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4月26日



月曜日。


また一週間が始まった・・・けど、今週の木曜日が29日でゴールデンウィークに入る。


30日は仕事があるけど、そのあとは5連休だ。


水曜日はファンの集いがある。


最近はコバちゃんや佐伯に会わせろと言ってくる人も少なくなってほっとした。


でも、俺にはそのときにちょっと計画していることがあって、少しばかりドキドキしてもいる。


うまくいくといいけど・・・。






午前中に、社内の清掃をしてくれている業者さんからゴミの分別のことで相談があったので、各階の共用ゴミカートを見て回る。


給湯室や階段の横に各自で分別して捨ててもらうようにしてあるけれど、完全には徹底しきれていない。


どうすればうまくいくのかと考えながら1階から2階、3階と順番に見て行った。


2階で河野さんとすれ違い、


「あさって、よろしくね!」


と、言われた。そういえば。


「三上さんも参加したそうだったから、河野さんのところに行くように言っといたよ。」


「そうそう。三上さんは意外だったから、驚いちゃった。」


河野さんはわざわざ戻ってきて話し始める。


松川さんの相談役だって聞いていたけど、こういう感じってなんとなく松川さんと似てる。きっと気が合うんだろうな。


「参加希望者が多くて、抽選にしたんだ。同期は少し有利に設定したけどね。」


抽選!


「みんな集めて抽選したんだけど、すごく盛り上がってたから、参加者はみんな気合い入ってると思うよ〜。三上さんも当選したから参加するはず。」


佐伯に覚悟するように言っといた方がいいな。


でも、あいつ、いったいどんな顔をして相手をするんだろう?それも楽しみだ。


3階の給湯室で生ごみのふたを開けているところに、三上さんがやって来た。


「あさっての佐伯に会う会は抽選だったそうですね。」


俺の言葉に、三上さんは吹き出した。どうやら、そのときの騒ぎを思い出したらしい。


「みんな目の色が変わっちゃってて、本当に真剣勝負だったんです。あれを見たら、佐伯さんは引いちゃうかも。」


現場で争いが起こらないといいけど。・・・なんだか不安になってきた。


「ところで、椚さん。ちょっとご相談したいことがあるんですけど。」


なんだろう?


「じゃあ、お昼休みに・・・。」


「ゆっくりお話しできるとありがたいので、今日、仕事が終わってからじゃダメですか?」


三上さんから切実な雰囲気が伝わってくる。何か、すごく困っていることがあるのかもしれない。


「今日は少し残って仕事をするつもりなんですけど、そのあとでも構わなければ。」


「それでいいです!」


そんなに悩んでいることって、なんだろう?


「じゃあ、7時すぎには出るようにしますから、その頃にどこかで待っててください。時間がかかるなら、夕飯を食べながら聞きます。」


そう言うと、三上さんは駅前のパスタ屋を指定した。


そのとき、松井さんが給湯室に入ってきた。


「あ、三上さん!こんにちは。」


「こんにちは。」


と、三上さんは松井さんに微笑むと、俺に向かって


「じゃあ、お願いします。」


と言って、給湯室から出て行った。


「三上さん、機嫌がいいですね。」


松井さんの言葉にちょっと驚いていると、彼女はそのまま続けた。


「いつも、私にあんなににっこりしませんよ。椚さん、何かお願いされてたみたいですけど?」


「別にたいしたことじゃないよ。」


三上さんにだって、秘密にしたいこともあるだろう。


「そうですか。」


考え込む松井さん。ジロリと俺を見る。


「橘さんを裏切るようなことは・・・。」


「ないない!絶対に!それに三上さんは、」


佐伯がお目当てだと言いかけて、止まった。そんな個人的なことは話せない。


俺がそれ以上は話さないとわかると、松井さんはあきらめて紅茶を持って出て行った。





7時半。


何とか仕事を片付けて、三上さんの指定したパスタ屋に着いた。


彼女は先に来ていて、奥のテーブルから手を振っている。


「すみません、お待たせして。」


「いいえ。こちらがお願いしたんですから。」


まずは食べるものを注文しましょうと言われ、メニューを渡してくれた。


注文が済んで落ち着いたところで、


「あのう、ご相談って・・・。」


と、俺から切り出してみた。本人からじゃ、言いにくいこともあるだろうし。


「ああ、はい・・・。」


そう言ったきり、三上さんは言葉が続かない。よっぽど大変なことなんだろうか。


もしかしたら、俺では間に合わないかも。中村さんでも、呼んでおけばよかったかな。


「すみません。どう話したらいいか整理がつかないので、食事が済んでからでもいいですか?」


「いいですよ。」


とは答えたものの、困ったな。何だろう?


横領の現場を見たとか、誰かが不倫関係にあるとか、俺の手に余ることばかりが浮かんでくる。


食事の間中、気になってしまいそうだ。


頭を抱えたい気分になってきたとき、うしろの方から賑やかな話し声が聞こえてきた。と、思ったら。


「あれ?三上さん?こんな時間にお会いするなんて、偶然ですね。」


聞き覚えのある声に振り向くと、松川さんと浅川さんだった。


「あ、椚さん。こんばんは。」


手を挙げて応える。彼女たちは、俺の斜め後ろの席に着くようだ。


「私たち残業だったので、夕飯を食べて帰ろうと思って。椚さんたちもですか?」


「う、うん。そうだよ。」


「浮気しちゃ、ダメですよ。」


また、それを言われるのか・・・。


「大丈夫。そういうのじゃないから。」


こういうときは、きっぱりと否定!間違ったうわさが流れたら困る。


「そうですか。では、私たちのことは気にせず、続けてください。」


そう言って三上さんに会釈すると、松川さんと浅川さんはメニューをのぞき込んだ。


三上さんを見ると、ちょっと怒っているようだ。


そりゃ、そうだろうな。


真剣な話をしようにも、賑やかな新人がそばにいたのでは話しにくいに決まってる。


「お話しするのは、またの機会にします。」


ため息とともに、三上さんがあきらめた様子で言う。


「もし、重大なことでしたら、中村さんにも声をかけますけど。」


そう言った俺に、「とんでもない!」と否定する。


「個人的なことなので、中村さんまでは。」


そうなのか。


いったい俺に相談する個人的なことってなんだろう?


三上さんは気持ちを切り替えたのか、食事をしながら楽しそうに話している。


俺は適当に相槌をうちながら、あさってのことを考えていた。


背中にときどき視線を感じながら。






* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *




橘 春香




椚くんへメール


『コバちゃんが髪型を変えました!伸び始めた毛先にちょっとパーマをかけただけだけど、優しい感じになって、ものすごく可愛いの!

ファンサービスってコバちゃんは言ってるけど、意外に期待してるのかも。男の人はどんな人たちが来るのかな?』







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