アレックスの故郷
朝日が寝ている目を刺激する。
「朝か……ってここは?」
俺は見覚えのない部屋に寝ていた。辺りをキョロキョロと見回す。隣のベッドには女の子がすやすやと眠っていた。その瞬間、記憶が復活した。そうだ、昨日この少女キャシーを助けてカムール村の宿に泊まったんだっけ。昨日の出来事を順に思い出していく。そうしていると、女の子が起きだしたようだ。女の子も俺と同じように目を丸くして辺りをキョロキョロしている。その視線が俺を捕らえた。
「キャシー、おはよう。」
俺は笑いながら声をかける。キャシーは一瞬ビクッとしたがすぐに冷静になった。
「アレックス、おはよ!」
「さて、と着替えなきゃいけないからな。俺は昨日と同じ浴室で着替えるよ。」
着替えを終えた俺たちは朝食をとるため、食堂に向かった。食堂は閑散としていた。どうやら宿泊客は俺らだけだったらしい。定食を貰い席に着く。飯を食べながらふと行きの事を思い出した。
「そうだ、俺の村に行くのに、草むらを通るから気をつけろよ?」
「え?アレックスの村ってどんなど田舎よ……」
「確かにど田舎だな。」
そういって笑う。
「まあ、村に近づけばちゃんと道が出てくるから、安心しろって。」
「そうね。」
「さて、ごちそうさま。」
「速いわね。」
キャシーのご飯もそろそろ食べ終わりかけてる。
「ほとんど同じじゃないか。」
「私の定食の二倍はあったわよ!」
あれ?そうだっけ?
「でも、俺の村の男どもはみんなこれくらいの速さだったからな。男なら普通だよ。」
「そういうもんかな?ご馳走様でした!」
朝食の乗っていた器やら盆やらを使用済み食器と書いてある場所に置きに行く。
「朝飯も食ったし行きますか。」
「うん!」
そうして俺らはカムール村を出て、俺の村に向かうのだった。
「ここ……本当に道……?」
例の草むらに着くとキャシーはつぶやく。
「安心しろ。俺も最初はそう想った。」
そういって俺は草むらの中に入っていった。キャシーも俺の後をついてきた。
「……アレックス。」
「どうした?」
「昨日は動揺しててお礼言えなかったね。昨日は助けてくれてありがとね。」
その言葉を聞いて、俺は少し照れてしまった。
「あ、ああ。どういたしまして。」
そんなやりとりをしていても空気を読めない魔獣はいるようだ。
「Grrrrrrr」
「なに!?」
その音は狼型の魔獣の声だった。
「魔獣だ!キャシー、剣を取るんだ!」
キャシーは剣を取り構える。その姿は昨日のような弱弱しい構えではなかった。
「キャシー、畳み掛けるぞ!」
「わかった。」
俺は剣で魔獣をの足を狙い機動力を奪っていく。俺が攻撃している時、キャシーも剣で背中に連続的に攻撃を放っていた。魔獣の体力はみるみるなくなっていく。そして……
「キャシー!今だ!」
キャシーは後ろから思いっきり魔獣の頭を攻撃した。すると魔獣は黒い霧を出しながら狼の死体へと変わっていった。
「ねぇ、アレックス。この黒い霧はなに?」
「さあな。よくは分からんがこの黒い霧が動物を魔獣に変えるらしい。俺はまだ見た事は無いが、白い霧を出す魔獣もいるらしい。」
この現象についてはいまだに解明されていない。少なくとも公表されてはいない。
「なぁ、キャシー。」
「なに?」
「昨日の戦いはひどかったが、今回の戦闘はなかなかいい動きしてたじゃん。」
「昨日は逃げ回ってて体力がなくなっていたの……。でも、宿屋のベッドで眠れて、ご飯も食べられたから今は本領を発揮できるわ。」
「それは、よかった。お?見えてきたぞ。」
「え?」
