第8話:揺らぐ炎
夜の街に逃がした市民たちが無事に警察の保護を受けたのを確認し、蓮たちは廃ビルを後にした。
だが胸の奥に残る熱とざらつきは、戦闘の余韻ではなかった。
「……お前、さっきのは一体なんだ?」
ハヤトが低い声で切り込んだ。
歩きながらも、その鋭い眼差しは蓮を逃さない。
「俺にも……分からない。ただ……勝手に、あの炎が——」
言いかけて蓮は口をつぐむ。仲間たちの視線が自分に集まっているのを感じた。
ユイの瞳には心配が、カナメの瞳には冷静な警戒が、そしてマコトの瞳には分析しようとする光が宿っていた。
「危険よ」
カナメの声は淡々としていた。
「制御できない力を戦場で振るえば、敵だけじゃなく私たちまで巻き込む」
「ちょっと待て、カナメ」ユイが慌てて口を挟む。
「蓮は市民を救ったんだよ。あの炎がなかったら……」
「事実は事実。でも同時に、爆弾を抱えてるようなものでもある」
カナメの言葉に空気が重く沈む。
蓮は胸の奥が締め付けられるのを感じた。
(俺の力は……仲間を守るものじゃなく、傷つけるものなのか?)
耳の奥で、あのときの声が蘇る。
——その炎は、お前の本当の姿だ。
——受け入れろ。抗うな。
「やめろ……俺は……!」
思わず声が漏れ、仲間たちが振り向く。
ユイが心配そうに蓮の肩に手を置いた。
「……蓮、大丈夫?」
彼はその温もりに救われるような気がしたが、同時に胸の奥底で「触れるな」という声が囁いた。
そのとき、マコトが端末から顔を上げる。
「仮面の男が言っていた“夢と現実の境界”……あれは本当に始まってる。
異形の発生源を探らなければ、市民が次々に飲まれるぞ」
緊張を断ち切るように、任務が突きつけられた。
だが蓮の耳にはもう、仲間たちの声が遠くに感じられていた。
(俺は……敵なのか、味方なのか……)
夜風が冷たく頬を撫でても、蓮の胸の奥の炎は静まることなく、ただ不気味に揺らめき続けていた。