乾杯!
心配事がなくお酒が飲めるのは、本当に楽しい。
橘さんと俺が付き合い始めたことは、コバちゃんも佐伯も当たり前のように受け入れてくれていた。(まだ、ほかの人は知らないけど。)
コバちゃんも、竹田の合コンで知り合った彼氏とうまくいっているらしく、のろけ話も飛び出す。
佐伯はいつものとおりクール。
そういえば、人気はあるのに、浮いた話はきかないな。誰か決まった人がいたっけ?
コバちゃんも、幸せ者が3人もいると佐伯のことが気になったようで、
「佐伯さんの彼女ってどんな人?」
と訊ねた。
「彼女なんていないよ。この前、失恋した。」
「えぇっ!?」
この人を断る女性がいるのかと、コバちゃんと橘さんが驚いている。
ルックス抜群で仕事ができる男だから、それも当然だ。
「別に断られたわけじゃなくて、俺が言わなかっただけ。ほかの男とくっついちゃった。」
「言わないなんて、意外と純情?」
コバちゃんがからかう。
「残念!佐伯さんがフリーだって分かってたら、わたしだって、年上だけどチャンスがあったかも知れないのに!」
橘さんが明るく冗談を言い、佐伯が
「橘さんが積極的に男に言い寄るところなんて、まったく想像できません。」
と返すと、コバちゃんは「本当だ」と爆笑し、俺は思わずむせた。
女性2人がそろそろ帰ろうかと言い始めたとき、佐伯が「もうちょっと。」と言うので、俺は佐伯と2人で残った。
俺は竹田の情報を同期の友人を通して集めたことを話し、彼らの近況や思い出話に花が咲いた。女性達からの情報はどれも「佐伯さんによろしく」というメッセージがくっついていたことも話して笑った。
しばらくすると、
「さっきの」
と、佐伯が唐突に言った。さっきの、何?
「俺の失恋の話。相手は橘さんです。」
ちょっと待て!お前、そんな態度、今まで見せなかったじゃないか!
「引き継ぎのとき、仕事をきちんとやろうとするところに感心して、」
そういえば、珍しく親切だったな。親切っていうより、熱心だったのか?
「仕事をやってみたら前評判通り優秀で、また感心して、」
そうか。佐伯は仕事ができる女性に弱いのか。
「彼氏に別な女性ができて別れたのに、前向きに考えている強さに感動して、」
芯の強い女性にも弱いのか。
「しっかりしているのに、少し抜けているところが可愛いと思いました。」
だいぶよく見ていたな。
「本社での橘さんのひどいうわさには腹が立って、俺が守ってあげようと思いました。」
「お前、そこまで考えたのに、何で何も言わなかったの?」
「橘さんが・・・。」
それとも、言おうとしたのか?
「椚さんの方を向いていると思ったからです。」
いつからか知りたい!
「椚さんの態度はもっと分かりやすかったですよ。だから、竹田の件を椚さんに譲ったんです。貸しですからね。」
なんていいヤツ!
「それに、俺と二人で留守番のときは、なんだか落ち着かない様子で、もしかしたら嫌われているんじゃないかと。」
意外に弱気なんだな。だけど可笑しい。
「橘さんはイケメンが苦手なんだって。カッコいい人と二人きりになったら、ものすごく緊張するって言ってた。」
「そんな!見た目で損をするなんて!」
「だいたいの人は、見た目で損をしていると思うよ。お前が得をしすぎなんだよ。」
ショックを受けた佐伯は、がっかりしたポーズをとっていても、やっぱりカッコよかった。
「でも、緊張するってことは、意識してるってことですよね。」
お、復活?
「もしかしたらチャンスがあるかも。」
今から頑張るの?心配になるからやめてくれ!
「冗談です。でも、椚さんが橘さんを泣かせたら、俺は遠慮しませんよ。」
「泣かせるなんて、あるわけないだろ。」
「どうでしょうね。」
佐伯、ごめん。
お前は大事な友人だけど、橘さんは譲れないから。
「とりあえず、椚さんと橘さんの幸せを願って、乾杯。」
サンキュー。
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橘 春香
佐伯さんが失恋したなんて、びっくりだ。
あんなにカッコいいのに、佐伯さんて意外と奥手なのかな。
きっと、自分から言わなくても、女の子が集まって来ちゃうから、自分からアプローチするのに慣れてないのかも。
人には意外な弱点があるものだね。
読んでくださってありがとうございます。
次から第二章です。
続きも楽しんでいただけたらうれしいです。