撃退!
知り合いたちに依頼した竹田の調査は、たくさんの情報をもたらしてくれた。
女性にはとにかく評判が悪かった。
それも、同じ課だけじゃなく、本社中と言ってもいいほどの範囲で。
ルックスに自信を持っていて(あの程度でか?)、やたらと付きまとう。冷たくしても、逆の意味に解釈する。
嫌われていると分かると、嫌がらせをする。直接だけじゃなく、悪い噂を流したり。
セクハラ発言、学歴による差別的な発言も多数。
女性社員がグループを作って、竹田の所属課長に苦情を言いに行ったそうだ。
男性からは邪魔にされている。
本人は仕事ができるつもりだが、実は役に立たない。
それどころか、竹田の対応のせいで信用を落としそうになったことが2度ほど。
仕事を教えても、「知っている」「自分のやり方の方が上手くいく」と言って、勝手な方法で進めようとする。
その揚げ句、失敗すると、嘘をついてごまかそうとする。
そういったことの対策のため、彼には、失敗しようのない業務しかさせなかったそうだ。
その分、周囲の負担は大きくなったはずだけど。
それでも、上司に取り入ろうと、自分の手柄話をする・・・が、本当は自分のじゃない。
同僚の恋人に手を出そうとした。
取引先の女性にも同じようなことをして、その女性の上司からも苦情が来たそうだ。
こんなヤツ、どうして採用されてしまったんだろう。面接で見抜けなかったのか。
優秀ではないとしても、普通でいいのに。
まあ、10分や15分の面接では、分かるはずもないか。
中村さんは、人事課の伝手から入手した異動の理由をそっと教えてくれた。
さすがエリートは顔が広い。
『とにかく、本社に置くのは迷惑』
『女性が少ない職場』
『ベテランの先輩に囲まれて、ビシビシ鍛えられる職場』
そして、重要なのはこれ。
『女性に対する行動を改めること。1年半後までに改善が見られなければ解雇。』
これは本人に言い渡してあるそうだ。
だから、勘のいい佐伯しか気付かなかったんだ。
でも今、俺には証拠のメールがある。
竹田が帰るところを見計らって、事務所の廊下でつかまえた。
「うちの係の小林さんと橘さんから、きみから嫌がらせを受けたって相談されたんだけど。」
まずは逃げられないように軽い口調で。
「は?俺には何のことかわかりませんけど。」
白を切るつもりか、首を捻って見せている。
「そう?事務所に人が少ないときに近寄ってきたり、下品なことを言われたって言ってたよ。」
それを聞いて、竹田はふてぶてしく笑った。
「それ、逆じゃないですか?俺の方が付きまとわれて迷惑してたんですよ。俺が断ったからって、そんな風に言うなんてひどい人たちだな。」
ばかやろう!
「あれ、そうなの?俺は、橘さんにきみから毎日届くメールを見せてもらってるけど、あの内容じゃ、きみが嫌がらせをしているようにしか見えないね。」
竹田の顔色が変わった。
「小林さんも、橘さんも、泣き寝入りするような人じゃないよ。今はこんな物もあるし。」
ポケットからボイスレコーダーを取り出して見せる。
「二人にいつも携帯してもらおうと思ってるんだ。」
「くそっ。脅すのかよ?」
「別に。嫌がらせをしないって、普通のことだろ。続けるようなら、課長に報告するよ。きみ、クビがかかってるんじゃないの?」
「何で知ってる!?」
心底、驚いた顔をした。
「人間、信用が肝心だよ。じゃあ、お疲れさま。」
竹田は悔しそうな顔をして帰って行った。あれで心を入れ替えて、仕事に励むといいけど。
「いやー、お手柄だねえ。」
後ろから声が・・・課長?びっくり!
「出て行けなくなっちゃって。はっはっは。」
「すみません。勝手なことを。」
冷や汗が止まらない。竹田、課長にバレちゃったぞ。
「まあまあ。あれでしばらくは大人しくなるだろう。俺は知らないことにしておくから、さっききみが言ったとおり、続くようだったら報告して。」
「はい。」
「じゃ。」
先輩面して説教(っていうか、脅し?)したところを見られてたなんて、やだな・・・。
席に戻ると、コバちゃんが「どうだった?」と駆け寄ってきた。
「やめるように言ったけど、あとは本人次第だから。念のためだけど、しばらくは二人ともこれを持ってて。」
ボイスレコーダーを渡して、使い方を説明する。机に置くだけでも効果があると思うし。
「じゃあ、今日は撃退祝いで一杯やろうよ!」
コバちゃんの一声で、久しぶりに4人で飲みに行くことにした。
* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *
橘 春香
椚くんの行動力にはびっくりした。
頼りないなんて、今まで失礼なこと言っちゃったよ。
ものすごーく見なおした!