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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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14.落とし穴



「………おじ様も懲りないねぇ」

『ぐりゅ?』


 森の奥深くにある山小屋まで届いた、エルトおじ様からの相変わらずの手紙の内容に、若干呆れる。

 またしても、王都への旅行のお誘いの手紙だ。

 2年前の竜瀬の儀の時に初めて来てから、誘い文句に若干の変化を付けつつ、こういったお誘いの手紙が定期的に来るようになった。と言うか、最近手紙が来る頻度が多くなって来た気がする。


『へんじはー?』

「あ、今書くからちょっと待ってて」

『りょーかーい!』


 ここまで手紙を届けてくれたセシルキアラに慌てて答え、断りの返事をさくっと書いて渡す。


『じゃーねー!』


 用は済んだとばかりにさっさと飛び立ってしまったセシルは、今日も可愛かった。

 これが相棒のディーヴァルクト付きだったら「お嬢様、その恰好は婦女子としていかがなものかと」と、くどくどと説教を垂れてくるので、セシルだけのさっぱりとしたやり取りは有り難い。

 更に、ディーヴァにまで隙を見ては王都まで行かないかと誘われるのは、本当に困る。しかも、こっちは直接顔を合わせて言われるので、毎回断るのもしんどい。

 もういい加減、諦めて欲しい。


 手紙といえば、竜持ちになって旅立って行った幼馴染3人組は、滅多に手紙を寄越さない。

 あいつら……出立前の「いっぱい手紙書くからね」のやり取りは、転校前のお約束のアレだったのか。友達甲斐の無い奴らめ。

 まぁ、村を出て行ってから一度も帰省をしていないので、想像以上に忙しいのかもしれないけど。

 便りが無いのは元気な証拠、と思っておこう。


「―――……さて、と」


 セシルが来て、狩りをするにも中途半端な時間になってしまった。

 今日は軽く森で薬草採って、栽培している珍しい薬草や山菜の面倒見た後、最近サボりがちだった鍛錬でもじっくりしますか。

 早朝に野兎を一羽仕留めたので、今日の自分の食事は問題無いだろう。






 森の奥深くであるこの辺は、村人も滅多にやって来ないので、堂々と鍛錬出来るので凄く便利。

 習ってもいない剣技とか、流石にガル爺とかに見られるワケにはいかないし。

 仲良しグループのチャンバラごっこやじゃれ合いで、いつの間にか剣術も体術も身に付いてました!……って言い訳は考えてるけど、結構厳しいな。どんな天才だよ、私。

 でも、その言い訳しか思い浮かばないんだよなー。実際、仲良しグループで遊んで身体鍛えたんだし。

 そういえば、腕の立つ年長組が次々と村を出て行ったので、ここ最近チャンバラごっこはご無沙汰だ。強敵プリーズ。


 剣術磨いても、使う機会なんてそうそうないけどね。

 唯一の例は、森の中でうっかり遭遇した猪と対峙して、鉈で応戦した時かな。

 アレはヤバかった……。猪との距離が近過ぎて、矢も番えないんだもん。

 ちゃんと剣術も鍛えておいて良かった。弓とは全然違う、直接肉を切り裂いて命を奪う感触とか、出来ればもう経験したくは無いけど。

 仕留めた猪は、ちゃんと美味しく頂きましたよ。残さず美味しく食べるのが、獲物に対する一番の供養です。


 やっぱいざと言う時の為にも、身体は鍛えとかなきゃなと、手作り木刀でひたすら素振り中。

 鉄パイプみたいなモノが欲しいなー。木刀振ってただけの筋力じゃ、鉄の塊である刀や剣なんて振ったらすっぽ抜けそうだもん。

 華奢でか弱い今生の身体じゃあ、いくら鍛えても高が知れているが、あまり鍛え過ぎてムキムキのマッチョになったら本末転倒だ。

 自分の筋力にちょっと不満の今位が、ちょうど良いのかもしれない。荒事も殆ど無くて、平和だしね。




 いつもの素振り中、もっと集中しなくてはいけないのに、つい色々な事を考えてしまう。

 特に最近は、商会を興すにあたって目玉となる新商品を、醤油・味噌以外にも欲しいと考えているので、単調な作業の最中は意識がそっちに行ってしまう。


(新商品……豆腐とか蒟蒻なんか作れれば良いんだけど、材料がなぁ)


 そもそも作り方もイマイチよく解からない。

 豆腐は豆乳までならいつもの試行錯誤でなんとかなる気がするけど、そこから確か“にがり”とかいう変な液体入れると固まるんだっけ?

 “にがり”が何者なのか解からんし、村人に無茶振りしようにも、説明のしようがないので、豆腐はほぼ諦めている。

 蒟蒻は、豆腐より更に再現とか絶対無理な食材だな。

 昔、蒟蒻の作り方をTVでやっているのを見た事があるけど、何故食べられない芋をそこまでして食べようと思ったと小一時間問い詰めたくなる程、複雑かつ意味不明な工程を経ていた。

 あれはもう、料理というより化学の実験だ。あのプリプリ食感は惜しいけど、そこまでして作り出す気力は無いな。………味噌田楽また食べたい。


 後、大豆食品で思いつくのは………納豆?

 納豆ならギリギリ自力で作れる気がするけど、あのネバネバは誰にも受け入れられない事が容易く予想出来る。腐ってると勘違いされて、絶対に商品にはならないだろう。

 また食べたいから、その内自分だけ楽しむ用に作ってみたいけど、今はそんな時間無いので却下。


(他に食べたい異世界料理は………カレー、ラーメン、寿司、天麩羅?)


