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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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21.セレブのお買い物・後編

(璃皇―――……璃皇!)


 心の中で強く呼びかければ《……ん、なーにぃ?》との応答が、脳内で響く様な不思議な感触。


(ちょっと、こっち来て)


 そう念じてみると、《わかったー!》との返事と共に、地響きを立てながらすぐさまやって来る黒い巨体。案外、近くにいたのか。


『リル、なぁにー?遊ぶ?遊ぶの?!』


 2階のバルコニーに出ている私に合わせて首を下げ、にぱぁと笑う璃皇。めっちゃご機嫌です。

 うわ、本当に通じたと思いながら、答えを返す。


「あー、遊ぶのはまた今度ね。……この瓶の中で、嫌な香りの奴ってある?」


 テーブルの上に並べられた、色違いの香水瓶を指差し、問いかける。

 青い瓶は柑橘系ベースのさっぱり系の香り、赤い瓶は薔薇をベースにしたほんのり甘いフローラル系の香りと、瓶ごとにそれぞれ趣の異なった香水が入っている。

 やっとこさドレス等の大量注文が終わり、遅くなった昼食を早食い選手の様な勢いで大食い選手の様な量を胃の中に素早く収め、少し一息入れるついでに香水の吟味と相成った。

 とんでもないハードスケジュールだが、この後更に武器なんかを色々見なければいけないので、さっさと選ばなければいけない。

 香水の種類が多くどう選ぼうかと迷っていたら「まずは、愛竜様の好みをお訊きしましょう」との、調香師のアドバイスを元に、こうして璃皇を呼び出す事に。


 心の中で強く呼びかければすぐに応えてくれるとエルトおじ様が言うので、試しにやってみれば本当に出来た。

 結んだ人間と竜は、普段は感じないながらも強い感情を発すれば相手に伝わるという。こうして意図的に、簡単な意思疎通を図る事も可能だ。

 「何かあった時にすぐに相棒の異変を感じる事が出来ると解かれば、長時間顔を合わせず離れていても大丈夫になりますからね。暫くは、こまめに璃皇を呼び出してみて下さい」との言葉に、素直に頷く。

 四六時中璃皇と一緒にいるのは、流石に難しいだろうから、アドバイス通りにこまめに呼びかけよう。


『――――……う~ん、緑と紫のはあんまり好きじゃないかな?』


 フン、と息を一つ吸い込んだだけでそれぞれの香水を嗅ぎ分けたらしい璃皇が、鼻をひくつかせて答えてくれる。

 すっげー嫌な匂いってワケでもないけど、なんか嫌って程度の匂いの様だ。緑の瓶も紫の瓶も、それぞれ趣は違うがスパイシーでクセのある香りの香水だった。確かに、コレは好みの分かれる所だろう。

 香水一つにしても、徹底的に愛竜に気を使う。流石は竜で成り立つ貴族社会。ドレスの色といい、竜至上主義が徹底している。

 まぁ、愛竜に嫌な思いさせるのは本意じゃないから、全然良いんだけどね。ドレスの色だって、大抵の竜持ちは愛竜の持つ色が自分の好みの色になるだろうし。


『あ、でも青いのと赤いのと白いのは、良い匂い。好き!』

「そう?あ、どれも私も好きな香りだ。………じゃあ、これでお願いします」


 先程ざっと嗅いでみて、どれも自分が良い香りだと感想を抱いた瓶だったので、何となく嬉しい。どうやら、香りの好みは同じようだ。

 どれも良い香りなので、思い切って全部お買い上げ。気分で使い分けよう。まぁ、香水よりも同じ香りの石鹸がメインなんだけどね。

 竜持ちって嗅覚も鋭くなってるから、香水は通常よりかなり薄くしたモノを夜会の時なんかに軽く振り掛ける程度らしい。

 普段は、香水と同じ香りの石鹸を使って、ほんのり身体から香るのを楽しむそうだ。嗅覚鋭くなり過ぎて匂いに敏感だったり、香水苦手な人は潔く無香料だそうだけど。

 竜持ち達のこの辺の事情があるから、辺境の村とかでも割とどこも清潔なんだろうな。

 常人より嗅覚が鋭い人達が国を動かしているだけあって、徹底して悪臭を排除している。少し大きな街程度でも、上下水道ばっちり完備らしいし。王都に行っても安心だ。ビバ権力。

 そんなこんなで、香水&石鹸GETだぜ!






