19話「嵐がくるかも」
~前回まで~
タカンのアジト攻略に向けた話し合いがアルスの村の集会所で行われた。
そこでは、「ベックス商隊」「チーダス第二商隊」が現れ、作戦の実行に向け議論が交わされた。
会議は小一時間ほど続いた。
まとまった内容は『敵の拠点は山中の古城であり、そこを数日後の早朝に全隊で一気に攻め込んでいくこと。それまでに内部構造や敵の情報をできるだけ集めること』といった点である。
「キース様が来訪されるまで残り2週間と時間がないです。この拠点を中心に作戦行動をとることは明白、必ず潰さねばなりません。」
最後にダンは会議をしっかりと締めた。
その後アルスの武器屋でベルス第一商隊の話し合いが行われた。
ダンはやや疲れている様子である。
「俺たちは封樹の剣も同時に回収しないとまずい。それに、ただの人質解放じゃない。結局キース輸送の邪魔になるものをすべて排除しないとまずい」
ダンは語気強く言葉を発した。
「そうだよね~、結局攻撃手段がなくならないと意味ないし」
リンもいつもとは違い真剣な表情をしている。
ミカゲは窓際にぽつんと座っている。
「ダルムスの連中が持っているあれは何なんだ」
「封樹の剣か。ここの北方の国で開発されたものをダルムスが目をつけて買っているらしい」
ダンは、机の上に広げた地図の大体の場所を指さした。
「今わかっているのが、封樹の剣は封樹の力を使えない人間に一定時間その力を使えるようにするというもの。また、その時間はおよそ2分。それを使って俺らに攻撃してきている連中の一部は、家族をあそこで監禁されていることが考えられる」
「監禁なんて…酷い…」
リンが暗い顔でつぶやいた。
「ダルムスの連中がベクタードの村一つを壊滅させたっていう報告もあがっている。家族の解放を行えば、一部兵士は少なくとも士気がなくなる…戦う理由を奪わないとな」
「つまりこの作戦の成功がすべてだね」
ネルがざっくりとまとめた。
ダンもその通りという表情で頷き、打ち合わせを終わらせた。
そして、ルーファーの横を通るとき、
「ルーファー、お前はリンと同じグループでいけ。封樹の剣の奪取が大事だ」
と言葉を吐いた。『とにかく数日後まで俺は運送屋の仕事を続けるから、お前らで頑張ってくれ』と全体に呼びかけ、店の外へ出ていった。
その後、ミカゲは空から建物の構造を徹底的に把握した。リンとルーファーは山中の山城を調べるため近くの村の図書館で資料を読んだりしていた。他の商隊がこの間何をしているのかがルーファーには全くわからなかったが、この作戦の成功だけは強く意識していた。
そして、作戦前夜、ルーファーはアルスの家にいた。
「アルスさん、すいません、ずっと泊めてもらってて」
「いいのよ、普段独りでこの家は寂しいから、人がいてくれた方が安心するのよ。バダンの家に女子を泊めるわけにはいかないしね」
「ありがとうございます。アルスさんはベルス第一商隊の隊員ではないんですよね?」
「そうよ、私は隊員ではないわ。」
アルスは、キッチンでお湯を沸かしながら話をしている。ルーファーはそんな姿を見て、何となく母を思い出していた。
「何で私たちに協力してくれてるんですか?」
「ダンに頼まれているから、かしらね」
アルスは湧いたお湯を急須にいれ、少し蒸した。茶のいい匂いが部屋に広がる。
「すいません、質問ばかりで、ダンとはどんな関係なんですか?」
アルスはカップにお茶を注ぎ、ルーファーの前に温かい飲み物を置いた。ルーファーは、頭を下げ、カップに少し口をつけた。
「私たち、元々夫婦だったのよ」
ルーファーは『あっち”』といって、椅子から転げ落ちた。
「夫婦⁉あ、え、元々?」
驚愕の事実に椅子に戻るのに時間がかかった。
「ふふふ、そんなにおかしいことかしら。そう、少し前までね。でも、今でも仲はいいのよ」
「こんなにきれいな人にはあまりに不釣り合いで、びっくりしました」
「ふふふ、そうかしらね。面白い人なんだけどね」
『珍獣っていう意味では確かに面白い』と腑に落ちた。
だが、ルーファーには少し気になることがあった。
「何であんなに任務を頑張るんでしょうか」
たまに何故あんなに必死にやっているのか疑問に感じていることをアルスにぶつけた。
ルーファーは特に考えて聞いたつもりもなかった。
「彼なりにしたいことがあるみたい。私にはその価値が分からないけれど…」
アルスもコップに口をつけ、ぼんやりと部屋の窓から見える星をみていた。
「ルーファーちゃんは、恋とかしないの?」
唐突な質問にルーファーはまたしてもびっくりした。
「え、まあいい人がいればですけど…」
「ふふふ、いつ現れるかはわからないけれど、必ず現れるはずよ」
少しからかうような優しい笑顔をアルスは浮かべている。
「ルーファーちゃんは何で商士なんて危ないことしているの?今度は私が質問する番ね」
「ハレス帝国の首都ハレに住んでいる母に会いに行きたいんです。その為にお金が必要なんです」
アルスは少し目を丸くしてルーファーの話を聞いている。
「ハレスか、凄い遠いね。大陸の反対側だ。半年はかかる旅だね」
「そうなんです。お金が必要で…」
「何でお母さんに会いたいの?でも、家族に会いたいのは当然かあ」
「私が商士学校に入る前、10歳くらいの時に突然出て行ってしまったんです。その時のことを今でも良く思い出すんです。母はとても辛そうに家から出ていったから…」
「お母さんはホントは離れたくなかったんだろうね、何か理由があるのかも」
ルーファーも何か特別な理由があるのだろうとは感じていた。母の諦めにも似た表情が頭から離れないのである。
「ハレスはベルス第一商隊の隊員の故郷だから、いつか連れっててくれるかもよ」
「ホントですか⁉みんな、ベルスの人間かと…」
「私もハレスの人間だしね、あ、もうこんな時間、明日早いからもう寝ないとね」
アルスは時計を片目に、コップを片付け始めた。
「あ、あ、はい、お部屋借ります」
ここまでの主な登場人物
ルーファー・カリン:記憶を読み取る特殊な能力を持つ少女。この物語の主人公
ダン:ベルス第一商隊の隊長。ズボラな適当人間。銃身が長すぎるライフルを武具にしている。
リン:ベルス第一商隊の隊員。明るく親しみやすい性格の天然キャラの女。
アルス:武器屋の主人。
~言葉~
封樹=エル。巨大樹のこと。
封樹の力=エルマ。エルから採られて使われるエネルギー。あらゆるものへの活用がなされている。
封樹の戦士=エルズ。エルマを用いて戦う人間。
ベルス王国=ルーファーたちが暮らす大国




