雨宿りに合い言葉
しとしと、と降りしきる雨のなか。
一人の少年が、寂れたバス停の前で佇んでいた。
一年前に路線が無くなって、使われなくなったバス停。
トタン屋根と、それを支える柱が、
木のベンチを囲うように立っている。
バス停のベンチには、すでに先客がいた。
雨に濡れて立ち尽くす少年の瞳に映る、一人の少女の影。
「合言葉……いくよ?」
「……おう」
少女の言葉に、少年がこくりと頷く。
短髪の黒い髪先から、雨粒が散った。
『合言葉』がないと、
バス停のなかには入れないようだ。
少女は少年の返事に満足げに微笑む。
そのまま、両手をそっと持ち上げて——
パン、パン
一定のリズムで、手を叩き始めた。
少女の瞳がスッと細められ、
少年はごくりと喉を鳴らす。
少女の唇が、ゆっくりと開かれた——
「お前の母ちゃん?」
「『家一番』」
「雷親父?」
「『雨ざらし』」
「放蕩息子?」
「『親孝行』」
「お転婆娘は?」
「『アマテラス!!』」
「今日も平和な?」
「『山田さん家』」
少年の言葉を最後に、ふたりはぴたりと口を閉ざす。
少年は自信に満ち溢れた表情で、少女の言葉を待った。
少女の口元が、そっとほどけて——
「ぶっぶー!
ご家庭が違いまーす」
「はい、やり直し〜」
少年を鼻で笑った。
「くっそ!」
眉を寄せて悔しげな声を上げた少年に、
少女はけらけらと笑う。
雨が地面を弾く音のなか、
乾いたリズムと、二人の楽しげな声が、
しばらく溶け合っていた——。
おわり。




