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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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26.見習い生活・中編



 グダグダで終わった訓練の事はスパッと忘れて、次は座学のお時間です。


「良いかぁ、野郎共……と、嬢ちゃん。竜の強さはその個体の大きさに比例するって事はもう常識だろうが、体格によって竜が好む戦闘の型や知能の高さが一目で判断出来る。今日はざっと、その辺の話をおさらいな」


 今日は、訓練に引き続きフェオンラガン教官が座学も飛行訓練も更には魔法訓練も担当する。つまりは、丸一日って事ですな。

 結構その都度担当する教官が違ったりするので、一日中同じ教官ってのは初めてだ。

 座学からは、副教官兼フェオン教官のお目付役的な役割のジェリオウィーザ教官も部屋の隅に控えている。


「まずは龍の特性だな。………まぁ、ぶっちゃけ竜との違いなんざ巻き付き攻撃をするかしないかしかねぇな。よし、龍については以上だ!」

「端折り過ぎだ。もっと色々あるだろっ!」


 と、こうして適当な事をぶっこく教官が多いので、座学にも訓練にも必ず副教官がいるのだ。

 まぁ、教官も副教官も教師として修練されている訳でもない、ただの先輩竜騎士なので、教え方も結構皆適当だ。

 専門の教官がいても良いんじゃないかと思うが、見習い竜騎士のいない期間が数十年単位であったりするので、わざわざ専門の教官を育成するよりも、その時暇な竜騎士にやらせる方が良いらしい。

 知識のおさらいにもなるので、爵位を授与したり上がったりする前の研修代わりに、見習いの指導教官経験は必須なんだとか。


「ちぇっ、えーと何だったか……あー龍な。龍は防御型ともいわれているが、攻撃面においては速度重視の速攻型だ。いかに素早く獲物に飛びかかって巻き付くかというのを極めた結果、あの細長い体型になったとされる。龍のガチの攻撃の時は、翼を折りたたんで極限まで空気抵抗をなくし、矢みたいに真っ直ぐ獲物に突っ込むから、要注意な。まぁ、相棒背中に乗っけてたらまずやらんが。身体の細さを追求した分物理的防御には弱いが、変わりに防御魔法を特化させて補っている。あ、後は頭の良い個体が多いか。……と、こんなもんか?」


 フェオン教官の意外にも分かり易い説明に、ふむふむと頷きつつ簡単にメモをとっておく。後で、ノートに纏めよう。

 それにしても、龍チート過ぎるな。弱点らしい弱点って、物理防御低めなだけじゃん。

 フェオン教官の後を引き継いで、ジェリオ教官が口を開いた。


「補足するとだな、小型の龍がいないのは『獲物が自分より大きいと返り討ちにあい易いから、小さくて弱い個体は竜の巣で淘汰されている』という説と『単純に卵の時に魔素(まそ)を充分に吸い取れている個体だけが龍の体格になる』という説が、代表的な説だな」


 竜(龍)は、大地に染み渡る“魔素”と呼ばれる魔力の源みたいなエネルギーを卵の時に大地から吸い取り、孵るそうだ。

 魔素の量は場所によって差が大きいので、産み落とされた場所によっては、成長に大きな違いがでるらしい。

 たとえ親が大型竜の卵でも、吸い取った魔素の量が少なければ、孵ってからほとんど成長しなかったり、逆に親が小型竜の小さな卵から孵った竜が、膨大な量の魔素を吸い取り中型竜程度にまで成長するとか。

 竜と龍は、どちらも同じ種の生物といえるそうだ。手足が短い犬猫の種と同じ様なものだ。ただ、戦闘スタイルの違いや頭脳の格差とその希少性で、龍は数多あまたの竜たちと区別されているのだ。

 もちろん、竜との交配も可能。一説では、両親が竜でも龍が生まれる場合もあるとか。

 濃すぎる魔素は魔力の耐性のない人間には毒にしかならないので、魔素の濃い竜の巣には、決して人間は近寄らない。魔力耐性のある竜持ちならばと思うかもしれないが、竜の巣では竜同士による熾烈な縄張り争いが日々行われている訳で……死ぬ覚悟がなければ、たとえ竜持ちでもまず一生行かない土地だろう。

 そんな訳で、竜の巣での観察記録はほとんどないのが現状だが、歴代の物好きによるほんの少しの記録と竜(龍)たちの自己申告によって、大体の仮説は成り立っている。


「龍の巻き付き攻撃に対抗するために、首や胴を短く太くしていったのが、攻撃型の竜だ。物理的防御にはめっぽう強いが、防御魔法はちぃと苦手だな。飛行速度も龍より遅い。攻撃型っていわれるだけあって、攻撃魔法と物理魔法はどっちも得意だ。むしろ、敵を見たら攻撃することしか考えてねぇな。龍よりも思考が単純っていうか……扱い易くて可愛い性格だぜ」


