18.怒涛の2日間・前編
読み辛いので、異世界人でも“璃皇”表記です。
発音は、“リオウ”になります。
大型竜拾っちゃった、テヘヘペロッ☆
――――で、済むハズも無く。
現在、自分が産まれた、ヴォレルアースにある領主の館にて、絶賛事情聴取中です。
神妙な顔をしたエルトおじ様とガル爺に囲まれて、今までの経緯なんかを訊かれるままに素直に答えている。
現在自分達が居る、元ガル爺の部屋で今エルトおじ様の部屋は、花瓶等の調度品に多少の変化はあれど、昔と同じ雰囲気で懐かしい。―――……なんて、そんな昔の感慨にじっくり浸れない程には、部屋の中の空気が重い。
凄く、重い。
もう、村に帰りたいです。
現実逃避とばかりに、璃皇と結んでから現在までの、怒涛の2日間を思い返してみる。
いえね、最初は大型竜と魂結んじゃった事を、なんとか隠して誤魔化そうと、無駄な努力はしましたよ。逃げられるなら、逃げたいもん。
璃皇と結んじゃった後、無事だった薬草やら山菜やら荷物をかき集めて、すぐに人気の無い、村の外れの森の入り口辺りにまで場所を移した。
思えば、あのまま森の奥深くの小屋付近に璃皇を待たせておくか、一緒にどこか遠くの地まで逃亡でもすれば良かったんだ。
あのアホの子璃皇を目の届かない所に置いとくのは不安だったし、置いてこようとしても『嫌だ』って村まで付いて来ちゃったから、まず無理なんだけどね。遠くの地まで逃亡も、いきなりそんな覚悟出来なかったし。
璃皇を座らせ「ちょっといなくなるけど、私が来るまで絶対ここを動くなよ!村には絶対に入って来ないで!」と言い聞かせて、我が家にダッシュ。
涎と泥で全身ドロドロのベトベト状態。当然、布で拭くだけじゃ間に合わず……お風呂の誘惑には勝てなかったんだよ。魔道具式の屋敷の風呂は、すぐにお湯出て便利だし。
我が家であるボロ屋敷に帰ると、当然ミライムモーネとイーヴァソールが出迎えてくれた。
「た、ただいまー」
「お嬢様、お帰りなさいま………どうしたんですか!一体何があったんですか?!」
何故か、速攻で何かやらかした事がバレた。
おかしいなぁ。全身ドロドロはいつもの事だから、スルーされると思ったのに。
騒ぐミライムを他所にぼんやりそんな事を思っていたら、イーヴァに手鏡を渡された。
覗いてみると、まぁ吃驚。
………何で、濃紺色だったハズの眼の色が、瑠璃色になってんの?
こりゃ、ミライムが騒ぐのも無理は無い。
っていうか何コレ、全然気付かなかった。竜と結んだジャイル達の誰も、こんな変化してなかったのに!
そんな疑問を口にする暇も無く、今度は村人達が騒ぐ声が屋敷の中だというのに聞こえてきた。
(まさか……!)
