10話「封樹のさらに詳しい話」
主な登場人物
ルーファー・カリン:記憶を読み取る特殊な能力を持つ少女。この物語の主人公
ダン:ベルス第一商隊の隊長。ズボラな適当人間。銃身が長すぎるライフルを武具にしている。
カレス:ベルス商議会の老議員。森の中である集団に襲われていた。
~言葉~
封樹=エル。大樹のこと
封樹の力=エルマ。エルから採られて使われるエネルギー。あらゆるものへの活用がなされている。
ダンたちは斜面を上がりカレスと合流した。
ミカゲと共に周辺を捜索した結果、カレスを護衛していたお抱えの部隊は壊滅しているとわかった。
カレスは少し涙ぐんでいたが、その毅然とした雰囲気は一切崩していなかった。
「ところで、カレス議員。なぜここにいらっしゃるのですか?」
ダンは、周りを見回しながらカレスに聞いた。
「あなたに親しい議員に会いに行く途中よ」
「つまりコルデン議員のところへ?」
「そうよ、ついでに連れて行ってくれるかしら。私の車両はすべて壊されているようだし。
コルデンのところで彼らの遺体を収集してもらうしかないわ」
「承知いたしました」
ダンは、ミカゲに先にコルデン議員のところへ行くよう指示を出した。
そして、ルーファーは状況に付いて行くことが出来ていなかったが、コルデン議員のいるところへ向かうのだなということだけは理解した。
『一体カレス議員の襲ってた連中は誰なのか』については、カレスもダンもすでに分かっているようで、ルーファーはタカン議員とつながるのかと考えていた。
「天気悪くなりそうだな…」
ダンは呑気に空を眺めている。
ルーファーたちは、商戦車に乗り込み再び森の中を走り始めた。
朝にレンドから出発し、もう陽は沈みかけていた。雲も段々と厚みが増し、空が暗くなってきた。
少し不穏な雰囲気を感じてたルーファーの横に、カレスが座ってきた。
席がほかにもまだ複数あるにも関わらず隣に座ったことに、ルーファーは緊張した。
「あなたにも本当に助けられたわ。ありがとう」
カレスは落ち着いた物言いで話しかけてきた。
「いえいえ、私は何も…」
「あなたはベルス第一商隊の隊員なのかしら?」
「いえ、現在面接中なので、まだ協力者です。」
「ふふふ、なにそれ。面接中にあんな目に合うのは大変ね。ふふ」
無垢な少女のような笑顔である。
「私はベルス王国の商議会で議員をしているカレスよ。私の専門は、採木事業よ」
「採木…」
「あんまり詳しくない?」
カレスは優しい瞳で聞いてきた。
採木は商士学校で最難関の科目であり、当然ルーファーは、その科目を苦手だった。
そんな様子を察したのか、カレスは話を始めた。
「お勉強は少し嫌いかしら…少し話すと、知っての通り採木は封樹のエネルギーを抽出する作業のことよ。そして、そのエネルギーは簡単には採れない」
ルーファーもさすがに知っていることであるが、やさしく一番手前から話をしてくれていることはわかった。
「封樹は巨大樹。何日間も木の中に穴をあけ、封樹のコアにアンカーを打ち込んで抽出するの。でもね、その穴を開けて抽出している間が一番大変なの」
カレスの話しぶりはいかにも政治家らしい熱を帯びている。ルーファーも思わず引き込まれる。
「封樹の生えているところには、封樹の力をもらいながら生活している生物がたくさんいる。彼らにとっては自分たちの生命の源を奪われかねないから、必死に封樹を守ろうとする。つまり、彼らは人間に攻撃を仕掛けてくる」
ルーファーにとって知っていることがほとんどだが、何故かもっと話が聞きたくなる話しぶりだった。
カレスは少し窓の外を眺めた。雨がポツポツと窓をたたき始めた
そして再びルーファーの方に向きを変えた。
「まぁ生物だけなら何とかなるんだけど…その生物たちと共に他国の人間も、封樹のエネルギーを狙って攻めてくる。そして人が絡めば政治も絡む。私はその政治の部分で頑張っているの。昔の仲間の遺志に報いるためにもね…」
「昔の仲間ですか?」
「私は元々とある商隊の商士だったの。そして、ある採木中、敵の侵攻を受けて、自分以外の全員が亡くなったわ。それは単に武力では防ぎようのないものだったわ」
「それがきっかけで商議会に入ったということですか」
「そうね、単に力だけでは、世界をどうこうできないと知ったわ。仲間の一人から力に依存しようとする若い私をよく諫めてくれていたわ。亡くなった後にその言葉の意味に気付くなんて、馬鹿よね…」
ルーファーは何も言えなかった。何か言おうとしたが言葉が見つからなかった。
「ごめんね、採木の話から脱線したわね。学生時代、採木で疑問に思ったことはない?答えられる範囲で答えるわ!」
ルーファーはそういえばと思い出した。
「あ、そういえば王城の横にある封樹は、採木していないですよね?」
「そうね、あれはいざというときのもので一切抽出していないのよね」
「そうなんですね、でも何で首都の周りには封樹の力で生きている生物がいないのですか?」
ルーファーは聞いた。それは学生時代、友達との会話の中で出た話題だった。
「カレス議員、もう少しでコルデン議員宅へ着きます」
ダンが話を遮るように話しかけた。
「そう、コルデンに早く遺体回収を頼まないと…」
首都の封樹についての疑問が、ルーファーの頭の中で渦巻いていた




