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椚(くぬぎ)くんと橘(たちばな)さん  作者: 虹色
おまけ 『コバちゃんの恋』
76/77

緊張するなぁ。



待ち合わせ場所に康太くんが時間どおりに現れて、あたしは浮き浮きしながらレストランに案内した。

和食をビュッフェで楽しめるお店。

これなら康太くんがたくさん食べたくても遠慮なく食べてもらえるし。

金曜日のことがあるので、あたしはお酒はなし。


料理をとってきて向かい合って座ると、何から話していいか迷ってしまう。

とりあえずもう一度、金曜日のお礼を言う。


そうだ。

今、この場で気になってることを・・・。


「あのう・・・、何てお呼びしたらいいでしょう?」


「え?」


「春香さんが同じ職場でみんなから“橘さん”って呼ばれているので、それでは呼びにくくて。」


「ああ、そうなんですか。じゃあ、名前の方でも構いませんよ。」


やった!


「・・・康太くん、でもいいですか?」


「はい。椚さんもそう呼んでくれてますから、どうぞ。」


よかった。

なんか、すごく仲良くなったみたいな気がする。


「確か、同い年くらいですよね?」


「僕は春香姉さんと5つ違いです。」


あれ?

あたしの方が年上だ。


「じゃあ、あたしの方が1つ上ですね。」


ちょっとしょんぼりしちゃう。

女の子が年上のカップルだってたくさんいるけど。


「何月生まれですか?」


康太くんが訊いてくれる。


「11月です。」


「僕は4月生まれですから、5か月しか違わないですね。」


ナイスフォロー!

あたしの気持ち、わかったのかな?


なんだか楽しくなって、話がすらすらできるようになった。

一番たくさん出たのは共通の話題である春香さんのことだけど(春香さん、ごめんなさい。)、2人でたくさん笑って、たくさん食べた。


食事が終ったところで、康太くんが時計を見ている。

もう帰るって言われちゃう?


不安な気持ちでそれを見ていたら、康太くんがあたしを見て言った。


「まだ早いから、ちょっとゲームセンターでも行きませんか?」


行きます!

大急ぎでうなずいて、立ち上がった。





ゲームセンターなんて久しぶり。

明るくて、賑やかで、キラキラしてる。

そこはビルになった大きなお店で、階ごとに違う遊びが楽しめるようになっていた。

見ているだけでもテンションが上がる。

――― けど、2人で対戦すると、もっと盛り上がる。


レースゲームで僅差であたしが負けて悔しがっていると、康太くんがクレーンゲームでマスコットを獲ってくれた。

ちょっとドキドキ。


「あれ?きみたち!」


前を通った10代前半らしき女の子2人連れに、急に康太くんが呼びかけた。


「あれ?橘先生?」


振り返って目を丸くする女の子たち。

康太くんの学校の生徒か。


「こんな時間にこんなところにいちゃダメだろ。早く帰りなさい。」


「先生だって、来てるじゃん。」


「大人はいいの。きみたちはまだ中学生なんだから、帰りなさい。」


「はーい。でも。」


2人は顔を見合わせてニヤニヤする。


「橘先生、その人、彼女?」


え?

あたし?

えーと、その・・・。


「違うよ。ただの友達。」




“ただの友達”。




頭をなぐられたような気がした。


“さっぱりしてて、男の人とも友達、みたいな。”

カオリの言葉が頭に浮かんだ。

どうせ、あたしなんか。


「ふうん。じゃあ帰ります。先生、さようなら。」


「気を付けて帰れよ。」


こっちを向いた康太くんに、どうにかひと言告げる。


「あたしも帰ります。今日はありがとうございました。さよなら。」


顔を見ることができない。

そのままうしろを向いて足早に歩きだす・・・けど、出口はどこ?

すぐに立ち止まらざるを得なかった。


手首をつかまれて振り向いたら、困った顔の康太くん。


「もしかして、僕、失礼なことを言いましたか?」


やっぱりわかってない。

そうだよね。

でも、わかってないから余計に悔しい。


「どうせ、あたしはお友達止まりですよ!誰も恋愛対象としてなんか見てくれないんだから!」


まずい!

しゃべったら涙が・・・!

まわりに人がいるのに。

どうしよう?

止まらないよ。

この前は酔いつぶれて、今度は泣いてるなんて、もう、あたしって・・・。


康太くんに手を引かれてフロアの隅にあったベンチまで歩いた。

またベンチだ・・・。

とにかく、なんとか涙を止めないと。


だけど、一度あふれ始めた涙は簡単には止まらなくて、逆に今までの色々なことを思い出してしまった。

康太くんは、ただ黙って、横に座っていてくれた。

それを見ると、ますます自分が情けなくなってしまう。






ようやく涙が止まって深呼吸をしたら、康太くんがこっちを向いて微笑んだ。


「大丈夫ですか?」


この笑顔。

笑いかけてもらえるのが嬉しい。

でも、“ただの友達”だ。


「ごめんなさい。みっともないところ見せちゃって。康太くんにはいつもお世話をかけてばっかりで。」


「いいえ。僕が気が利かないのが悪いんです。」


優しいな。


「違います。あたしは女の子らしくなくて、男の子と同類みたいだから。一番近くにいた人たちも、2人とも春香さんのことを・・・!」


しまった!

あわてて口を押さえる。


「2人とも・・・?」


・・・聞こえたよね?

意味わかっちゃう?

また自己嫌悪。

あたしって、どうしてこんなに考えなしなんだろう。


康太くんが立ち上がった。


「気分転換をしませんか。」


そう言って、あたしの手首をつかんで立ち上がらせてくれる。

エスカレーターで2階昇ると屋上らしい。夜空が見えて、冷たい風が吹いて来た。







* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *



女子中学生 A & B




「ねえ、見た?先生と一緒にいた人。」


「うん。すごくきれいな人だったね。」


「昨日さあ、サッカー部と陸上部が話してた人じゃない?」


「ああ!部活中に橘先生が話してたっていう?」


「そうそう。だって、そんなにきれいな人が、橘先生の周りに何人もいるとは思えないよ。」


「そうだよねえ。」


「ただの友達って言ってたけど、本当かなあ。」


「そんなはずないよ!だって、あの2人、ずっといたけど、普通のカップルだと思ってたし。」


「そうだよね。すっごいはしゃいでたし、声かけられるまで、先生だとは思わなかったもんね。」


「先生、照れちゃって、あんなこと言ったのかな?」


「まあ、一応、生徒の前だからってことじゃない?」


「まさか、学校からだいぶ離れたここで、自分の生徒に会うとは思ってなかったよね、きっと。」


「私立は学区がないってこと、わかってないね。」












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