表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/57

26.見習い生活・おまけ



「ほーら、どんどん食えよー」


 見習いたちのテーブルに、竜騎士たちが空になった皿を下げ、おかわりの料理を次々と置いていく。


「んむっ…………」


 食べ物口に入れたまま喋るのはお行儀悪いなと思い、そのままペコペコお辞儀したら「ははっ、礼なんていいから、腹一杯食べな」と、どんっとサイコロステーキの様なお肉が、たっぷりと盛られた皿を目の前に置かれた。ベテラン竜騎士、マジイケメン。

 追加のパンが来たので、フェイルと争っていたパンは半分こにして、平和的に治める事が出来た。


 食堂のおばちゃんたちは料理を作るのに忙しいので、夕食時は面倒見のいい竜騎士が、席を立つ余裕のない餓えた見習いたちにと料理をテーブルまで運んでくれるのだ。ベテラン竜騎士とか、皆さん高位貴族のはずなのに……何なんだろう。

 微笑ましいといった表情で「大きくおなりー」とか言われながら給仕されているが、もうされるがままだ。野鳥の雛鳥のごとく、与えられた食べ物をせっせと頂いている。

 多分、竜騎士たちはこれでプチ親気分を味わっているのだろう。もしくは、ペットの飼い主気分か。

 外の店で食べてきた別の竜騎士たちも、デザートを買ってきてくれたりする。

 完全に、餌付けされてます。



 それにしても、もうかれこれ三時間は食べ続けているっていうのに、まだ足りないってどういう事だ。

 以前、エルトおじ様が「食べる分くらいは、働かなきゃ駄目ですよ」と、ちらりと言った言葉がグサグサ心を抉る。

 短時間で魔力切れになって、とんでもない量の食事で補っているこの現状。食べた分、何にも返してないよ。

 竜騎士見習いを戦場に出さない理由が、よーく解った。戦地で兵糧を一瞬で喰い尽くすわ、コレ。

 一応、身体が魔力に慣れて力加減もコントロール出来る様になれば、魔力の節約が出来るので、魔力切れの飢餓感や食事の量ももう少しマシになるそうだ。日常的に人やら椅子やらが飛んでくる食事風景を見るに、何一つ信じられないが。

 魔石を使えば魔力を補えるそうなので、大規模な攻撃魔法もドカドカ放てるらしい。だが、魔力の塊である魔石を下手に扱えば、手の中で魔石大爆発などの惨劇しか生み出さないので、魔力のコントロールを完璧にマスターする事は、見習い竜騎士の最優先事項である。

 つまりは、毎日この飢餓感と戦い続けなければいけない。

 こんなことなら、謁見式まで王都にあるヴァリエーレ家の別邸でまったりしておくべきだった。

 どっちでもいいみたいだったけど、どうせ入るんだし、早い方が馴染みやすいよなと、直行で竜騎士団へと来てしまった事が悔やまれる。

 数日の差だけど、後三日くらいはこの苦しみを知らずにすんだのにっ!

 どうせなら、王都見学の一つでもしてからにすればよかった……。




「あーもー、おばちゃん牛肉焼いたやつ! おかわりっ!」


 先ほど椅子をぶん投げて粉砕した竜騎士が、声を上げる。まだ、肉で喧嘩してたのか……。


「今日の分は終わったよ」


 芋の皮を剥いていた食堂のおばちゃんが、手を休めることなく無情な宣告をした。


「鶏肉と豚肉なら、まだあるけど」

「ちーがーうー! 牛肉の気分なんだよぉー!」


 テーブルを叩いて駄々をこね出す竜騎士に見習いたちは声に出さずに一斉に『うわぁ……』という顔をした。面倒臭い大人だ。


「そうは言ってもねぇ、最後の牛肉はさっき見習いさんたちのテーブルに運ばれていったけど……」


 そのおばちゃんの言葉に、見習い全員が皿の上にまだ少しだけ残っていたサイコロステーキを速攻で口に入れた。

 いやー、だってこっちのテーブルにあった貴重な牛肉だし、見習いはまだ外の店にまで、休日でもないのに食べに行けないし、ねぇ。

 その様子を見ていた竜騎士の一人(最後の肉を奪った人)がゲラゲラ笑えば「元はといえばっ、お前の所為でええぇぇ!」と、殴り合いの喧嘩が再開した。当然ですな。


『なになに、けんか? ころしあい?』

『手伝う? 手伝っちゃいますぅ?』


 相方の興奮を感じたのか、それぞれの愛竜が食堂の窓から割り込んできた事で、その場は治まった。


「いやだなぁ、喧嘩なんてしてないよ」

「そうそう、俺らってば超仲良しだもんなー」


 と、胸倉を掴み合っていた体勢から、速攻で肩を組み合い仲良しアピールをする二人。

 愛竜がこうして『手伝うー?』ってやって来た時点で、竜持ちの争いは強制終了である。

 大型竜同士が暴れ出したら、王都どころか国が滅亡する事だってありえるのだ。

 大昔、大型竜持ち同士の夫婦による理性がぶっ飛んだ夫婦喧嘩の末、国を滅ぼしたという伝説級の事例が実際にあるので、本当に洒落にならない。

 こういった事情から私闘禁止の竜騎士世界なのだが、まぁ不満を溜めに溜めての大爆発も怖いので、愛竜が参戦しようとした時点で終了出来るなら、この程度の喧嘩なら“ちょっとしたじゃれ合い”としてお目こぼしされている。


「外で食べてくるわ……」

「……一杯、奢るぜ?」

「おう」


 それで手打ちにしたのか、先ほどまで殺気立っていた二人が、仲良く肩を組んだまま食堂から出て行った。

 明日は明日でまた別の喧嘩をするかもしれないが、遺恨を残さずにさくっとその場で仲直りして終わらせるのが、竜騎士同士の付き合い方だそうだ。

『相手に不満があるのなら、とりあえず正面から殴れ』というスタイルなので、権謀術数渦巻かない健全な貴族社会なのは大変良い事なのだが――――


「……肉片一つで、毎日の様に国家滅亡の危機に陥ってるってのは、どうなんだろうね」

「…………それは、言うんじゃない」


 私の呟きに、片手で額を押さえたフェイルが、苦渋の表情で首を振った。

 ……まぁ世の中、一般の人は知らない方が幸せな事って、沢山あるよね。うん。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