ」と、どうやったのか自分の分と私の分のステーキを携えてきたエルトおじ様、GJ過ぎる!


「ワシの肉は?」

「自分で取ってきて下さい」

「ワシの肉……」


 という、祖父と孫のしょっぱいやり取りは、聞こえないフリをした。

 話題のお肉は、ソースはかかっているが極々シンプルなステーキだった。

 ステーキは結構分厚くて大きめで、一口サイズに切っていないので、立食のメニューにしては不向きだなと思ったが、ソースと肉汁がドレスにこぼさないように気を付けつつ、とりあえず齧り付いてみた。

 ……うわ、うわぁ! 何これ、簡単に噛み千切れる!

 ナイフとか、全然いらない。すっごい軟らかいお肉だ。

 噛むほどに、上品な牛の脂が口の中に広がっていく。焼かれていたから気付かなかったけど、きっと良い霜降り肉だったに違いない。

 これは……A5ランクの黒毛和牛肉にでも匹敵しそうだ。


「……昨日の肉は何だったの」

「安くていっぱい食べれる肉」

「ですよねー」


 昨日の夜食のバーベキューのお肉を思い出す。

 脂身も少なくて硬かったけど、まぁ……あれはあれでお肉の味を楽しめたかな。朝のうちに食堂のおばさんに頼んでいたので、十分な量のお肉があったし。

 他にも鶏肉や豚肉に羊肉、野菜もいっぱい焼いて、見習いたちの腹を満たす事が出来た。

 もちろん、焼きおにぎりもやったよ! 醤油も味噌も、見習い仲間たちに好評だった。

 そして、皆でわいわい楽しんでいたら、酒樽と追加の肉を抱えた大人たちがやってきたのだ。

「おじさん、火をおこすの上手いんだぜ」と、火と鉄板を周囲に追加され、一人また一人と増殖してく竜騎士たち。

 ノンアルコールの健全なバーベキュー大会だったのに、一気に一人一樽の酒を抱え込んだ大人たちに乗っ取られてしまった。

 最終的には「お前ら明日早いんだから、お子ちゃまはもう寝な。後片付けなんかはやっとくから」と、見習いたちのバーベキューは強制終了となった。

 酒樽の中身はそれぞれまだ半分以上は残っていた様子だったので、きっと大人たちは朝までコースだっただろう。

 面倒な片付けとかしないで済んだのはラッキーだったけど、今後も夜食のバーベキュー大会を開催するのかは考え物だな。次からは、最初から大人も参加してそうな気がする。

 夜会では流石に酒樽を持ち込むわけにもいかないので、酔っ払いもいなくて一部の立食スペース以外は非常に平和だった。料理に合わせた軽い葡萄酒やシャンパン等が出るだけだ。

 竜持ち――特に大型竜持ちの毒やアルコール類の耐性が極めて強いという体質的に、アルコール度数の強い火酒でも樽単位で呑まなければ酔っ払えないからだ。

 見習いたちで常に情報交換をしながら、ステーキ以外の人気の低いメニューを次々と攻略していき、隙をみてステーキもおかわりを貰う作戦で何とかお腹も満たされてきた。

 今日は魔法訓練がなかった分、そんなに酷い空腹感はないので、いつもよりずっと少ない量で済みそうだ。

 やっと人心地つき、一旦食事を中断して先程から気になっていた案件を片付けておく事にしよう。



「――ちょっと璃皇の様子見てくるね」


 皆にそう告げた後、璃皇が待つ庭園へと行くことにした。

 今日はお披露目の夜会なので、新人の愛竜も夜会へ連れてくる事になっているのだ。

 小型竜だったら一緒に大広間を回る事も可能なのだが、流石に璃皇サイズになると広間には入らないので、謁見式に引き続き庭園にいて貰う事になった。

 大広間のすぐ外が庭園なので、ここからでも璃皇の様子は伺えるのだが、やっぱり心配だった。


「璃皇に舐められて、ドレスが台無しにならないようにね」

「分かってる!」


 もしこのドレス姿を舐められたら、竜騎士団到着の時どころじゃなく悲惨な状態になるので、本当に気をつけなければ……!



 夜会中解放されている硝子戸から外に出れば、すぐに庭園へと出る事が出来た。

 普段よりも長いドレスの裾を踏まないように、慎重に歩を進める。

 ドレスに本物の宝石を縫いつけているんだから、木登りどころか歩くのですら気を使うよ。

 もし一粒でもどこかに落としたらって思うと、さっきから全然落ち着かないんだけど……!

 下をちらちら見つつ庭園の石畳を歩いていたが、ふと目の前に視線を向ければ、見知った後ろ姿があった。

 あの特徴的なミルクティー色のふんわり髪は、フェイルリートだと思うけど……あれ、さっきまで大広間で一人黙々と夜会料理貪ってたよね?

 瞬間移動でもしたんだろうか。……って、そんなわけないか。

 私がドレスの扱いでもたもた歩いている間に、近道でもして追い抜いていったのかな。


 声をかけようとしたら、先にこちらの気配に気づいたフェイルが、振り向いた。


「…………え?」


 思わず、声が漏れる。

 フェイルが――あの、反抗期まっただ中で副団長以外の周囲に対してツンデレのツンしかみせないフェイルリート・リュカ・マルクィスが、私と目を合わせた後、にっこりと愛想良く微笑んだ……だと?!

 お前、さっきまでステーキ食べている時以外は、安定の不機嫌塩対応だったよね?!

 愛想の良いアイドルスマイルのまま近づいてくるフェイル。


「やあ。凄く綺麗なドレスだね。可憐な君に、凄く似合っているよ」


 誰だお前!

 開口一番の口説き文句に、顔がひきつる。腕にぶわっと鳥肌たったぞ……!

 他人の空似にしては何もかも似過ぎているが……まさかの二重人格?


「えーと、フェイルリート……じゃない、よね?」


 これ、絶対別人でしょ……。と、確かめるように問いかければ、フェイルそっくりな少年は、こちらに向けていた人懐っこい笑顔から一変、片眉を器用に上げて皮肉気な笑みを浮かべた。

 何だこいつ……。変わり身早いな。


「ああ、あいつの知り合い? あいつの同年代の女の知り合いっていうと……最近竜騎士見習いになった、東の辺境伯のところの御令嬢、か」


 ふーんと、じろじろと頭の天辺から爪先まで、不躾なまでに観察される。

 嫌な視線だ。反抗期でも、根は真っ直ぐなフェイルとは全然違う。


「……何だ。よく見ればあんた、化粧で誤魔化してるだけか。()の好みではないな」


 一頻り観察した後、馬鹿にするように笑ったフェイルもどきは、結局名乗る事もせずに「またな」と、大広間の方へと去っていった。



 ……何だ、あいつ!


 何だあいつ!!!



 こっちが思考停止している間に、言いたい事だけ言って逃げやがった!




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