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4月23日(2)



現場を回って本社へ戻り、人事課のチェックを受けて解散。


社内で活動していたグループもそろそろ解散で、会議室からぞろぞろと人が出てきた。


「椚さん!」


森田くんだ。今日も元気・・・と思ったら、なんとなく怒ったような顔をしている。


「来週、パーティがあるって聞いたんですけど、僕は出席しちゃいけないって、西村さんが言うんです。」


ファンの集いのことか?


「佐伯さんも、小林さんも、橘さんも行くのに、なんで僕はダメなんですか?」


「ちょっと待て。もう少し隅のほうで話そう。」


橘さんの名前は、あんまり出したくない。


森田くんを引っぱって、廊下の端まで行く。


「誰に聞いたんだ、その話。」


俺の話し方に秘密の雰囲気を感じ取ったようで、森田くんも声をひそめる。


「事務所では誰も話してくれませんでした。でも、勝手に聞こえちゃったんです。」


3人集まってるんだから、仕方ないか。


「今日、お昼に西村さんと一緒にご飯を食べていたら、男の先輩が来て『小林さんのパーティの』って言ったので、同じ話だとわかりました。それで、西村さんに僕も行きたいって言ったんですけど、絶対ダメって。」


あたりまえだ。新人の男の子に、先輩たちの浅ましい姿を見せられる訳がない。


今回はあきらめてもらわなくちゃ。


「今回はお酒が飲めないとダメなんだよね。」


「なんでですか?」


「ええと、ワインの会だから。」


何にも思い付かない。


「ワインをいろいろ飲んで、味の違いとか、香りとかを勉強する会なんだよ。森田くん、未成年だから。」


苦しい言い訳。どうか納得してくれ!


「・・・じゃあ、どんなことがあったか、あとで教えてください。」


そう言って、森田くんは恨めしそうに俺の顔を見た。


「俺じゃなくて、佐伯とコバちゃんに話してもらった方がいいと思うよ。」


その方がきっと面白いだろう。






今日は少し残って仕事をしようかと思ったけど、先週一緒に飲みに行けなかったうちのグループの男の子たち―加嶋君と木内君―に誘われて、今週も居酒屋に行くことになった。松井さんと松川さんも、もちろん一緒。


仕事を後回しにして少し罪悪感を感じているところで、三上さんに呼びとめられてますます慌てる。


「な、なんでしょう?」


「今日、これから新人さんと出かけます?」


「その予定ですけど・・・。」


仕事は大丈夫なのかって、怒られたらどうしよう!


「よかったら、ご一緒してもらえませんか?」


は?


「私も今日、うちの新人たちと行くことになったんですけど、私ひとりと新人だけでは何を話したらいいのか分からなくて。浅川さんのお友達もそちらにいるようだし、よかったら椚さんのグループとご一緒したいんですけど。」


あ、そうでしたか。そんなことなら。


「いいですよ。じゃあ、1階に集合ってことで。」






新人7人を引き連れて、居酒屋へ。


新人同士は女子3人の明るさにつられて、たちまち賑やかになる。


三上さんは、自分のグループの新人たちは活気がないと言っていたけど、この様子を見ると、そんなことはないみたい。


三上さんと今日一日の様子を話していると、松川さんから声がかかった。


「佐伯さんも、小林さんも、恋人はいらっしゃらないんですか?」


どうやら2人のことが話題になっているようだ。


「今のところはいないみたいだよ。」


俺の答えに、新人一同がどよめく。


「じゃあ、誰にでも可能性があるってことですね!」


加嶋君が気合の入った声で言う。


そういえば、加嶋君は大学院出だったっけ。コバちゃんとは1才違いくらい?


でも、加嶋君て、研修中はおとなしいのにね。


しばらくは佐伯とコバちゃんの話で盛り上がって、それから新人たちの間のうわさ話に移る。


名前は出ないけど、彼らが職場の先輩たちをよく見ているので、とても面白い。


そのうち、うっかりして醤油でシャツの袖口を汚してしまい、洗面所へ行った。


戻ってみると、俺がいた席には木内君が座っていて、松川さんから「こっちです。」と言われたのは彼女と浅川さんの間の席だった。


このあいだ、俺のファン宣言をした浅川さんの隣はちょっと迷ったけど、新人のおふざけの一環と割り切って気にしないことにした。


それに、なんとなくこの3人組は信用できる気がする。


でも、佐伯みたいな経験がない俺には、女の子に囲まれて飲み会なんて、ちょっと嬉しいかも・・・。


写真を撮って橘さんに見せたらヤキモチを妬いてくれるかな?


いや、やめとこう。


去年、橘さんが失礼な電話で怒ったときの様子を思い出した。ものすごく怖かったっけ!


それに、彼女は結局、俺のことなんかお見通しのような気がする。


ふふん、と鼻で笑って終わりって可能性も高い。


そうかと言って、話すには話しにくいし、話さないのも後ろめたい気がするし・・・。


ふう。


慣れてないって、こういうときに困るよね。


なんてことを考えながら、またたくさん笑って、8時すぎにはお開きにした。


一日、お疲れさま。


明日は部屋の片付けと休養で、明後日は橘さんとデートだ!






* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *




橘 春香




あさってはどこのインテリアショップに行こうかな?


先週は輸入家具の店を見たから、今度は大きなアウトレットモールとかもいいかもしれない。


見るだけで買えないのが残念だけど。


だけど、あの中から一つを選ぶのも無理そう・・・。







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