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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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23.突貫お貴族教育・後編


 ――――カンッと木剣と木刀を合わせる、軽くても硬質な音が修練場に響く。


 ガル爺とエルトおじ様による、剣の稽古の時間。

 現在私と対峙している相手は、エルトおじ様だ。

 こっちは全力で木刀を振るっているというのに、先程からおじ様は片手で軽く往なしているだけ。

 殆どその場から動いてすらいないって、自分との実力差をまざまざと見せ付けられて、かなり屈辱的。

 先程ガル爺と手合わせした時の瞬殺よりかは、遥かにマシなんだけどね。あの爺、村の子供達に剣を教えている時はそれなりに手加減していたのに、私に対してはいきなり一切手加減無しだったよ。

 あー、でもエルトおじ様はじわじわ嬲ってこっちの実力測ってる感半端無いから、おじ様の方がある意味鬼畜か?

 そんな事が頭を過ぎっただけで、その一瞬の隙を突いて、気付けば木剣の先が喉元に。

 咄嗟に動きを止めて事無きを得たが、後数cmでも前に飛び出していたら、喉が潰れていた事だろう。

 冷や汗が、背筋を流れる。


「ふぅ……まぁ、そこそこ使えるって所でしょうね」


 木剣を下ろし、思案しつつもそう評価するエルトおじ様は、息一つ乱していない。

 対して、こちらは息も切れ切れといった体だ。


「………ありがとう、ございました」


 ほんの一瞬集中力を欠いただけで、勝負がついてしまった。

 圧倒的な実力差があるというのに集中力を欠いた私が悪いが、やはり悔しいものは悔しい。

 でも何とか、剣術に関しては、早々に及第点を貰えたようだ。まぁ元からある程度は出来たので、貰えなきゃ困るんだけど。

 それでも今回こうもあっさり負けてしまったのは、竜持ちになる前と後とでは、感覚や力加減とかが全然違うからだろう。

 今までに体験した事の無い速さで繰り出されるエルトおじ様の太刀筋を、目で追えてしまえる自分。

 ギリギリでそれをかわして、反撃する自分の太刀筋もまた竜持ちになる前とは段違いで速く―――正直、自分の身体の変化に戸惑っているだけで、終わってしまった。

 ちょっと飛び退いたつもりが、一瞬の内に5m位後ろに下がっていて、壁に激突しそうになるっていうのは、マジ焦る。

 ……力加減、早いとこ慣れなきゃなぁ。かなり長期戦になりそうだけど。


「それにしても、本当に今まで誰にも師事した事が無いのですか?」

「ガル爺に教えて貰えなかったから……たまに幼馴染み相手にしてただけで、ほどんど我流だよ」

「うーん……僕の経験上、我流が一番使い物にならないというか、弱いんですけどね」


 それはまぁ、よく解ります。

 前世でも幼少の頃、当時通っていた空手の道場にある日、ヤンキーっぽい……いかにもやんちゃしてます系のお兄さん達が数人、道場破りにやって来た。

 「流派ぁ?オレ達の考えたぁ、最強の喧嘩道でぇっす」とのたまうお兄さん方を、道場の若い衆が取り囲み「よし、体験入門だな!」と、懇切丁寧に一人一人軽く手合わせをして、あっと言う間にボロ雑巾の様にしていた。

 「覚えてろよぉ!」とのお決まりの捨て台詞と共に、逃げる様に去っていったヤンキー達。

 何故かその後、その内の一人が門下生として道場に入門し、何をどう指導したのか、数年も経たぬ内にすっかり改心して真人間になり、綺麗なお嫁さんも捕まえていたという、後日談もあるが。

 武術ど素人が思いついた“僕(私)の考えた、最強の武術”が、総じて使いモノにならないっていうのを実感したのか、はたまた道場に突撃して見事返り討ちにあった黒歴史が恥ずかしいのか、その元ヤンキーの兄ちゃんは「あの時の、俺は阿呆だった。マジ恥ずかしい」と、事あるごとにしみじみと言っていた。


