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再び、お正月です。

1月4日。新婚旅行から帰ってきたところ。


去年の正月に決心したとおり、去年のうちに橘さんと俺は結婚した。


去年のうち・・・と言っても、本当に年末ぎりぎりで、新婚旅行は年末年始の旅行シーズンにかかってしまい、すごく高かった!


でも、年末年始の休みに休暇をプラスして、少しゆっくりしている。


結婚まではいろいろなことを決めたり、買ったりしなくちゃいけなくて、本当に忙しかった。でも、橘さんと一緒だから楽しかったけど。


俺たちが一番楽しんだのは、この新居を整えること。


家具、食器、カーテン、電気製品・・・。


約束どおり、あのソファと緑色のカーペットも買った。うちのリビングは、ちょっと狭いけど牧場にもなる。


実は、この橘さんのアイデアが大当たりで、リビングが明るくて楽しい場所になった。俺はここが一番のお気に入り。


少し毛足の長いカーペットにしたので、ゴロゴロしても気持ちいい。


これからは2人でいつも一緒だと思うと、幸せがこみ上げてくる。今まで忙しかったから、余計に。






去年の5月、俺たちが元の鞘に収まってから、ほかの人たちにも変化があった。


西村は今月、河野さんと結婚する。


“ファンの集い”の事件で落ち込んでいた河野さんが、慰めてくれた西村の優しさに感激して押しの一手で・・・ということらしい。


河野さんには勝気なイメージがあったけど、西村と並んでいると、素直な可愛らしい女性に見える。しっかり者の西村とお似合いだ。


2人が付き合い始めてから結婚まで7か月ほど。


こんなに早いのは、俺たちみたいなゴタゴタに巻き込まれないように、ということと、お互いに美形に弱い2人が迷わないうちに、ということだと言っていた。


俺たちって、のんびりしていたせいで、あんな事件が起こったのだろうか?


まあ、そのおかげで西村と河野さんが結婚することになったんだから、いいよね。





佐伯とコバちゃんは不思議な関係が続いている。


同僚よりは仲良し。


友達・・・だとしたら親友?


恋人・・・というには雰囲気がちょっと・・・。


2人で何度か出かけたようだけど、これからどうなるのか予測不能。


橘さんは、2人ともシャイなところがあるから、と見守っている。


佐伯にシャイなところなんて、俺には考えられないけど。


それとも橘さんには、何かそんなふうに感じるようなことがあったのか?


・・・なんだか気になる。けど、訊けない。


俺はしょっちゅう橘さんのことでヤキモチを妬いているような気がする。


これからもずっと、かもしれない。


でも、それに気付いたら、彼女はきっと、俺に笑いかけて甘やかしてくれるだろうな。





緑川さんが一番変わったかも知れない。


グループ研修で俺のグループにいた加嶋君が、緑川さんに一目惚れしたんだ。


加嶋君は真面目な人なんだけど、すごく一途でめげないところもある。


初めて総務課に来たときに緑川さんを見初めた加嶋君は、毎日のように用事を作ってやってくる。たぶん、彼の職場の総務課での用事を、一手に引き受けているんじゃないだろうか。


そうやって来ては、緑川さんに話しかけている。仕事が緑川さんに関係がなくても、通りすがりに必ずひと言。


「今日もきれいですね。」


とか、


「その服、似合いますね。」


とか、すごく嬉しそうに言う。緑川さんのことを好きなのは、誰の目にもあきらか。


緑川さんは初めのころはにこやかに返事をしていたけど、さすがに毎日だと面倒になったらしくて、だんだん無愛想になった。


「今日もきれいですね。」


と言われれば、


「ああそう。どうも。」。


「その服、似合いますね。」


と言われれば、


「はいはい。」。


さすがに無視はできないから、返事だけしている。


あるとき本気で怒って、けっこう厳しい厭味を言ったことがあったけど、加嶋君はいつもより会話が多かったと喜んでいて逆効果だった。


そんなことがあって、緑川さんは彼女のコンセプトだった“仕事ができて可愛い女”を演じるのをやめた。仕事ができるのは変わらないけど、ビシビシと厳しいことを遠慮なく言うようになった。俺はその方が気楽でいい。


不思議なことに、その遠慮のない厳しさで、最近、彼女の人気が密かに上昇中。


もともときれいな人なんだけど、その顔で厳しいことを言う潔さが受けているようだ。出入りの業者さんの中にも、彼女を尊敬の目で見ている人がいる。


人生、何がきっかけで変わるかわからないものだ。






「りょうちゃーん。ちょっと来て。」


彼女が呼んでいる。


結婚して、お互いの呼び方を変えたんだ。


彼女は俺を「りょうちゃん」と呼ぶ。去年、陸と空が使っていた呼び名だ。


2人で考えているとき、彼女はその呼び名しか思い付かないと言って笑った。あの日にしっかりと記憶に刻み込まれたからって。


俺はものすごく悩んだ。去年の正月からずっと悩んでいた。


そして、結婚式の朝、決めた。


「春?どこ?」


俺は彼女を「春」って呼ぶ。


ほかの人が誰も使っていない呼び名。


そして、俺にとっては本当の春のように暖かくてまぶしい笑顔の可愛らしい人だから。


俺たちの家庭が、いつも春のように楽しくありますように!






* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *




椚 春香(旧姓:橘)




わたしたちが「椚くん」と「橘さん」じゃなくなったところで、この物語はおしまいです。


みなさんも、大好きな人と幸せになれますように!






途中、もたついてしまって、思いのほか長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

特にご感想、お気に入り登録、評価してくださったみなさまには励まされ、勇気をいただきました。心からお礼申し上げます。


わたしの頭の中でドラマのように浮かぶ場面を文字で表現することは、難しいけれど楽しい作業でした。


初めから登場しているメインの4人は、わたしにとって愛しい存在になっています。

今まで、あまり登場できなかったコバちゃんを、次からのおまけ話(5話完結)で主人公にしましたので、どうぞそちらもお楽しみください。

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