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“ファンの集い”(3)


最初に驚きから始まったこの会も、30分を過ぎたころにはどうにか落ち着いて、本来の目的を果たしつつあった。


本来の目的、つまり、佐伯とコバちゃんと話したい人たちの集まりってこと。


佐伯もコバちゃんも、それぞれの取り巻きに囲まれて、愛想良く話をしている。


2人とも、今日は特別にかっこよかった。


コバちゃんはシンプルな白いワンピースを着ている。スカート姿を見るのは初めてじゃないかな。


橘さんが教えてくれたとおり、髪が少しカールしていて、前よりも女の子らしい雰囲気になっている。


来ている女子社員も、いつもより髪がクルクルだったり、目がぱっちりしていたりして、それなりに綺麗だけど、コバちゃんのシンプルな美しさが際立っていた。


佐伯は黒のスーツはいつもとあまり変わらないけれど、ワイシャツがちょっと違う。まあ、俺たちとは素材が違うから、少しのおしゃれでも十分すぎるほどだ。


橘さんは俺と並んで、部屋の隅に並べられた椅子で皿に盛った料理を食べて、満足そうにしている。


彼女はどちらかというと、色気より食い気の人だ。


参加者が、橘さんのことをそっとしておいてくれるのは、ありがたかった。


「知ってる人は来てる?」


橘さんにきいてみた。


「うん。男の人は同期が4人いる。さっきの林さんもそう。」


西村が集めたから仕方ないか。


「女の子はさっきの美樹ちゃんと、三上さんかな、直接知ってるのは。顔と名前は知ってるけど、話したことがない人もいる。」


「三上さんは同じ職場だったんだってね。」


「そう。彼女、仕事がよくできる人だったよ。いつも助けてもらった。」


そう言って懐かしそうに三上さんを見た。


三上さんは女子集団から少し離れて立っている。


さっきの騒ぎの原因となった渡辺さんと林さんは、一時休戦にして、それぞれのお目当ての相手のそばにいた。






それからしばらくすると、集団が崩れ始めて、あちらこちらに2、3人ずつのグループができ始めた。


その隙に、コバちゃんが料理を盛ったお皿を持ってやって来た。


「春香さん、指輪見せて!」


コバちゃんが催促すると、橘さんは指輪が見えるように左手を出す。


「きれい。おめでとうございます!」


そう言って、橘さんに抱きつくコバちゃん。


指輪を渡すっていうことは、結婚が決まったっていうことなんだと、あらためて思った。


自分たちの間では結婚するのはあたりまえと思っていたし、日にちも何も決まってないのは変わらない。


でも、みんなに発表すると、こんなふうに祝ってもらえるんだ。


そこへ西村が林さんともう2人と一緒にやって来た。


「橘さん、お久しぶりです。」


橘さんが立ち上がって、あいさつをしている。さっき言っていた同期の人たちらしい。


今日の会のことや、お互いの近況を話して笑っている。


「橘さん、ここで指輪してるってことは、もう公表するってこと?」


西村が尋ねる。声が大きいからすぐわかる。


「そうなの。みんなの前で宣言するわけじゃないけど。」


そう言って、橘さんは楽しそうに笑った。


「ああ、椚には前科があるからね。」


テレビの話はもう忘れてもらえないかな。





橘さんがビュッフェテーブルに料理を取りに行き、俺はぼんやりとその後ろ姿を見ていた。


明るい照明の下で女の子たちの色とりどりの服が動いているのは華やかな絵のようだ。


だいぶお酒が入った人もいて、ときどき大きな声が聞こえてくるのはご愛嬌。


みんなが楽しんでくれていれば十分。


気が付くと、佐伯が橘さんと話している。


2人で楽しそうに笑っているけど、周りの女の子たちに注目されていることには気付いていないようだ。


職場の同僚なんだから仲が良くて当たり前とはいえ、佐伯を目当てに来ている女の子たちにしてみれば、嫉妬の対象になるのは目に見えている。俺もちょっと妬けるけど。


ひと言言わなくちゃと思って腰を上げた。


2人に近付きながら、彼女を呼ぶ。


「橘さん。」


彼女が笑顔で振り向く。とても楽しそうで、俺も幸せな気分。


その瞬間。


「椚さん。」


右の方から名前を呼ばれてそちらを向く。


三上さんだ。


「椚さん。私、椚さんのことが好きです。椚さんには橘さんがいるのはわかっているけど、私にチャンスをもらえませんか?」






* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *




橘 春香




え?


何?


なんで?


これって・・・?







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