 下手すりゃ数百年かけて確立していった技や型。

 剣術だろうと、同じ事だろう。

 ど素人が下手に手を出して、一朝一夕(いっちょういっせき)でどうにかなるものでも無い。

 なので、ひたすら我流だって言い張っていても「たかが我流で、こんな強くなるとは……」と首を傾げるエルトおじ様を誤魔化すのは冷や汗モノだ。


「………幼馴染み達で、色々実験したから」


 前世がどうのと言い出したら、頭おかしいと思われるだけだろうな。

 私自身、知り合いの誰かが「前世が……」とか言い出したら、頭大丈夫かこいつって思うもの。

 だから、必死で言い訳もしますよ。ええ。


「うむ。流石、ワシの曾孫じゃ」


 ほくほく顔で、うんうん頷いているガル爺。曾孫馬鹿を炸裂させている。

 そんなガル爺のお陰で「まぁ、そんな事もありますかね」と、おじ様にも何とか納得して貰えた。


「力加減を覚えて、更に研鑽すれば中々の使い手になりそうですね」

「楽しみじゃのう」


 うん、化け物染みた実力の2人に「そこそこ使える」と言わせただけでも、私ってば超天才。


 前世の知識を元に独特の型を使う私でも、ガル爺とエルトおじ様とは天と地ほどの実力差がある。

 元々の剣の天賦の才に加えて、大型の竜や龍と結ぶことによって向上された身体能力、そしてそこで慢心する事無く研鑽を云百年と積んでいった結果、出来上がるのは身体も精神も熟成された、いわゆる心・技・体が揃った立派なチート様。


 ちなみに、大型竜持ち・龍持ちは20代前半から半ばの―――身体能力が全盛期の頃に成長が一旦止まり、200歳を過ぎた頃からまたゆっくりと老化していき、個人差はあるが、800歳から1000歳程で寿命が尽きる。

 肉体の衰えが200年以上は無いってだけで、かなり大きなアドバンテージだろう。

 それだけの年月があれば、凡人でさえそれぞれの流派の元にこつこつ鍛錬すれば、人外な強さになる事も充分可能だ。

 そして竜に選ばれる人間は、武芸に秀でている人が総じて多い。


 私が見慣れない動きで仕掛けて、ちょっと意表を突く程度は出来ても、すぐに軽く往なされてしまう。経験値が、違い過ぎる。

 大型竜と結んだとはいえ、まだ竜持ち初心者で力加減も上手く出来ない私がその域に達するのは、後何十年……否、何百年後なんだろうか。

 普段馬鹿やっていても、流石は貴族として国を護っているだけある。マジ強ぇ。

 それでも、竜騎士団団長こと王太子殿下とかに比べれば、全然凡人の域を出ない様だ。


「殿下は………もう、別格ですから」


 なんでも、夏至祭の時に毎年王都で行われる、竜騎兵団・竜騎士団合同の武闘大会において、正式に龍術師となってからずっと、もう10年近くも優勝していて、そろそろ殿堂入りだとか。

 見習い卒業したての新人が優勝するのは、当然ながら至難の業だ。

 それを、あっさりと優勝………殿下は一体、どんな世紀末覇者なのか。

 全盛期だったら充分相手になっただろうっていう猛者も何人かいるらしいが、残念ながら老いには勝てず、今一歩のところで押し負けてしまうらしい。


「現在、殿下の相手が出来るのは、副団長位ですかねぇ」


 竜騎士団副団長は、殿下とは20程年が上だそうだ。だが、長命の竜持ちの大雑把な感覚からすれば、充分に同年代の範疇。

 殿下が龍術師となるまでは、その副団長殿が武闘大会優勝の常連で、若手の中で一番の有望株だったとか。

 勿論、今でも充分に有望株で、その証拠に王太子殿下の竜騎士団団長就任と同時に、自身は副団長の地位に納まっている。殿下は例外だとしても、異例の出世スピードだ。

 更には面倒見も良く、実力も生まれながらの地位も有り、若い世代の竜騎士達に人気で、王太子殿下とはまた違う慕われ方をしているそうな。

 話を聞く限りは、普通に良い人そうなイメージだな。最早チート過ぎて、嫌味な位完璧人間だけど。


「殿下の機嫌が悪い時は、彼に防波堤になって貰うのが一番ですよ。大体、殿下の不機嫌を気付かずに殿下の相手をして、そのまま八つ当たりの対象になってくれますから」


 そんな、パーフェクトなエリート副団長を、エルトおじ様は、さらっとそう評価した。

 それだけで、普段の副団長に対する年長者からの扱いが伺える。

 慕われて無いってワケでは無いんだろうけど、齢数百歳のベテラン竜騎士&龍術師にとったら、実力は別にしても、まだまだ子供みたいなものなのだろう。

 「そういえば、この間も殿下にボロボロにされてましたねぇ。若い連中が震え上がってましたよ」と、若者同士の微笑ましいじゃれ合いとでもいう様に、高みの見物を決め込んでいる。

 ………副団長、完全に殿下の被害者じゃん!


「……えっと、上司である副団長を盾になんかして、大丈夫なの?」


 いくら年下の上司だからといっても、貴族社会や騎士団なんかの組織って、そういう上下関係厳しそうなイメージなんだけどなぁ。

 前世のイメージをまだ大分引き摺っているから、私の常識の方が間違ってそうだけど。

 そんな私の心配も、あっさりと否定される。


「大丈夫、大丈夫。本人鈍いから、八つ当たりされても全く気にして無いから」


 「っていうか、気付いていないのが殆どだからね」と、カラカラと笑うエルトおじ様。

 ………副団長の事、一瞬でも“嫌味な位完璧人間”なんて思ってごめんなさい。




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