初デート・・・のつもり(2)
店から出たところで俺の電話が鳴った。・・・三田?
橘さんに断って、一歩離れて電話に出る。
『椚先輩、さっきの人、彼女ですか?』
「まあね。」
そう願っている。
『彼女、ヤバいですよ。』
「何が?」
『あの、萌えメガネ。』
え?一瞬、声が出ない。
『さっき、俺が話しかける前、周りの男たちからも注目の的でしたから。』
「えーと、俺と同い年だけど。」
『そんなの関係ないんです。“小さくて可愛いメガネキャラ”っていう目の前の事実だけで。あっ。また話しかけられてますよ!』
どこからかけてるんだ?と思ったが、それより橘さんだ!
『目を離しちゃダメですよー。』
という声を聞きながら電話を切って振り向くと、デジカメを手にした男が橘さんの前に立ち塞がっている!
橘さんがちらっと俺を見て、その男に「すみません。失礼します。」と言いながら、俺の方に後ずさり。
連れの男がいるとわかると、デジカメ男は去って行った。
「いきなり、「1枚いいですか?」とか言われたけど、いいわけないでしょ!知らない人なのに!」
今度は怒ってる。
「ごめんなさい。もう離れないようにします。」
「違うよ。椚くんに怒ってるんじゃなくて。」
「とりあえず、座って甘いものでも食べましょう。」
橘さんが「いいね。」と言ったので、また彼女の手を取って歩き出す。
彼女は少し驚いたようだったけど、手を引っ込めはしなかった。もし引っ込めそうにされても、絶対に離さないけど。
彼女を連れてきたのは、この夏に開店した戦国カフェ。足軽姿のウェイターがサービスしてくれる、和風デザートを中心にした店だ。
人気武将の家紋が入った食器をチョイスできたり、ちょっとした芝居を見せたりして人気を集めている。足軽たちが気軽に写真を撮らせてくれたりもして、歴女と言われる女の子や外国人の観光客も多い。
足軽が恭しく運んできた武田菱入りのお盆の上のあんみつと抹茶を前に、「偉くなった気分」とおもしろがっている橘さん。
どんな姿もかわいいです・・・。
「今日は、コバちゃんが一緒じゃなくて残念だったね。」
橘さんが話しかけてくる。
「コバちゃん?」
と、首をかしげる俺に、橘さんは「だって」と続けた。
「椚さん、コバちゃんのこと、好きなんでしょう?」
金子さん情報か!でも、ここではっきり言ってくれてよかった。訂正可能だ。
「それは誤解です。」
「あれ?あんなに嬉しそうに話しているのに?」
「コバちゃんはゲームの中からの付き合いですから、仲間的な感じですよ。それに今、コバちゃんには彼氏がいるそうです。」
「ふうん・・・。」
ちゃんと説明をした方がいいのかも。
「俺がコバちゃんを好きだっていううわさがあったのは知ってます。コバちゃんは、それで言い寄って来る人数が減ればありがたいって言ったんです。彼女のことを好きな男が近くをうろついていれば、それが俺でも、多少の防御効果があるからって。」
橘さんが目を丸くする。
「俺は女の子を紹介されたり、合コンに誘われたりするのが面倒だったので、コバちゃんがそれでいいなら、と思ってそのまま放っておいたんです。」
「うわー。そんな理由が・・・。でも、そのうわさがなかったら、椚くんだって彼女ができていたかも知れないのにね。」
「片思いのうわさなのにですか?」
「付き合ってなくても、椚くんの好みがコバちゃんだと思ったら、どんなチャレンジャーも二の足を踏むよ。」
そもそもチャレンジャーがいたかどうか。
橘さんは今日、どんな気持ちで来たんだろう。
あのときの話の流れでなんとなく?
俺がコバちゃんを好きだから、自分は仲良しの同僚として安心していたとか?
そうじゃないって知っていたら、来なかったのだろうか?
俺が彼女の気持ちを誤解しないように?
・・・知るのが恐い。
今日の様子を見ていて、秋葉原駅から橘さんを一人で帰すのは危険だと思ったので、俺も彼女の家方面を回って帰ることにした。
「あ、ほら、あのマンションなんだ。」
彼女の降りる駅に近付くと、駅前のマンションを指差して教えてくれた。
あれなら帰り道の心配はなさそう。
「お疲れさま。」
とあいさつして電車のドアから見送った。
まだ俺の気持ちを伝えるのは早いのかな・・・と思った。
コバちゃんとのうわさの真相を知った橘さんに、今日のことを含めて、今までのことを落ち着いて考えてもらいたい。
それで、俺への態度が今までと変わらなかったら伝えよう。
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橘 春香
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
コバちゃんのこと、誤解だったって。
ほかに好きな人がいると思って安心して、話したり、冗談言ったりしてたけど、いけなかったかも。
でも、椚くんは全部受け止めてくれた?
それって・・・いやいや、勝手に期待しちゃダメだ。
でも、期待って、自分が椚くんを・・・ってこと?
あー!わからない!
どうしよう。