裏切り
翌朝、俺らは会議室にいた。この会議室にいるのは俺とキャシー、アルフとファニーとベンといった昨日のメンバーだ。
「さて、答えを聞かせてもらおうか。」
答えはもう決まっている。俺も、キャシーもだ。
「「AKGに入団します!」」
「そうか。君達の協力、感謝する。」
ファニーは俺らの言葉を聴き、口を開く。
「では、早速ですが仕事です。『パトリシア救助作戦』の説明をします。」
~パトリシア救助作戦~
まず、陽動班と遊撃班に分かれる。陽動班が城へと攻撃を行い、城の兵士を炙り出す。城内の警備が手薄になったころを見計らい城に中に乗り込む。そして『パトリシア』を救助する。助け出したら閃光玉をを放つ。それを合図に陽動班が撤退。遊撃班もそのまま撤退し、森の中に逃げ込む。
おおまかな説明はこうだ。奇襲をかけるのは明後日の午前3時だ。この森を出て、明後日までに城の近くの森まで向かう。俺達は遊撃班に割り与えられた。その作戦をアジトのメンバーに伝え、移動準備を始めた。
あれから俺達は森を移動し、城が見える位置の森で野営を行った。時間は午前0時。作戦決行まで時間は3時間。
「アルフさん!」
その時、一人のメンバーがやってきた。
「どうした?」
慌てた口調でそいつは伝える。
「フレデリック・ミラーがいません!」
今回の戦闘は死人が出る可能性が高い。とくに陽動班は死ぬ覚悟で挑まなくてはならない。逃げてしまうのも無理は無い。
「そうか……、だが、作戦は決行だ。ここで引くわけにはいかない。」
「了解しました!」
そういって去っていく。
「皆に伝えろ!出陣るぞ!」
俺達は武装しながら野営地を出た。だが……
「なっ!?これは一体……!」
俺達はいつの間にかに王国兵に囲まれていた。
「ミラー大将の命令でな。貴様ら盗賊どもを排除しろとの事だ。」
王国兵のリーダーが言い放つ。ミラー……?どこかで聞いたような……
「詮索は後だ!来るぞ!撃退する!」
「「「「「応っ!」」」」」
俺達はそれぞれの得物を構えた。
「くっ……ここまでか。全軍撤退しろ!!」
リーダーが撤退命令をだし、王国兵が撤退していく。
「みんな大丈夫か?」
俺は周囲を確認する。戦闘中は気になら無かったが、そこはあまりに酷い光景だった。王国兵の死体、AKGメンバーの死体、散らばる武器、そして辺り一面が赤黒く染まっていた。
「あ、ああ、う、うわあああああああああ!!」
その場所に響く悲鳴。キャシーの声だ。キャシーもこの戦場を見て気が動転しているようだ。この光景を見て、アルフもファニーもベンも悲しみに顔を歪めている。俺達はすぐに、生存している人を探した。結果からいうと、俺達5人だけが軽症、メンバー100人弱が重症、残りは死亡だった。元々1500人近かったメンバーが103人まで減ってしまっていた。ベンはすぐさま、皆を助けに行った。
俺達は死んだ者を弔い、元のアジトまで戻った。
会議室に戻った俺達はしばらく黙ったままだった。
「ミラー……大将……。」
俺がその言葉を呟いた。
「その人って、確か逃げ出した陽動班でしたよね……」
キャシーも呟く。そしてその言葉に反応したのはベンだった。
「くそっ!ちくしょう!フレデリックの奴、僕達の事を騙してたのか!」
ベンは怒りに身を任せたままこの場所から去ろうとした。それをアルフが止める。
「ホール!どこへ行く気だ?」
こちらを見ずに言う。
「城だ。」
「何をするつもりだ?」
「妹を……パティを取り返してフレデリックの野郎をぶっ飛ばす。」
それをアルフは嘲笑した。
「ホール一人が向かって取り返せると思うのか?」
「こんなところで、じっと何か出来るか!」
「誰が……じっとしてると?」
「現に今、お前達は動いてないじゃないか!」
「ホール、私が一番懸念してることは、それなんだ。お前はフレデリックに感情的になりすぎている。今のお前を戦いに連れて行くことはできない。頭を冷やすんだな。」
「っ!?」
「作戦は今夜伝える。皆休んでくれ。」
その言葉を最後に俺らは解散した。俺は自分の部屋へと戻った。すると外から声が聞こえる。ベンとファニーだ。
『どこへ行く気だ?』
『さっきも行っただろ。城だ!』
『お前な……まだ分からんのか!』
その直後バシッという音が聞こえた。
『なっ!』
『お前が一人で行っても死にに行くようなものだ!私はお前が死のうと構わない。だが、お前の妹はお前が死んだと聞いたらどうなる!死んだ後、残されている人がいる事を忘れるな。』
『……。』
足跡が遠ざかっていく。
俺らは夜になると会議室に集まった。
「……ホール、頭は冷えたか?」
「その……勝手な行動をして済まなかった……」
アルフはフッと笑った。
「その様子ならもう大丈夫だな。フランシスにもいろいろ言われたみたいじゃないか。さて、これからサレニアに向かう。」