俺の視線の先にあるものは、俺の故郷。ビギレット村だ。周りは森や山に囲まれている盆地のような場所だが、自給自足の生活を行っているため周りの村との交流はあまりない。一般に売られている地図にも載っていないぐらいだ。この村の人口は200人前後である。
「さぁ、行こう!」
村人は俺が女を連れてきて戻ってきたことに目を丸くしていた。いろいろ質問はされたが、まずは村長(むらおさ)に会いに行く。
「村長、いますか?」
「その声はアレックスか?」
「はい、そうです。」
「入って来い。」
「失礼します。」
俺は村長の家に入っていく。キャシーも一緒だ。村長はキャシーを見て目を丸くしたが、すぐに元の表情に戻った。
「話を聞こうか。」
「実は……」
俺は村長にいままで起きたことを話した。
「なるほどのう、お主らが国に追われているのだな?」
「はい。」
「ならば、わしの客室を使うといい。飯も用意しよう。だが、しばらくはこの家から外にでてはいかんぞ?」
「しばらくとは、どれぐらいでしょうか?」
「ふむ、二週間追っ手らしきものがこの村に来なければ村での生活を認めよう。」
「追っ手が来た場合は?」
「一年ぐらいは覚悟してくれ。」
一年……。俺は少し考え込んでしまったが俺は承諾することにした。キャシーのほうをチラッとみたがキャシーのほうもそれでいいようだ。
「わかりました。室内でできる仕事があれば俺らがやりましょう。」
「では、今夜寄り合いでもするかのう。村の人たちに伝えてくるわい。」
そういって村長は出て行った。
「見つからないことを祈るしかないな。」
「そうだね。でもいいのかしら?」
「何がだよ?」
「長々とお世話になったりして迷惑にならないかな?」
「迷惑になると感じるなら、村に出れるようになったとき、恩返しするんだな。」
「うん、そうするよ。」
俺らは、内職のような仕事を続けていた。朝起きて朝飯食って内職して夕飯食って寝るの繰り返しだった。俺は昔っからこのような生活を送っていたため、苦では無かったがキャシーはへたばっていた。そしてついに二週間たったのだった。村長から二週間敵がやってきてないと聞き俺らはこの生活から開放された。思わず外に飛び出していた。
「日が……体に痛いぜ……。」
飛び出したのはいいが毎日、太陽の日の光を浴びてなかったせいか太陽光線にあたり体中がひりひりと痛い。
「大丈夫か?アレックス。」
笑いながら近づいてくる男の声。
「死にそうだ……。」
「おいおい、大げさなやつだな。」
「お前もあの暮らしをした後に太陽浴びろ!そして悶え苦しむがいい!」
俺は顔を上げた。そこには予想した顔があった。予想外の光景にでくわした。そこには見知った顔がいくつもあった。
「アレックス兄ちゃん驚いてる。」
「二週間監禁生活はどうだったよ?」
「楽しかったか?」
「お前らなぁ……」
「そうだな、みんなお前に言いたいことがあるもんな。」
「「「「ああ!」」」」
「なんだよ?言いたいことって?」
「「「「「キャシー(キャサリン)さんのような美人とどうやって出会ったんだ!」」」」」
そんな言葉を予想すらしてなかった俺はガクッとうなだれる。
「そこは『おかえりなさい』とか『大変だったな』とかじゃないんかい!」
「「「「はははははは!」」」」
「ったく、お前らは……。」
「……あちらでキャシーさん倒れてるよ?」
一人が冷静に言い放つ。俺はそいつの視線の先をみてみる。そこにはゆでたこになっているキャシーの姿。
「……。」
俺は黙ってキャシーを村長の家に運んだ。
「すまない……アレックス。」
「おまえなぁ……久々に太陽の光に当たって気分悪いなら、家に戻れよ……。」
俺は半ば呆れていう。
「アレックスが楽しそうだったからな。眺めていたら、倒れていた。」
