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不思議なやつまとめ

02 - ぬいぐるみ

作者: 櫻井ゼノン
掲載日:2026/04/19

なぜだろう。ぼくは今日も捨てられていた。


ぼくは多分特別なぬいぐるみだ。そしてかわいい。

考えたり、感じたり、喋ったり、動いたりできる。やはりかわいい。

なんとテレパシーみたいなものもできる、すごくてかわいい。


比較的綺麗な見た目のまま、ゴミ捨て場に捨てられていたら、

かわいい女の子がぼくを拾って持ち帰り、丁寧に洗ってくれた。

おほー、そこそこ。たまんねぇ~。これよこれ。


その日の夜のぼくは、一旦しっかりと乾かされていた。

そして次の日の夜、いい匂いになったぼくは、女の子のベッドにいた。


ぼくは女の子と「ともだち」になろうと考えて、

もぞもぞと動き出し、ぴょこぴょことでも効果音が鳴りそうなかわいい歩き方で、

天使のような顔で寝ている女の子の前に、小さな二つの足で立った。


女の子を丸っこい手でゆさゆさと揺らすと、

彼女は眠たそうに目をこすりながらぼくの方を見てきた。

そこでぼくは、身振り手振りをしながら、テレパシーで今の気持ちを伝えた。


(こんばんは! ぼくは、きみが拾ってくれたぬいぐるみだよ! ぼくを綺麗にしてくれてありがとう! こんなに大事にしてもらえてぼく、とってもうれしいよ! ていうかきみかわいいね! ぐふっ)


あ、やべっ、心の声が漏れちまった。

聞かなかったことにしてもらえないかなーっと。

そう思っていたら、女の子の心の声が聞こえてきた。


(うん? なんでぬいぐるみがここにあるの? ていうか動いて…喋ってなかった?)


あーっ。動いちゃダメだったのね。

心のオッサンが漏れたのはバレなかったか。


(あのね…ぼくは、きみとおともだちになれたら嬉しいなーって…ンフッ。ハァ、ハァ…)


「えっ……きゃーーーー!!!!!」


おー、ちょっちょっちょっ、ちょっとちょっと、どうしたのどうしたの。

ダメだよ急にそんなでっかい声だしたら、びっくりしちゃ…


(怖っ! 人間みたいに動いたり感じたりしてるの気持ち悪っ!! いやっ、怖い怖い怖いなにこれバケモンじゃん!!!)


あらやだそんなこと思われちゃってたのね。ていうか遅くね?

でも大丈夫、ぼくはとっても紳士的で安全なかわいいかわいいぬいぐ…


「おかあさーん!! おかあさーん!!」


待って待って。お母さん呼ばないで、その流れまずいって。

わかってんの。僕わかってんのそれ。

知ってんだって。ちょ、まずいって。やめてやめてやめ――


次の日、ぼくはまた捨てられていた。


つーか土砂降りだ。ザーッ、じゃねぇんだよ。

ぼくの心じゃんこんなの。泣きてぇー。涙出ねぇー。

体が汚ねぇ水吸ってきもちわりぃ~。…おえっ。


くそー、喋るのも動くのも考えるのもダメだったか。

ぬいぐるみって難しいな。


でも、着ぐるみの中の人は他人にベタベタしても怒られないよね。

中にドギツイ見た目のおっさんが入ってるかもしれないのに。

なんでぼくはダメなんだろう。おかしいよな。ぼくのがかわいいのに。


…あっ、キレそう。


ぼくの中でブチブチブチと、

湿りきっていない綿が膨張してちぎれる音がした。


あっ、やべっ。あぶないあぶない。逝くところだった。

なんで中身全部綿でできてんだよなー。ほんと。


くっそー、人間になりてぇ。

人間になって女の子とあんなことやこんなことしてぇ。

この体動きにくすぎるんだよ。


…あれっ、こんな雨ん中、傘も差さねぇで突っ立ってるヤツがいるぞ。

つーか、ぼくのこと見てねぇか。怖っ。

あっ、近づいてきた。おっさんじゃねーか。なんなんだこのおっさん。


うわっ、このおっさん、目の下にすんげぇクマあって、

死んだ魚の目みたいな目ん玉で見てきやがる。怖ぇー。


…お、おいおい、やめろよな。そんなジロジロ見るなよ。

ぼくはかわいいチャンネーに拾われたいの。

かわいいものには、かわいいものを。世界の摂理でそう決まってるだろうが。


…あっ、おいっ、やめろ、触るな。

そこを触っていいのは一流のクリーニング屋と、

かわいいかわいいベイビーちゃんたちだけ…


――パァン!!


ぬいぐるみは唐突に、男から強烈な平手打ちを食らわせられた。


「…何やら強い邪念を感じたが…上手く祓えたか?」


男はぬいぐるみを何度か傾けたり軽く振ってみたりして確認した。

そして、元あった位置にぬいぐるみを戻した。


「今度はちゃんと拾ってもらえるといいな」


男は両手を合わせ、ぬいぐるみに頭を下げると、

雨の中をぴちゃぴちゃと音を立てながら、背を向けて去っていった。


…っぶねー。逝ったかと思ったぜ。

なんだったんだ、あのおっさん。


さーて、早くかわいこちゃんに…あれっ、体が動かねぇ。

かわいこちゃ…ううん。ぼくはただのぬいぐるみ。

ぬいぐるみは考えたりしないんだ。


ぼくが買われるのも、拾われるのも、捨てられるのも、

それに、壊されてしまうのも持っている人の自由。

ぬいぐるみはぬいぐるみでしかないんだ。だから、さようなら。


ぬいぐるみは己を捨てた。


ぬいぐるみに宿っていた魂のようなものは、

穏やかな雰囲気を纏い、どこか遠くへと消えていった。


そのぬいぐるみはしばらくして、よく晴れた日に、また別の女の子に拾われた。

ただのぬいぐるみになったそれは、ぬいぐるみとしてしか振る舞わず、

女の子が大人になるまで、本当の友達のようにとても大切にされた。

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