 あ、うちの璃皇のことですね。

 首も胴も太い璃皇は、バリバリの攻撃型だ。

 そういえば璃皇、エルトおじ様の愛龍のライラゼシュカを追いかけ回してて、キレたライラに尻尾でばっちーんと頬を叩かれても全くの無傷だった。むしろ、もっと構ってとばかりに、懲りずにライラを追いかけ回し続けていたな。

 それにしても、攻撃型の竜も龍に負けず劣らずのチートだけど……アホの子がデフォなの?


「で、この両方の良いところを取り入れたのが、均衡(バランス)型の竜だな。攻撃型より首も長くて胴回りも細い奴だ。飛行速度は龍ほどでは無いが、攻撃型よりずっと素速く、物理と魔法の攻守も威力は落ちるが均衡がとれていて、状況によって応用の利いた戦いが出来る。個体差はあるが、攻撃型より知能も高めだな。均衡型の体格の竜が、全体では一番多いらしい。まぁ、龍と攻撃型の竜にあてはまらない体格の奴をまとめて均衡型にしてるから、当然なんだけどな」


 ふむ、ってことはヴィル爺は均衡型か。

 璃皇より首細長くて、全体的にシュッとしてるもんね。頭も良いし。

 何気にヴァリエーレ家、全種揃ってるな。

 この場にいる見習いたちの愛竜は……と、ちらりと窓の外を見る。

 赤銅色の鱗とオレンジ色の鋭い眼が、こちらを熱心に覗いていた。何だろね、このデジャヴュ。

 現在見習いの教室を覗いているのは、アルシェルークの愛竜のレイスフィナード。毎回テンション高めで『やったるぜ!』っていう猪突猛進タイプの、璃皇と同じ攻撃型の雄竜だ。

 他にも、見習い仲間の攻撃型の竜はダリュングレッドの愛竜のセリジスレンドがいるが、こちらはどちらかというと相棒に似たおっとりとした性格で、後ろから攻撃受けたら、十数秒後に気づくタイプだと思う。ちなみに、蜂蜜色に銀朱の縞模様の鱗をしている。

 教室を覗き込んでいたレイスの顔が引っ込み、しばらくドスドスと地響きを立てた後、今度は黒、深緑、緑、明るい緑の斑……いわゆる、迷彩模様の鱗の竜が顔を覗かせた。

 ラディルアーシュの愛竜、フォンゼルベリスだ。

 こちらは、均衡型の竜に分類されるだろう。寡黙なのか、まだ喋った姿を見たことがないが、どっしりと落ち着いている性格は、ちょっと璃皇にも見習ってほしいところだ。

 しばらく中の様子を伺っていたフォンゼルの顔が引っ込み、またドスドスと地響きを立てた後、新しい顔が現れた。

 フェイルリートの愛竜、空色と白い鱗を持つリュカルマリカだ。

 竜の中で紅一点の雌竜なので、よく見習いの竜たちにちょっかいを出されているが、ライラよりも容赦ない尻尾攻撃で黙らせている。

 リュカルとは、紅一点同士仲良くしたいけど、人間はフェイル以外はどうでもいいとばかりにほとんど相手してくれない。今度、鹿でも差し入れしてみようかな……。

 リュカルが顔を引っ込めて、次に地響きを立てて顔を出したのは――璃皇だった。

 うん、授業中ずーっと、見習いたちの愛竜が代わる代わる教室の中を覗き込んできて、授業参観状態です。

 ちょっと覗いて交代、ちょっと覗いて交代っていう感じで、非常に(せわ)しない。

 しかも、複数の大型竜がウロウロしてるもんだから、常に地面の揺れを感じている。こりゃ、震度二か三だな。

 わりと毎回こんな感じの授業風景なので、誰も一々反応しないけど、やっぱり落ち着かない。あまりにも煩いとフェオン教官が竜たちにぶち切れてくれるから、何とか授業を受けられている状態だ。

 今日も、結構順調に授業内容を消化できていると思う。

「お前等……竜の尻尾があたって、建物崩壊とかたまにあるから、防御魔法はいつでも長時間発動出来るように、死ぬ気で覚えろよ」というフェオン教官がふと漏らした言葉に、戦慄したけどね!



 ……午後の魔法実技、頑張ろう。




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