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師走です。


12月に入ると、仕事が忙しくなる。


年末年始に休みがあるせいでもあるけど、年内に区切りをつけたい仕事も多いからだ。


事務所全体があわただしくて、残業が続く。


そんな状態でクリスマスデートも覚束なかったけれど、23日の祝日を利用して、橘さんと出かけることができた。




昼過ぎに待ち合わせをして、まずは買い物。


何かペアのものをお互いへのプレゼントにしたいと橘さんが言っていたので、アクセサリーや小物を見て回った。


アクセサリーはプレゼントしたくなるような可愛らしいものがたくさんあったけれど、彼女は俺には似合わないと笑って、最後にペアウォッチに決めた。


名前と日付を入れてもらって、なんだか子供みたいに嬉しくなってしまった俺は、自分がどれほど彼女のことが好きなのかを実感して、自分で驚いてしまった。


ところが、ペアウォッチには罠がある。男性用の方が高いのだ。


俺は、橘さんの喜ぶ顔を見られるなら全部払ってもよかったし、半分ずつでもよかった。でも、彼女はプレゼントだから男性用の分を払うと言って譲らない。こういうところは律義で頑固だ。


でも、それでは俺の気持ちが収まらない。


「じゃあ、俺の腕時計の分は払ってもらうことにします。でも、俺の顔を立てて、もう1つ橘さんにプレゼントをさせてください。」


ということで、再びアクセサリーショップへ。


さっき見て回ったときに、俺が一番橘さんらしいと思ったペンダントを買った。


プラチナのチェーンにアクアマリンと小粒ダイヤのシンプルなものだけど、小柄な橘さんにはよく似合う。


「ありがとう。」


と、彼女は恥ずかしそうに笑って、そのままつけて行くからと店員さんに頼んで、家からつけてきた方を箱に入れてもらった。





夕食は少し早めにイタリアンの店で済ませ、イルミネーションを見ながら散歩した・・・けど、夜になったら風が強くなって、寒い!


橘さんとくっついて歩けるのは嬉しいけれど、これでは風邪をひいてしまいそうだ。


仕方がない。今日は帰ろう。明日も仕事があるし。


がっかりしていると、


「年末年始のご予定は?」


と、橘さんが俺の顔をのぞきこんできた。そのしぐさが可愛すぎる!


「えーと、いつもは年末は家の片付けをして、正月の1日に実家に行って1泊しますけど・・・橘さんは?」


「わたしは31日に実家に帰る予定。お正月の準備を手伝って、2日にこっちに戻ると思う。」


「そういえば、実家の最寄り駅って同じですよね?」


「あ、そうだね!椚くんとは小学校が違うから、家は駅の反対側になると思うけど。」


「じゃあ、2日に初詣に行きながら戻って来ましょう。そうだ!ついでに俺の部屋に遊びに来ませんか?」


「いいの?」


「はい!大丈夫です。年末に片付けをちゃんとやりますから!」


張り切って胸を張ると、橘さんはちょっと考えて言った。


「だったら、年末のお掃除を手伝いに行こうかな。お邪魔するだけじゃ悪いから。2日まで会えないとちょっと淋しいし・・・。」


あまりの幸せに気が遠くなるかと思った・・・。


彼女はそんな俺の様子には気付かない様子で、


「じゃあ、30日の朝9時ごろでいい?えーと、持ち物は・・・」


と、テキパキと手順を決めている。


俺は気を失わないように、目の前にある現実 ―― 橘さん ―― を思いっきり抱きしめた。


橘さんは「うわっ」と色気のない声で驚いて、


「注目されてるよ!」


と、予想外の力強さで俺を押しのけた。






仕事納めは28日。明日から1月3日までお休みだ。


やらなきゃいけないことは何とか終わらせて、みんな明るい顔をしている。


夕方、課長からのねぎらいの言葉とみんなの「お疲れさま」の声で、今年の仕事は終了。「良いお年を」とあいさつを交わしながら事務所から人が出ていく。何組か、一杯やりに行くグループもある。


俺たちも4人でいつもの居酒屋へ行き、無事に1年が終わった祝杯をあげた。


今年のできごとを思い出しながら、4人で笑う。


「そうだ。俺、明日、引っ越すんです。」


と佐伯が言う。


「こんな年末に!?」


みんなびっくり。


「大学のころから住んでいた安いアパートが建て替えになるので、夏ごろから探していたんです。そうしたら、11月に結婚する友人がいて、その部屋に。引っ越しの日程がなかなかとれなくて、年末になっちゃいました。」


「通勤は便利になるんですか?」


と橘さん。


「今までよりは、少し。橘さんの家の2駅先ですよ。」


う・・・。この前、佐伯の「本当は」発言を聞いている俺はものすごく複雑。


「偶然ですよ。」


と、俺に向かって笑って付け足す。その言葉を信じるしかないけど。


仕事の疲れもたまっているので、今日は早く解散。


橘さんと離れたくなくて、彼女が降りる駅の改札まで送って行った。


電車の中で、彼女は「あ!そうか!」と、俺に向かって言った。


「これからは、飲みに行った帰りは、佐伯さんに護衛してもらえるね!」


そんな!


「反対方向の椚くんにいつも送ってもらうのは悪いし、わたしが一人じゃなければ心配ないでしょう?」


「一緒にいたいから送ってるんだけど。」


橘さんは、ニブい!


「あれ?そういう意味だったのか。」


そう言って、首をかしげている。それから


「では、お言葉に甘えます。」


と言って、笑いながら俺に頭を下げた。





* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *



橘 春香



去年の今ごろは、中村さんに振られて落ち込んでたっけ・・・。


恋人なんて、もう一生できないと思ってた。


それが、今は毎日が楽しい。


中村さんと一緒だったときよりも・・・かもしれない。


たぶん、椚くんと一緒だと、無理をしなくていいからだね。


何かを言うときも、何かをするときも、考える前に言ったりやったりできちゃう。


それって、わたしにとってはすごいことだ。





なかよし編、はじまりです。

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