慌てて外に出ると、村全体が何やらざわついている。
若干恐怖で引き攣っている村人の指差す方向をみれば、案の定。
森の木々の上ににょっきりと顔だけ飛び出して村を観察している、璃皇の姿があった。
かなり遠くにいるのにすぐに私に気づいた璃皇は、にぱっと笑顔を見せてくる。
当然、村人からすれば、にぱっと笑顔じゃなくてぐわっと威嚇位の威力があり、それだけでもう村中大騒ぎ。見知らぬ大型竜の出現にグレアムさんとこの婆ちゃんが腰を抜かし、家畜は怯え騒ぎ捲くり、異様な雰囲気を察した赤子は皆ぎゃん泣き。
うん、大型竜を隠すだなんて、土台無理な話でした。
屋敷の庭まで璃皇を呼び寄せて「森で拾った」と、若干パニックに陥りかけていた村人達に簡単に説明した所、「なーんだ」と意外とあっさり受け入れられてしまった。流石は、竜至上主義の世界。
大型竜と結ぶなんてめでたい事だと、野菜やら肉やらお祝いを持った村人達が、屋敷に詰め掛けてプチお祭り状態だ。
『リルに言われた通り、璃皇ずっとあそこにいたよ!エライ?エライ?』
「………あーうん、偉い偉い」
投げやりな私の言葉にも、『ぐっふん!』と満足そうな璃皇。馬鹿は気楽で良いなー。
とりあえず璃皇は放っておいて風呂に入ろうと、屋敷の中に入れば「リルファお嬢様」と、イーヴァに呼び止められた。
なんか、嫌な予感がする。
「今朝方、ガルト様が屋敷へ帰られるとの連絡がありましたので、夕方にはこちらへ着くかと思います」
「うぇ……了解です」
早速か。璃皇見た途端に「捨ててきなさい!」って言われなきゃ良いけど。
あんなに私が竜持ちになる事を反対していたので、反応が恐い。どう切り出せば良いものか。
イーヴァは「私は準備がありますので、これで」と、唸る私を置いてさっさと屋敷の外に行ってしまった。帰ってくるガル爺の出迎え準備の他にも、押しかけてきた村人の対応とか色々やらなきゃいけないからね。仕事増やしてごめん。
………なんか、考えるの面倒臭くなってきた。結んじゃったもんはしょうがないし、なるようになるでしょ。
いい加減、お風呂入るか。
「はぁー、さっぱり!」
風呂から出ると、相変わらず村人達が屋敷の周りに屯していた。
璃皇の様子を見れば、他人に威嚇するタイプでは無いらしく、ある程度の距離で村人が見学するのを許している。
個別に相手はしないまでも、村の子供達の「すっげぇ!」「かっけぇー!」等の声を意識している様子で、恰好良く座り直したり意味も無く翼を広げて見せたりと、サービス精神旺盛だ。
なんていうか……解かり易い奴だな。ドヤ顔やめろ。
「リルファ」
「ん?おー、お疲れ」
声をかけられて振り向けば、村に残っている仲良しグループの年長組が何人か。
「そっちがお疲れだろ」との突っ込みには、曖昧に笑うしかない。
「………まぁ、何だ。見事に大物釣り上げたな」
璃皇を見て、多少引き気味にうんうん頷いている。
竜瀬の儀も受けて無いのに、いきなり大型竜GETとか、軽くドン引きですよね。
「ごめん、商会なんだけど……」
「解かってる。……いつかやるとは思ってたから、覚悟はしてた。まさか大型とは思わなくて、負けたけどな!」
ん、何だそれ?
訊けば、ジャイル達が竜持ちでリルファが竜持ちじゃないというのはおかしいという事で、以前から軽いトトカルチョの対象になっていたらしい。賭けるなよ。
「ま、俺らは俺らで何とかやるから、心配するな」
「……うん、まかせる」
とは言ったものの、正直不安。
出来そうなら、商会のスポンサーにでもなって裏から商会運営にちょいちょい口出すか。
そんな事を密かに決意しながら、今の内にと貯めていた商会設立資金と無事だった高級薬草や山菜を渡しておく。小さいけど、市場で売ればそこそこの値段になるハズ。
お祝いを持ってきてくれる村人達に挨拶をしていたら、あっと言う間にガル爺が帰ってくる頃になった。
「良い?ヴィル爺とは喧嘩しちゃ駄目だからね!」
ガル爺達が帰ってくる前に、璃皇によく言い聞かせておく。
こんな小さな村で怪獣大戦争とか、洒落にならない。
『えー……解かった』
璃皇は不満そうな顔をしながらも、渋々頷いた。
『じゃ、殺し合いは?』
「絶対、駄目!」
コイツ、全然解かってねぇ!
不機嫌な唸り声を漏らし続ける璃皇。
このままヴィル爺と対面したら、いきなり噛み付きそうだ。
「そんな事したら、また口の中に骨ぶっ刺すからな!」
そう脅した途端、唸り声がピタリと止まる。
よっぽど苦しい思いをしたんだろうな。『しょ、しょうがないなー。我慢するよ』と、必死に骨ぶっ刺しの刑を逃れようとしている。
よし、暫くはこの手で操縦出来そうだ。
後は、ガル爺達の帰りを待つだけとなった。