 さて、次はいよいよお待ちかねの、武器類購入ですよ。

 いつの間にか散歩から帰って来ていたガル爺も、待たせていた武器屋のおっちゃん達と談笑して待機していた。

 軽くワインなんか開けちゃって、一杯引っ掛けてやがる。普段は貴族っぽい威厳に満ちている応接室の雰囲気が、最早大衆飲み屋状態。

 応接室に入った瞬間、エルトおじさまの額に青筋が浮き上がったので、即刻待避したかったけど、なんとか踏み留まる。


「………お祖父様?」


 説教祭りの狼煙が上がったかと一瞬身構えたが、救いの神は直ぐ様現れた。


(ウチ)の親父が、すみません!本当にすみません!」


 今にも土下座しそうな勢いの青年が、深々と何度も頭を下げていた。

 どうやら、武器屋のおっちゃんの息子らしい。

 武器職人というよりも、商売人向きの体格と物腰の低さだ。聞けば、おっちゃんの次男で、販売担当。今日この場にいない長男が、武器の製造をしている職人だそうだ。


「普段は気難しい親父なんですが、ガルトラント様と盛り上がってしまって、つい………」


 心底申し訳無さそうに半泣きでそう言われれば、流石のおじ様も怒りを鎮めるしか無くなったのか、額の青筋が見る間に消えて、仕方なさそうな苦笑を浮かべた。


「いえ、祖父が無理に勧めたのでしょう。……―――では、早速ですが、見せて頂けますか?」


 どうやら、まるで駄目な親爺達は無視して、さっさと目的を果たす事にしたようだ。

 まぁ、こちらが待たせてしまったのが悪いんだし、別に武器屋のおっちゃんを責める気は端から無かったのだろう。大人の対応だ。


「は、はい!―――お嬢様に合う刀剣でしたら、こちらの細身の刀身の物が宜しいかと思います」


 そう言って差し出された品々を見てみるが、どれも自分の感覚では細く感じる両刃の剣だった。地球ならば、レイピアと呼ばれる品物だろう。

 うーん、レイピアって刺すの専門なイメージだし、強度も弱そうで何か不安だ。


「何じゃ、そんな細くて弱っこい剣なんて、すぐ折れちまうじゃろう」


 否を唱える前に、ガル爺が口を挟んできた。


「ワシのお勧めは……この辺かの」


 そう言って取り出して来たのは、ガル爺が愛用しているモノと同じ位立派な、分厚くて重厚な両刃の剣。

 私が扱うには、明らかに重量オーバーだろう。


「丈夫で折れ難いし、ぶん回すだけで大抵バッサリいけるぞ」


 バッサリって何さ、バッサリって……。

 助けを求めてエルトおじ様を見れば「僕のも、こんな感じの剣ですよ」と、大剣の具合を確かめるかの様に、片手で軽く素振りしていた。ガル爺より細いのに、おじ様ってば意外と力持ち!


「……ふむ、確かに良い品ですね。リルファ、ちょっと振ってごらん」


 おじ様まで大剣バッサリ派だった……!


「ちょ、私にはこの剣は重過ぎるよ!」


 こんな鉄の塊、振り下ろすだけですっぽ抜けるって。

 そう訴えても、「大丈夫だから」と強引に握らされる大剣。

 もう、室内で素振りなんて………どうなっても知らないんだからねっ!

 とは思いつつ、高価な調度品を破壊なんてする度胸は無いので、柄をしっかり両手で握り締めて、慎重にゆっくりと大剣を振り下ろす。

 重さで思わず取り落とすなんて事も無く、腕も震えずにピタリと思った位置で大剣が止まる。


「………あれ?」


 そんなに、重くない?