 特にカレーとラーメンが食べたいけど、カレーは香辛料が手に入らないというか、いつもカレールー使用だったので、材料も殆ど知らない。

 ラーメンなら何とかなりそうだけど、麺の材料がイマイチ不明。いつも、お湯入れて3分がラーメン作りの手順だったもの。

 麺の研究は、小麦が安く手に入ってからだなー。

 寿司は、そもそもここ森と山の中で、海なんてこの世界に生まれ落ちてから見た事も行った事無いよ。

 多分、海まで行っても刺身文化は無いだろうし、納豆と同じく忌避されるだろうな。衛生面も心配なので、迷う事無く却下だ。

 天麩羅なら、まだなんとかなるか。

 大量の油使うの怖くて、転生してからあんまり作った事無いけど、今度屋敷で本格的に研究してみよう。

 屋台料理としては微妙かもしれないけど、割と何の具でも使えるし、一考の価値有りか。


 元体育会系女子高生の知識なんて、こんなものさ……。

 この世界にも、ネット検索があれば良いのに。


 あーいっそもう、シンプルに焼き鳥とかで良いか。

 一応この世界にも焼き鳥ってあるけど、肉をぶつ切りにして串刺しに……って料理じゃなくて、何故か丸ごと一羽そのまま串刺しにして焼くという、見た目も調理法も豪快なのが殆どだし。

 あれなら、タレとかも頑張ればいけるな。いざとなったら塩胡椒でも良いし。屋台料理として最高じゃん。

 うん、とりあえず新メニューの候補は天麩羅と焼き鳥で。


 後は―――……飲み物系かなぁ。

 去年、お茶の葉を栽培してるところにお願いして、お茶の葉をわけて貰って緑茶と烏龍茶を作ってみた。

 多少の失敗もあったけど、これも前世で作り方をTVで見た事があったし、農家の人が色々教えてくれて割とあっさり作れた。出来上がったお茶は、葉をわけてアドバイスまでくれた農家の人の反応も上々。

 今年も個人的な分なら作ってくれるそうなので、交渉すれば商品用にそれなりの量を加工してくれそうだ。

 緑茶や烏龍茶は屋台のメニューというよりは、何処かのお店に置いて貰う方向で進める方が良いだろうな。


 日本酒が出来れば、商会が扱う目玉商品として最高なんだけど、残念ながらまだまだ開発中。

 それでもこの間、偶然にも濁酒(どぶろく)っぽいモノを造り出す事に成功して、諦めずに執念深く造り続けていた村のおっちゃん達が大興奮していた。

 そのお蔭で、現在ではお米の酒(日本酒)開発熱が最高潮に高まっているので、決して実現は夢ではないだろう。

 私が商会興すまでに、商品化可能な位にまで安定生産出来るようにしておいて欲しいな。




 2度目の人生、順調過ぎて逆に怖い位だよ。

 何かその内、大きな落とし穴でもありそうな予感がするけど……まぁ、私の考え過ぎだろう。

 前世で、若い身空である日突然、あっさり死んじゃったのが結構なトラウマなのかもしれないな。

 事故とか特に気をつけなきゃな。この世界には酔っ払い運転のトラックなんて何処にも無いけど、竜車とか馬車はあるんだし。


 トラックよりもっとヤバイ生物も、うようよいるけどねー。

 でも、ちゃんと国境には結界とかが張られているので、魔物とかは滅多に国の中に入って来れないらしいので安心だ。

 見た目も生態も危険な竜は人間と共存関係にあるのでまず襲われないし、小型竜は最近なんか……どれも可愛く感じてきた。絶対セシルの所為だな。


 そんな事をつらつらと思案しつつも、身体は止まらずにいつもの型通りに木刀を振り切っている。

 やっぱ、いつもの作業をやりながらの方が考えがよく纏まるのかもしれない。


「――――……ん?」


 素振りを止めて、耳を澄ませる。

 遠くから……竜の鳴き声らしきモノが、微かに聞こえてくる。

 この鳴き声の感じからすると、小型竜じゃなくて多分大型竜だろう。

 ヴィル爺がもう帰ってきたのかな。普段落ち着いているヴィル爺が、こんなに荒々しく吼えるのは、珍しい。

 そういえば、ガル爺達がエルトおじ様に呼ばれてもう何日も経ってるし、そろそろ帰ってくる頃か。


 あれ、でも方向違う?


 鳴き声が聞こえてくるのは、ヴィル爺が帰ってくるだろう方向とは真逆の、山側から聞こえて来る気がする。

 山彦(やまびこ)とかで鳴き声が反響して、そんな風に聞こえるのかもしれないな。

 声は段々こちらに近づいているので、空を仰ぎ見る。

 森の奥深くといっても、山小屋に近いこの辺は鍛錬も余裕で出来る位に開けている。

 好き勝手に珍しい薬草や山菜を植えている家庭菜園もどきもあるので、この辺一帯は日当たりも良くてかなり広めな空間だ。


 空を見上げてすぐ、眼に飛び込んできたのは、急速にこちらに近づく大きな黒い影。……ん、黒?


 ヴィル爺とは明らかに、体色が違うっ!



 ――――グァオオオオオオオオオオオ!!!!



 逃げる間も無く、どこか苦しそうな唸り声を上げて目の前に突っ込んで来た見知らぬ大型竜(ラスボス)を見て、これだけは確信する事が出来た。




(あ……2度目の人生、終わったわ)





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