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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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13.森の乙女



 ――――野鳥3羽、野兎4羽に雌鹿が1頭。


 中々の豊作に、思わず頬が緩んでしまう。

 まだ昼を少し過ぎたばかりだが、本日の狩りの収穫は上々だった。


 リルファローゼ、14歳。立派なまたぎ(・・・)になりました。

 ………いや、嘘です、嘘。立派な淑女です。

 ただ現在纏っている、自ら狩った獲物のもこもこ毛皮の素材をふんだんに使った、野性味溢れる狩用の服は、西洋風の森の狩人というより東北地方のまたぎっぽいだけで。

 年頃の乙女としてどうかという恰好だけど、ほら、アレだよ。“森ガール”ってきっとこんな感じだよ。今、ちょうど森にいるし。きっとコレ、森ガールファッション。

 身も心も乙女なら、纏っている衣なぞ飾りなのです。


 おしとやかで可愛い乙女ライフは何処へ行ったと誰かに突っ込まれそうだが、何か……もうね、段々諦めというか開き直ってきたんですよ。

 前世みたいに、公衆トイレ入った時にぎょっとされなきゃそれで良い。女子高の制服着てたのに、アレは凹む。私服だったら、絶対警察呼ばれてた。


(でも公衆トイレ、この世界には無さそうだけどね!)


 スカートさえ似合えば、もう大満足ですよ。 

 その点、今世の姿は理想的だ。

 どんなに男の様な恰好していても、男には間違われないんだもの。

 そんなこんなで、充実したスローライフならぬ狩猟ライフを送ってます。


 顔は相変わらず地味だけど、若干垂れ気味の目元のお蔭で、栗鼠や小鹿を連想させる位の優しげな草食系の顔立ち。

 色々な茸や山菜といった山の幸を堪能しているせいか、シミ一つ無いすべすべのもち肌。しかも、日焼けし難くて色白。そういや、お母様も肌が白かったっけ。

 サラサラの肩よりも大分長い黒髪ストレートヘアに、明るい所で見るとやっと青いと解かる、ほぼ黒と言って良い濃紺の眼が、清楚な雰囲気をより一層惹き出している。

 お母様に似た華奢な身体は、健康そのもので、日々の鍛錬に森や山を駆け回って培った、しなやかな筋肉で包まれている。

 贅沢を言うなら、胸はもうちょいこう……育って欲しいけど、まだ14歳。これからだよね!