 何度か上下に振るのを繰り返すけど、疲れも感じない。軽い素材を使っているワケでも無いだろうに。


「大型の竜持ちなら、この位は軽いですよ」


 あー、はい。竜持ち効果ですね。

 竜持ちじゃない一般人と比べたら、本当にチートなんだな。

 まだ全然自覚が無いけど、こうして一つずつ竜持ちになった変化を実感していくのだろう。


「それで、大剣の具合はどうですか?」

「……んー、やっぱり私には大き過ぎるし、今一しっくり来ないかなぁ」


 重量の問題は無くなったが、ほんの少し振っただけでも、大剣はどうにも合わないなと感じた。

 大剣バッサリ派には、なれそうにない。

 やっぱり、慣れた得物が一番なのだろう。


「リリシズ、アレ出して」

「はい、リルファお嬢様」


 リリシズに、先程私の部屋から持って来て貰ったお手製のmy木刀を受け取る。村を出立する時、何本か荷物の中にねじ込んでおいたのだ。


「えっと、こんな感じの太さと長さの片刃のものが欲しいです」


 多少歪だが、木刀製作暦はかれこれもう10年近くになっている。

 現在では、それなりに木刀っぽいモノを作れる様になっていた。


「……これは、リルファが作ったのですか?」

「うん、ガル爺に女の子は剣持っちゃ駄目って言われてたんだけど、どうしてもやってみたくて………」


 しげしげと、皆に観察されるmy木刀。

 上達したとはいえ、所詮素人の作品なのであんまり見ないで欲しい。

 「良く出来てますねー」と誉めてくれるが、本職の人に見せられる代物じゃないので、段々恥ずかしくなってくる。


「片刃ですかー。両刃が主流なので、片刃はあまり有りませんが………ああ、この辺なんかどうですか?」


 差し出された片刃の剣を手に取れば、先程の大剣よりも遥かに扱い易そうだ。

 刀身の長さや太さ、重さからいって、刀と称しても良い位日本刀に酷似している。耐久性と切れ味は知らないけどね。


「ん、これが良いです」


 先程の大剣と同じように、慎重に素振りして、具合を確かめる。

 本当は試し斬りとかした方が良いのかもしれないけど、室内かつドレス姿だし、この際しょうがない。

 ヴァリエーレ家御用達の武器屋なんだし、品質は確かなはずだ。


「では、この木剣も同じ様な品をいくつか作っておきますね」

「とりあえず、木剣20本……剣も同じ物を5、6本作っておいてもらいましょうか」

「かしこまりました。木剣の方は、御申しつけ下さればすぐに10本程度御用意出来るようにしておきますので、全部折る前にお早めに御注文して下さいね」

「え、あの……そんなに大量に必要なの?」


 当然とばかりにされる大量発注に、当惑する。

 木刀とか刀って、そんな使い捨てレベルに脆いモノだっけ?


「竜持ちになったばかりの見習いの頃は、力加減が出来ませんからね……。気を付けていても、ついうっかり色々破壊するのは、日常茶飯事ですよ」

「この歳になった今でも、偶についうっかりやっちゃうがのー」


 エルトおじ様の言葉に頷きながら、豪快に笑うガル爺。それ、ほぼ一生馬鹿力ってことじゃないか!


「こればっかりは、慣れるしかありませんね」


 しみじみと言うエルトおじ様に、こちらの愛想笑いが引き攣る。竜持ち(チート)、超めんどくせぇ。

 ふと考える。ここにもし日本刀レベルで丈夫で良質な剣があったとしても、持ち主が竜持ちだったらついうっかりでボキボキ折っちゃうんじゃないか?

 大型竜持ちの馬鹿力が、どんなレベルなのかはまだ良く解からないけど……もし日本刀でも普通に使っていてあっさり折るレベルなら、自分の戦闘スタイルを考え直すべきかもしれない。

 