サレニアとは城から一番近い町だ。グランシェル城との交流が多い町でもある。
「サレニアだったら、俺達即効捕まるんじゃないか?」
「確かにその危険性は高いな。だが、あの場所には地下水道がある。そこからなら城の内部へと入れるはずだ。」
「なるほど。そこから城内に入り込むのか。」
「陽動班がいない今、城の中は警備がいつもと変わらないんじゃないでしょうか?」
「そうだ。だが城の中では奴らも大人数では動けまい。倒しながら進む。」
「了解……」
「今回の作戦は危険だ、油断はするな。」
「「「「応っ!」」」」
「やっぱり、ここは警備が厚いな。」
サレニアについた俺の第一印象はそれだった。辺りを見渡せば視界に一人は王国兵がいる。そんななかを警戒をしながら進む。帽子などを深くかぶり目的の場所へ急いだ。今俺達はバラバラになって行動をしている。単独のほうが警戒の目を抜けられると思ったからだ。実際に今のところ怪しまれている気配は無い。
「アレックス、こっちだ。」
声が聞こえ、振り向く。どうやら目的の場所を通り過ぎようとしたところをキャシーが教えてくれたようだ。
「そっちだったのか。」
俺はキャシーのいるほうへ向かった。そして路地裏を通り人気がまったくない所に出た。
「来たようだね。」
そこには既にアルフ、ファニー、ベンがいた。どうやら俺は一番最後についたらしい。ついた場所にはとくに地下に続くような扉などは無い。
「アルフ、地下水道に行く扉はどこにあるんですか?」
「フランシス、開けてくれ。」
「はい。」
アルフに言われファニーは地面を手で叩き出した。いろんな場所を叩いてゆく。そしてその動きが止まった。
「ここのようです。では開きます。」
ファニーが砂を払ってゆく。そしてそこには四角い扉があった。ファニーはそれを開ける。扉の中には、はしごがありそこから下に降りられるようだ。
「そんじゃ、行きますか。」
すっかりいつもの調子に戻ってるベンが言う。俺らはそのはしごを降りていった。
地下水道を歩くこと1時間やっと出口らしき場所にでた。
「ここからは命がけだ!覚悟はいいな!行くぞ!」
そういって上に向かうアルフ。俺達はその後に続いた。俺達が出た場所は牢屋だった。
「お前達は誰だ!どこから来たんだ!」
俺達はその言葉の主を見る。監視が目的の王国兵だった。辺りには他に王国兵の姿は無く、この王国兵だけが監視兵らしい。
「会ってそうそう悪いんだが眠ってくれ。」
アルフがそう言って監視兵との間合いを詰める。とっさの事で判断できなかった監視兵はアルフの手刀で首を打たれ、倒れこんだ。
「さて、と。見つかるのは時間の問題だ。走るぞ!」
俺達はあの後すぐに王国兵に見つかった。倒しては王国兵がやってきて倒しては王国兵がやってくる、の繰り返しだった。そこで、気転をを利かせたファニーが閃光玉を投げる。その内に近くにあった部屋へと飛び込んだ。
『あいつら、どこ行きやがった!?』
『探せ!まだ近くにいるはずだ!』
『A班は上、B班は下、C班はこの階を探せ!』
『『『『了解しました!』』』』
「やばいな、見つかるのも時間の問題か?」
「ここって……王の書斎じゃないかしら?」
キャシーがそう言う。俺達はそれを聞き辺りを見渡した。
「確かに、そんな感じもするな。」
「ってことは。」
ベンが机へ向かっていく。
「こんなとこにスイッチとかあったりしてね。」
そう言って机の引き出しを開ける。
「どうだ?」
ベンはこちらに親指を立てた。
「あったのか!」
俺はすぐに近づいた。
「無い!」
だが、ベンは爽やかな笑顔を浮かべながら言い放つ。
「ベン……殴っていいか?いや殴る!」
俺は思いっきりベンの頭を殴ってやる。ベンはそのまま顔が地面についた。
「酷いなぁ。殴ること無いじゃ……。」
ベンはこちらを向き文句を言ってくる。と思いきやいきなり目を丸くして机の裏を指差した。
「あ、あ、あ、あった!」
「本当か!?」
俺はすぐに確かめに入った。そこにはボタンがくっついてた。
「まじだ……」
俺はそのボタンを押す。すると、書棚が動き出した。そこには道が続いてた。
「まさか、こんなお約束な展開になるとはね。」
笑いながらアルフが言う。
「それじゃ、入るか。」
「はい。」
アルフとファニーが先へ進んでいった。俺達も後に続く。しばらく暗闇を歩くと、今までの通路とは違う広い場所にでた。真っ暗でよく見えないが、多くの光が動いていた。するといきなり電気が付き、目が眩む。目が慣れてくると、そこには機械につながれて、横たわっている少女。
「見つけた!」
俺は声を出して近づく。
「アレックス!」
そして気づいた。いったい『誰が』明かりをつけたのだろう、と。俺は振り返る。
みんなもう武器を構えていた。通路のほうには巨体の男が1m50cm程の長さがあろう大剣を構えていた。
「某の名はユージーン・ガラス。侵入者よ、参るぞ!」