「お前……馬鹿か?」
「馬鹿とは失礼な!」
「まあ、そんな様子じゃ恩返しをするのはまだ無理だな。」
キャシーは俺の言葉を聞いて、残念そうだった。
「明日俺も付き添うから一緒に恩返しに行くか?」
キャシーはその言葉に目を輝かせた。
「行く!」
「それなら、体力つけておくんだな。」
「うん!」
俺とキャシーは村の人たちに恩返しをしていった。農作業を手伝ったり、木の実をとりにいったりとさまざまだった。その中でも毎日行ったのが狩だった。それは俺達の剣術の向上や息を合わせる訓練のためでもあった。そんな生活が続いていた。キャシーも村にだいぶ馴染んできたころだ。村長が倒れたのだ。
「村長ぁ!なぁ!」
俺らは村長を囲んでいた。そこに村の薬師が駆けつけてくる。
………………
診察が終わり薬師が出てくる。
「応急処置はしたがこれでもすぐに効果が消えてしまう……。」
「どうすれば、村長は助かるんだ?」
「ネイサの草があれば……。」
「その草はどこにあるんだ?」
「残念だがこの近くに生えている場所は無い。」
「そ……んな。」
キャシーが今にも泣き出しそうな顔になる。
「隣町に行けば、商売人が売ってくれるんだが……。」
「隣町?」
「ああ、ここから北西の方向にあるトーラデという町だ。」
「んなら俺が取ってくる。」
「私も行きます!」
「すまないが、頼む。だが、出来るだけ早く帰ってきてくれ。そうだな、5時間だ。5時間を過ぎると応急
処置の効果が無くなり、助かる確率が減ってしまう。」
「5時間だな?わかった。行くぞ。キャシー!」
「はい!」
俺とキャシーは走り出した。
隣町についたのはあれから1時間半程度だった。俺もキャシーも息があがってしまい、町についてからしばらく呼吸を落ち着かせていた。だが、町の人達の反応がおかしい。疲れで視線が安定しないが周りを見回してみる。そこには俺とキャシーの顔が貼ってあった。しかもその写真の上にはでっかい文字でこう書かれていた。
『指名手配犯』
と……。
「キャシー!不味い。走るぞ!」
「え?む、無理……だよ……。」
「手を出せ!」
「え?」
おろおろしながら手を差し出すキャシー。俺はその手をつかみ走り出した。薬屋、薬屋はどこだ!?走っていると薬草を扱っていそうな店を発見。俺はすぐにその店の中に入る。
「ネイサの草はあるか!?」
「いらっしゃいませ!ネイサの草ですか?7200Sです。」
Sとは金の単位だ。
「買う!」
俺は10000S札を払った。店員さんはネイサの草を箱につめ渡してくれる。
「急いでるから釣りはいらん!」
そういって俺は店から出て、村へと戻ろうとする。しかし、そこには王国兵が立ちふさがっていた。
「邪魔だ!どけぇ!」
俺は右の手で剣を取ろうとした。が、右手はキャシーの手を握っていて使えない。
仕方ないので近くの路地裏を走る。しかしキャシーの体力が限界を超えてもう足が動かないようだった。
「ちっ!」
俺はキャシーをおんぶして走り出す。俺も十分疲れているので、キャシーを背負いながら走るなど無理があったが、ここで捕まるわけには行かない。
町を出て、来た道を引き返す。どうやら追っ手はまいたようだが油断はできない。俺はこのまま走る。
「はぁ、はぁ、ゲホッ、ヒッ、はぁ、はぁ!」
見えてきた。そう村が見えてきたのだ。助かった……。
(キャシー、見えてきたぞ!)
「キャ、はぁ、シー、はぁ、見え、はぁ、て、はぁ、きた、はぁ、ぞ!」
自分で思っていたよりも聞きづらい言葉が口から出た。
俺はみんなのとこに薬を投げ、その場で倒れこんだ。
(これでもう大丈夫だ……)
そして俺の意識は無くなった。