「―――……あの、それならもう1本欲しいんだけど」


 とりあえず、咄嗟に思いついた事を口にしてみる。


「同じ片刃で、見た目も同じ感じの………この位の大きさの刀身のモノを予備として常に持っておきたいなって」


 そう両手で示して見せたのは、先程大量注文した刀よりも小さな刀身のサイズ。いわゆる、脇差だ。

 これを、戦闘中に刀が折れた時の予備として、常に刀と共に腰に差しておきたいと思ったのだ。もちろん、切腹用では無い。

 二本差しの、本格武士スタイル。うん、咄嗟の思い付きにしては良い案かもしれない。


「なるほど、同じモノをもう1本常に装備するわけにはいきませんからね」

「うん。それにこの大きさなら、いつも使ってる鉈と同じ位の長さだし、凄く使い易いと思うの」


 むしろ今現在の私は、普通の刀よりも扱いに長けているかもしれない。ほら、鉈1本で猪仕留めるレベルだし。

 将来的に、刀と小刀での二刀流とか極めてみても良いかも。前世で習ってた居合いの流派でも、ちょこっとそんな型もある所だったし。努力次第では、出来ない事も無いはず!

 んふふ、夢が膨らむわー。

 そんな将来設計をうっとりと口にすれば、エルトおじ様は眉間に皺を寄せ、思案気な顔をした。


「片刃の剣で、大小の二刀流……ですか」

「駄目?」

「いえ、非常に面白そうとは思いますよ。まぁ、だからこそ………」

「絡まれるな」


 ガル爺がきっぱりと断言する。何に、絡まれるって?


「珍しい武器や剣術を使っていたりすると、『手合わせしたい』と竜騎士共に絡まれますよ」


 そして、見習いでも容赦無く―――同じ見習い仲間や先輩竜騎士、かなり上の方の者達にまでたっぷり可愛がられるそうな。


「僕がまだ龍術師見習いの頃、丁度竜騎士見習いに(きこり)(せがれ)っていうのが入ってきましてね、一番扱い易いからって大きな斧を武器に選んだら、竜騎士皆群がってましたねぇ……」

「………うわぁ」


 剣主流の竜騎士達の中、ぽんと現れた斧使い。

 武道をやっている者なら、そりゃあ一度は他の得物で()りあってみたいと思うだろう。私もちょっと……否、かなり興味がある。

 そんなこんなで、数ヶ月は新人斧使いさんとの手合わせの順番待ちで列が出来ていたとか。


「まったく、これだから竜騎士は……リルファ、あんな戦闘狂の脳筋達に染まっちゃいけませんよ」

「あん時は、龍術師だって普通に列に並んでたじゃろうが!」

「龍術師達は、時と場所を選んで、節度ある手合わせを挑んでましたよ。所構わずの筋肉馬鹿とは違うんです」

「何をぅ?!このガリ勉がっ!!!」

「ガリ勉では無く、文武両道です!」


 え、なんかいきなり超低レベルな喧嘩が始まった。

 あっと言う間にお互いの胸倉を掴み合って、ギリギリしている祖父と孫。この人達、貴族だよね?

 それより、気になる事が一つ………


「あのー、もしかして竜騎士と龍術師って………仲悪い?」


 片手を挙げてした質問に、ガル爺の胸倉を掴む手はそのままに、エルトおじ様が顔だけこちらに向けた。


「大丈夫ですよ。戦になればちゃんと連携とれてますから」


 メッチャ良い笑顔でそう宣言されたけど、………大丈夫じゃ無いだろソレ。


「竜騎士も龍術師も私闘禁止なので、殺し合いにはなりませんから、大丈夫です」

「今、堂々と私闘寸前までいっている様な気がするんだけど」

「これはのぅ、孫とのちょっとしたふれあい(・・・・)じゃ。決して私闘では無いぞう」

「そうです。祖父とのちょっとしたふれあい(・・・・)です。決して私闘ではありません」


 そうか、ふれあいか。なら問題無いな。

 一気に面倒臭くなったので、睨み合う2人を放置して、小刀と小刀サイズの木刀をいくつか追加注文した。

 二刀流は今すぐどうこうなるレベルじゃないし、暫くは刀が折れた時の予備って事で押し通せば良いだろう。

 それでも珍しいらしい片刃の剣使ってたら、多少は絡まれるかもしれないけどね。両刃の剣を使うつもりは無いので、しょうがない。大小の二刀流で無双状態とか、夢のまた夢だな。



 よしっ、これで今日の買い物終了だー!





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