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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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11.手紙と案内状



「リルファー、次ボクの番!投げて投げてー!」

「その次オレ!」

「あたしー!」

「はいはい、順番ね」


 無邪気に纏わり付く子供達を、一人一人投げていく。

 こうして飛び掛って来る子供を次々と転がしたりぶん投げる、ウチの仲良しグループでは定番の“遊び”だ。

 結構コレ、柔術とか合気道なんかの良い練習になるんだよね。

 投げられてる本人達は喜んでるし。………子供って、ダイナミックな遊び好きだよね。


「ぼくも、ぼくもなげて!」

「お前はまだ駄目。受身をちゃんと取れてから!」

「むぅ」


 私に拒否されたチビが、不満そうにしながらも渋々引き下がる。子供社会で我儘を通そうとしたり駄々をこね出したら、容赦無い教育的指導が年長者から下されるので、小さい子でも割と聞分けが良い。

 ちなみにこの定番の“遊び”では、受身をきちんと取れてない子供と4歳以下の子供には危険なので絶対にやらない。打ち所悪いと、最悪死ぬからね。

 子供達にもこの遊びの危険性をがっつりと説いて、投げるのをマネさせない様に躾けている。

 他にも色々とルールが有り『受身は絶対!』『1人1日5回まで』『軟らかい土の上で』『多少痛くても泣かない』等のルール厳守で、守れない奴には絶対にやらない。

 投げるこちらとしては、神経も体力も使うので結構大変な遊びだ。


「よいしょー」


 背負い投げの要領で投げ飛ばしてやると、楽しそうな歓声を上げながら受身をとって上手く地面に転がる子供達。

 こうやって普段から鍛えている所為か、皆身体能力はそこそこ良い。

 ………なんか、忍者でも育ててる気分。


「リルファ、次こっちなー」

「はいよー」


 ジャイルやスゥネを始めとした、年長組が待ち構えている。

 あいつらはもう、私に投げ飛ばされるだけの遊びは卒業して、勝手に乱捕り紛いの事をやっていた。

 もう受身も完璧だし人に技をかける危険性をよく解かってるみたいだから、多少のコツはちょいちょい教えているけど、人に教えるほどの腕じゃないんだよな、私。

 それにそろそろ、第二次成長期突入で色々と負かされそう。

 長身でがっしりしていた前世の身体だったら、そこらの男になんか負けなかったのに………ちょっと悔しい。

 でも、別に格闘家目指してるわけじゃないんだから、良いんだけどね。前世の身体じゃ、乙女ライフ楽しめないし。

 私の目標は、国中に醤油と味噌の魅力を広める商人なんだから!