 前世では逆立ちしてもなれなかった、理想の女の子が、ここにいる。

 ………決してナルシストってワケじゃ無いよ。前世の自分と比べての評価ですから。


 こんな理想の姿だけど、幼少期からガキ大将業のやり過ぎで、せっかくのお年頃なのに村の誰にも恋愛対象として見られないのが玉に瑕。

 良いけどね。どうせ同世代の連中は小さい頃から知ってるからか、ガキにしか見えないし。良い感じの年上の人達は、皆既婚だし。

 将来、商いの旅の途中で、強くて優しくて有能で働き者で私を愛してくれる、運命の相手と出会うんだから。


 その運命の出会いの為にはまず、ガル爺の説得からだな。

 あの爺、私が商人になるのを今更ながらに渋っている。

 私が18かそこらで村を飛び出して国中駆け回ろうとしてるのが、気に入らないらしい。

 せめてどこぞの豪商の息子辺りに嫁入りして、経済的に安定していて幸せな結婚生活を……と、勧められているが、商会はファンドルク村の人達とやりたいので却下だ。

 そんなのと結婚したら、自分も商売に参加出来たとしても、醤油や味噌の利権なんかが、全部そっちに渡ってしまいそうだ。

 こっちは所詮商人としては素人なので、ベテランの商人に入ってこられたら、簡単に騙されて色々と損をしそう。村の人達皆純朴で乗せられやすい、騙されやすいし。

 やっぱ、自分達でやるのが良いだろうな。年長組の何人かは、もう村の外の少し大きな街の商店で修行中だ。




 ――――って事で、ガル爺の事は丸っと無視して、今日も狩りで独立資金を荒稼ぎ中です。

 最近では森の最奥にある利用する者ももういない、村人にも忘れ去られた狩人用の森小屋に泊り込んで、何日も屋敷に帰らない事もしばしば。いわゆるプチ家出状態だ。

 幸い、この森の獣に熊の様な危険な生物はいないので、1人で行動していても割と安全だ。

 精々危険と言えるのは猪位だが、何かあったら大声でヴィル爺を呼べば文字通りすっ飛んで来るし、問題は無い。


 夜の森は滅茶苦茶怖いのだが、独りアニソン大会、懐メロ大会を開催する事で、大分恐怖心は和らぐ。

 というか、この辺の歌は精々夏至祭や収穫祭でやって来る旅の吟遊詩人が唄うモノ位しか無いので、かなりの娯楽になる。

 吟遊詩人が唄う歌も、色々あって楽しいんだけどねー。


 有名な竜騎士や龍術師達をモデルにした物語調の歌は種類も豊富で、特に伝説の吟遊詩人、エスクロファーレンが編纂した物が有名で、人気も有る。

 この辺の――ヴァリエーレ領内の鉄板は、エスクロファーレン編纂の前領主(・・・)その愛竜(・・・・)の出会いの物語で、老若男女問わず大人気だ。

 村の広場で吟遊詩人が朗々と唄い上げる終盤、いよいよ愛竜となる竜が、当時傭兵だった前領主の前に舞い降りるという物語の最高潮で、まさかのご本人登場(・・・・・)をやらかすのが、ヴィル爺の最近のお気に入りだ。

 その時の吟遊詩人のリアクションは、固まる・失神・パニック・逃走が殆どだが、一瞬驚いた後、目をギラ付かせてヴィル爺に質問を次々と浴びせかけた猛者もいる。

 猛者な吟遊詩人を「アレは伸びるな」と評価したガル爺は、エスクロファーレン編纂の歌は、あまりお気に召さないらしい。

 いつも渋い顔をして聴いていて、「あの、捏造・改編野郎が」と呟いている。どうやら、かなりのフィクションが入ってるっぽい。


 まぁ……豪商のお嬢様を護衛している最中に山賊に襲われ、次々と仲間が斃れていく中独り必死で応戦し、いよいよ窮地に追い込まれた時に竜が現れて、形勢逆転のハッピーエンドとか無いよなー。

 最終的に、護衛していたお嬢様と恋仲になって、竜持ちと普通の人間との悲恋の物語になっていくんだけど……どこのハリウッド映画だ。

 この歌の所為で「婆さん落とすのに苦労した」そうなので、聴く度に渋い顔になるのも無理は無いだろう。

 ついでに言えば「豪商じゃなくてただのその辺の商人で、護衛対象は商人と積荷」「商人の息子はおったが、お嬢様なんぞおらん」「戦闘で仲間は死んでない」と、ちょっと挙げるだけでこれだけの事実が歪められていた。

 物語としては、面白いんだけどね。


 他の人気作で、北の辺境領で戦があり、敵に囲まれ活路が見出せず絶体絶命の大ピンチの時に、龍術師を引退してほぼ寝たきり状態のヨボヨボの前領主が同じくヨボヨボの愛龍と共に翔け付け、敵陣に単身突っ込んで行きその命を犠牲にして戦況をひっくり返したという老人パネェ話があるが、そっちは敵陣の数を多少盛っているだけでほぼ史実だそうだ。老人無双マジパネェ。

 ここが“東の辺境領”と呼ばれている所為か、東の辺境領を中心に東西南北それぞれの辺境領にまつわる話が好まれている。

 女性は竜騎士や龍術師達の恋愛譚で、男性は戦記や冒険譚がやはり人気だ。 

 今年の夏至祭で吟遊詩人が何を演奏するのか、非常に楽しみだ。




(――――さて、これからどうしよう?)


 収穫は充分だが、この量をそのまま村に持ち帰るのは、少々厳しい。

 雌鹿なら丸々1頭抱えられるが、大量の野鳥と野兎までは抱えられない。とりあえず小屋まで戻って鹿を解体して、それから朝一で村まで運ぶか。

 ここ数日、ガル爺がエルトおじ様に呼び出されていてヴィル爺共々村にいないので、今が稼ぎ時だ。

 狩りに鍛錬、珍しい薬草や山菜の採集・栽培、出来れば前世の料理再現も色々しておきたい―――やる事は一杯だ。

 そんなワケで、ガル爺が村を出てからここ数日は、殆ど村に帰らずに森に籠もっている。


「よっ……こらしょ!」


 雌鹿を抱え上げて、多少フラつきながらも歩き出す。腰には野鳥と野兎が一羽ずつぶら下がっていて、重量限界だ。

 先に獲れた獲物を、いくつか小屋に置いてきておいて本当に良かった。


(今日の夕飯は、まだ夜は肌寒いし、春の山菜と野鳥のお肉たっぷりの水炊きにしよう。〆は米投入しておじやで!)


 夕飯時はまだまだ先なのに、考えただけで涎が出てくる。

 独り鍋、上等ですよ。



 天国のお母様にセラフィ………ついでにお父様、リルファローゼは日々逞しく――じゃなくて、日々健やかに育っております。




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