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佐伯勇樹(10)回想・その8



俺が秘密の執事として橘さんに仕えようと決めて間もなく、隣の係の男が橘さんにまとわりついていることに気が付いた。


9月の異動で新しく来た若い男。竹田といったっけ。


初めはコバちゃんに近付いていたが、橘さんに対象が変わったらしい。コバちゃんに追い払われたのか。


俺は橘さんを守るため、そいつを追い払おうとした。


橘さんを1人にしないために、椚さんと出張が重ならないようにしたり、俺の目に入る範囲で竹田が橘さんに近付くと、用事を作って橘さんに話しかけたりした。


けれど、竹田はなかなかしつこくて、気が付くと橘さんにちょっかいを出している。


俺が追い払うことができないでいるうちに、橘さんがたびたび不安そうな顔をするようになってきてしまった。


直接、本人に言うか?


でも、あの様子だと、ぬけぬけと言い抜けられてしまいそうだ。


それに、そのせいで橘さんへの嫌がらせがひどくなったら困る。


橘さんは周りに心配をかけないように、普段は元気そうにしているので、椚さんは気が付かないらしい。まったく、仕方ないな。


俺一人で竹田を追い払いたいとは思うけれど、今の状況では難しい。


残念だけど、椚さんにも話そう。





俺が話をしたあとの椚さんは素早かった!


あんなに行動力のある人だとは思っていなかったので、とても驚いた。


一緒に対応策を考えようと思っていたら、一人でどんどん動いてしまった。


それほど橘さんのことが心配だったんだ。


何日かして、どうなったのか尋ねてみると、「ちょっとね。情報を集めてるところ。」とニヤリと笑った。


今までに見たことがない、人の悪そうな顔だった・・・。





間もなく、橘さんは目に見えて安心した様子になった。俺にはできなかったことだ。


と同時に、橘さんの椚さんに対する態度がちょっと変わった。


かすかな緊張感が漂っている。


別によそよそしくなったわけじゃなく、でも遠慮があるような。


何かあったなって、すぐにわかった。


こんなにわかりやすいなんて、なんだか中学生か高校生みたい。


俺じゃなくても気が付くんじゃないか?


このまま一気にまとまりそうだ。


やっぱり胸が痛むけれど、本当に、椚さんと橘さんはお似合いだ。


お似合い、というよりも、2人が一緒にいることが当たり前に見える。





・・・と、思っていたら、そこから先に全然進まない!


そんな状態が1週間も続くと、いい加減、俺も見ていられなくなってきた。


しかも、分かりやすすぎて、見ている俺の方が恥ずかしい。


橘さんの執事としては、橘さんの幸せを第一に考えたい。


お互いに好きなのは間違いないんだけどな。


さて、どうしよう。




明日は橘さんが本社へ出張という日、偶然にも係長が椚さんに本社へ行くように頼んでいるのが聞こえた。


車で荷物を取りに行くらしい。


俺は一計を案じた。


橘さんが本社へ行くという情報を、さりげなく椚さんに流す。橘さんの予定は普段の会話の中から、椚さんよりも執事の俺の方が確実に把握しているのだ。


チャンスはあげましたよ、椚さん。


椚さんは、俺の思惑どおりに橘さんの用事が済む時間を確認して、彼女を車に乗せて帰ってくることになった。





翌日。


2人がなかなか戻って来なくて、俺も何となく落ち着かない。


これで決着がつかなかったら、もう協力するのはやめてしまおうと思っていた。


どうにもならない2人なら、俺が執事を返上して参戦してみてもいいじゃないか?


そんなことを考えながらコピーをとっているところに、橘さんが戻って来た。


「戻りましたー。」


声が、なんとなく弾んでいる?


足取りが軽いし、鼻歌でも歌いだしそう。


分かりやすくて、かわいい。


お嬢様、おめでとうございます。


少しあとから椚さんが台車を押して入って来る。


椚さんの様子はそれほど変わらない。まあ、少し嬉しそうな顔をしてるかも。


悔しいからちょっとからかってやろう。


「椚さん。」


ちょうど後ろを通りかかったところを呼びとめる。


立ち止まった椚さんに小声で一言。


「口紅が付いてますよ。」


椚さんが慌てて左頬に手をあてるのを見て、ほっとした。


危なかった!


からかうつもりで言ったものの、もしも口元を隠されたりしたら、自分がショックを受けてしまうところだった!


「なーんだ。そこですか。」


そう言うと、椚さんは一瞬“やられた!”という顔をしたけれど、すぐに機嫌を直した。


そうそう。


いいことがあったんだから、このくらい許してくれないとね。


それに、本当は俺のおかげなんだよ!







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