 ――――ギュォォォ……ォ………


「ん?」


 どこからか聞こえてきた竜の鳴き声に、空を見上げる。

 ヴィル爺よりも若干軽い感じのする鳴き声は、小型竜だろう。

 そして、この聞き覚えのある鳴き声の主は――――


『ちわー、てがみー!』

「セシル、久しぶり!」


 イーヴァソールにミライムモーネ夫妻の末の息子で、前に住んでいたお屋敷の執事頭であるディーヴァルクトの愛竜、セシルキアラだ。

 私達の頭上すれすれを一度旋廻し、近くに降り立つセシルに、周りの子供達も興奮して歓声を上げる。


 セシルキアラは、大変可愛らしい小型竜だ。

 桃色の鱗に紫紺の眼と鋭い爪、皮膜は薄紫で、目はくりっと他の竜より大きい。性格も無邪気で、竜にしては人懐っこい。

 ディーヴァルクトもうっかり女性名を名付けてしまうほどの、可愛い雄竜(・・)だ。

 そう、雄。初対面だと普通に皆雌竜だと思ってしまう、竜界の男の娘。誰得だよ。

 相棒であるディーヴァルクトもてっきり雌竜だと思い込んで名付けたら、実は雄竜で気付いた時にはもう遅く、名前の変更は不可だったそうな。

 幸い、竜は自分の名前に特にこだわりなど無いらしく、セシルも全く気にしていない。


『ケンカ?ケンカ?』


 乱捕りの練習で若干殺気立った気配に目聡く気付き、眼を輝かせてセシルが訊いてくる。


「喧嘩じゃないよ」


 私のその返事に『なんだー、つまんないの』と鼻を鳴らすセシルは、身体は小さくても喧嘩大好きな、紛う事なき竜だ。

 どんなに外見が可愛らしくても、凶暴性は他の竜と変わらない。


「今日は、ディーヴァは?」

『ぐりゅ?ディーはいそがしいから、きょうはセシだけー!』


 セシルの相棒であるディーヴァルクトは、ナイスミドルなイーヴァソールの若かりし頃は、こんな感じだったんだろうなーっていう、好青年だ。

 仕事も有能で、銀縁眼鏡が有ったら絶対に似合うだろうクール執事。

 ただし、雄の愛竜に女性名付けちゃう位の、プライベートではドジっ子属性。あんなに普段クールに振舞ってても、中身ドジっ子。

 母であるミライムモーネも「なんであの子は仕事以外だと、たまにとんでもない失敗するんですかねぇ?」と以前呟いていた。


 エルトおじ様の支援物資をセシルが運ぶ竜車に載せて、ちょくちょく様子を見に来てくれる良い人なんだけど、このコンビを見ているとどうにもニヤニヤしてしまう。

 クール執事(若干ドジっ子)と男の娘竜なんて、胸がキュンとなる。……“萌”って、こういう事だったのか。

 私と同じ趣味思考の村の女性陣達も、ディーヴァルクト達が村に来ると、黄色い声を上げて盛り上がっている。

 すっかりアイドル状態で、村人からも大人気のコンビだ。


「えーと……手紙って、これ?2通あるよ?」


 セシルの首から胸部分に括りつけられている小型の荷物入れを漁ると、2通の手紙が出てきた。

 1通は、いつもの便箋でエルトおじ様から私宛の手紙。

 そしてもう1通は――――


「あれ、コレ村長宛てだ」


 豪華な装飾が施された便箋の宛名には、村長の名があった。

 正式な書簡なのだろう。“エルトーレン・ライ・ヴァリエーレ”と、差出人の欄に我がヴァリエーレ領の領主の名が丁寧に綴られている。

 領主?勿論、エルトおじ様の事デスヨー。


「僕が村長に届けようか?」


 村長の孫であるスゥネがセシルに訊くが『セシのしごとだから!セシがとどけるの!』と主張したセシルに、村長宛の手紙をまた小型の荷物入れの中に戻される。

 次の瞬間には『じゃーねー!』と、軽い羽音と共にセシルは村長の下へと飛び立って行った。

 小型竜は、近くで羽ばたかれても吹き飛ばされないから凄く楽だ。突風で、多少髪はぐしゃぐしゃになるけどね。




「―――……今の手紙って、アレじゃないか?」


 セシルを見送っていたジャイルが、ぽつりと呟く。

 その言葉を聞いた周りの子供達が、興奮気味に次々と頷き合う。


「だよな!」

「うん、そろそろこの辺の地区だって話だったし」


「「「竜瀬の儀だ!」」」


 この間竜持ちになりたいと盛り上がっていた子達が、何やらまた盛り上がっている。

 いや、だから“リュウセノギ”って、何なの?




 そんな私の疑問を余所に、セシルが村長の下に届けられた書簡の内容は、すぐに村中に知れ渡った。

 子供達の予想通り“リュウセノギ”の案内状だったそうだ。

 何でも、“リュウセノギ”が収穫祭の後に行われるらしく、まだ何ヶ月も先の話なのに、村中の大人も子供もそわそわと浮き足立っている。



 普段平和なファンドルク村が、俄かに騒がしくなった。




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