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4話「少し動いているみたい」

 ぼろぼろの木造家屋。何回か増築を繰り返しているのだろう、明らかに建物全体のバランスがおかしい。

 入り口の横に大きなガレージがある。シャッターは完全に下りている。

 ダンはシャッター横の大きなハンドルを回し始めた。するとシャッターは徐々に上がり始めた。


「ちなみにだが、その血だらけの女は死んでたか?」


 シャッターを回しながら、ダンは尋ねる。


「たぶん、死んでる。ピクリともしていなかったからね」


「あ~、そうか」


 ルーファーはダンの素っ気ない返事に拍子抜けした。

 聞いた割には意外にもあっさりとした返事だ。だんだんとシャッターの内側に陽が入り始めた。


「商士学校では、商隊が使う車に乗る機会はないだろうな」


「そうね、教科書で習うだけよ」


 ダンは更にぐるぐるハンドルを勢いよく回す。

 鉄の塊が陽に晒され始める。比較的身長の高いダンの背丈と変わらないくらいの大きな車輪と明らかに分厚い装甲の車両が見え始めてきた。


「あ”ー疲れた…てか少しは手伝ってくれてもいいんじゃないかな?若いんだし」


「さっき封樹の力(エルマ)を使って疲れたから無理だわ。それにあんたもそんなに歳食ってないでしょ」


「俺は29だ。人生の先輩だ、少しは手伝う気起きたか」


「45だと思ったわ。ずいぶんと老け顔ね」


 ルーファーは軽くあしらった。

 ダンは少しむくれた表情をした。そして、徐々にダンのハンドルを回す速度が落ちてくる。


「よし、これで出せるかな」


 ダンは回すのを止めた。

 紺がベースの色で、4つの白い斜線が所々にあしらわれている。

 車両の真ん前には、おそらく隊章であろうマークが刻まれている。


「これがうちの商戦車だ。ベルスで一番かっこいいと評判なんだ」


 少し誇らしげにダンは言った。


「ま、とりあえず乗ろう。出入りはこっちから見て左側からしか無理だ」


「不便ね」


「そういうもんなんだ、ただ動くか心配だ。この前のでイかれてないよな。」


 ダンは足早に商戦車のドアを開けに行った。

 ルーファーは少し商戦車を見たいと思い、ドアの反対側に歩き始めた。

 よくよく目を凝らすと、いたるところに傷がついている。銃弾がめり込んだ跡や大きな動物がひっかいたような跡である。


「おねえさん、商戦車は好きかい?」


「うぎゃ!誰!?」


 ルーファーはびっくりして思わず後ずさりした。

 すると地面からガラガラと音がしてきた。


「悪いね、驚かすつもりもなかったんだけどね」


 キャップの唾を後ろにして被っている金髪の男が顔を出してきた。

 仰向けの姿勢で、車両の下から顔だけのぞかせてきた。ルーファーは新しいタイプの変態だと思った。


「いや~君の足が全然動かないから、てっきり凄い商戦車ファンだと思ってね」


 ガラガラと音を鳴らしながら、全身を出してきた。

 どうやら台車に仰向けになって車両の下にいたようだ。


「その傷はね、この前の採木のときのやつさ。いやね、ほんとに運がよかったよ。もっと深くえぐられていたら動力が失われて、動けなくなるところだったからね。そしたら今頃あの世でパーティー中さ!」


 金髪男は、ルーファーの真ん前にある車両のひっかかれたような跡に言及した。やけに呑気に死にかけた話をするもんだと思った。


「おい、ネル。そいつはこれから俺と出るんだ、ほっといてくれ」


「えー、この子商戦車好きらしいから話したかったのに~」


 ルーファーは苦笑いを浮かべながら、そんなこと一言も言っていないと思った。


「そうなのか、悪いな。とりあえず用事が終わったら、そいつを貸してやるから気を失うまで話し合ってくれ」


「ダン~、ほんとにいいやつだ君は」


「だろぉ。ルーファー、とりあえず乗れ」


 ルーファーは急いでドアの方へ向かう。


「ルーファーっていうのか、ここで待ってるからねー」


 背後から恐ろしい言葉を掛けられた気もしたが、ルーファーは聞こえないふりをした。

 ダンが運転席へ移動した。


「すぐに動くのは確認できたし、問題はないだろう」


「大丈夫なの?」


「なんかあったら、ネルのせいだ。とりあえず、一旦このベルスを離れるぞ」


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