モテない話
橘さんのモテない話はちょっとおもしろかった。
高校生までは、俺の記憶にあったとおり優等生のイメージが定着していたことと、もともとの人見知りな性格で、彼氏はできなかったそうだ。
「親が厳しかったから、先生と友達みたいに話したり、友達とカラオケに行ったりできなかったから優等生に見えただけ。」
なんだそうだけど。
でも、女の子がアイドルに憧れるように、好きな人はいたらしい。
姿を見るだけでよかったっていうのはものすごく極端な気がするけど、そういう人もいるかもね。
それが、大学に入ったとたん、優等生のイメージから解放されたそうだ。
背が小さいし、サークルでは一番年下ということで、みんながかわいがってくれたという。
高校生のときに遊んでいなかったから、何をやっても珍しくておもしろかったと。
そうやってみんなが仲間として受け入れてくれたけれど、彼女に好きだと言ってきた人はいなかったらしい。
「そんなはずないですよー。気がつかなかっただけじゃないですか?」
とコバちゃんが言う。
「うーん、妹みたいに思ってるって言われたことはあるけど、それって、対象外ってことでしょう?」
え?そうなの?
「飲み会のあととか、家が近いからっていつも送ってくれてた人。いつもありがとうって言ったら、そう言われた。」
「それで?」
「妹って、面倒を見るけど、家族ってことだから、彼女にはしないっていう意味だと思って、お礼を言った。」
ちょっと違うのでは・・・?
「それからも、サークルの送り迎えとかずっとやってくれたけど、個人的に誘われなかったし。」
ビミョーだな。
「そういえば、ちょっといいなと思っていた人がいたんだけど。よくわたしの隣に座って話していく人で。」
ふんふん。
「あるとき突然、どっちが先に彼氏・・・向こうは彼女だけど、ができるか競争しようって言われたの。負けた方が、相手にプレゼントをするって。」
またおかしな申し出を。
「わたしは嫌だって言ったけど、強引に参加させられて。つまり、向こうはわたし以外の誰かを彼女にするって、牽制されたような。」
「それって、二人とも決まらなかったから付き合っちゃいましょうか!っていう展開だったのでは?で、お互いにプレゼントって。」
コバちゃんの意見に佐伯もうなずく。
「どうしてそんな、回りくどいことを・・・。好きなら好きって言えばいいんだから、ありえない。」
と、橘さんは否定。
「変な人は声かけてくるんだよね。地下街を歩いているときに、「写真撮らせてください」ってついてきたり、デパート中あとをつけてきたりとか。」
「ああ。いるいる、そういう人。」
女の人ってたいへんだなぁ。
「この前別れた人と付き合ってたころに、それを知っているのに「映画でも見に行きませんか」ってメールを送ってきた人がいて、」
モテてるじゃないか。
「でも、その人、ちょっとロリコンっぽい人で、自分がその対象かと思ったら気持ちが悪くなった。ロリコン系の人では、ほかにもちょっとあったよ。」
背が小さいからそういうターゲットにも?
「大学のサークルには、同い年にものすごく可愛い子がいて、1年目は次々と彼女を好きだっていう人が現れてね。彼女を見ていたら、同じ土俵で勝負するのは無理って思ったけど、どの土俵に上ればいいのか、結局わからないままです。」
と笑った。
もしかして、こんな風にあっけらかんとそういうことを話すところが橘さんの土俵かも。たぶん、ほかの人にはなかなかできないよ。
橘さんが席をはずしているとき、佐伯にきいてみた。
「本当に、誰も橘さんに申し込まなかったと思う?」
「はっきりとはわからないけど、橘さんは気付かないうちに、態度で断ってるのかもしれないですね。」
ガードが堅いってこと?
「あー、あたしもわかる。春香さんは男の人が誤解するような態度はとらないと思う。無意識に、そういうのを避けてるみたいな。だから、相手は断られるのがわかってて、困らせたくないとか、友達でいいやとか考えて、言わないんじゃないかな。あの美人のお友達は、男の人が希望をもっちゃうようなタイプの人だったんだと思うよ。」
「そのガードを突破してくるのは、それに気付かないちょっと変わった人ばかりってことか。」
「あとは、好きになった人にはガードが低くなるよね。」
「じゃあ、やっぱり別れちゃった彼氏のことは、好きだったんだね。」
「あたりまえ!」
コバちゃんは、仕方ないなぁ、という顔で俺を見た。
「俺は、告白するときには単刀直入に「好きだ」って言わなきゃいけないって、あらためて思いました。」
佐伯がしみじみと言った。
* ---- * ---- * ---- * ---- * ---- *
橘 春香
飲みすぎたかな?
鏡で見ても、とくに顔には出てないけど。
なんか、ここのみんなには気を許せて楽だなあ。
椚くんといると無理しなくていいし、みんなやさしいしね。