第6話:守るべきもの
街灯が弾け、ガラス片が雨のように降り注ぐ。
現実の住宅街と、夢の異形空間がねじれて重なり合い、地面には深い影の裂け目が走っていた。
「きゃあああああっ!」
路地に取り残された親子が、異形に囲まれて悲鳴を上げる。
「——行けねぇ!?」
ハヤトが叫んだ。銃を乱射するが、影の壁が障害物のように伸び、弾丸を吸収してしまう。
「……なら、ぶち抜くしかねぇだろ!」
彼は歯を食いしばり、二丁拳銃を構え直した。
乾いた銃声が雷鳴のように響き渡る。
火花と閃光が夜を裂き、影の壁に穴を開ける。
「今だ、走れ!」
ハヤトの声に、親子は怯えながらも駆け出した。
——だが、影の腕が背後から伸び、子供の足を掴もうとする。
「させない!」
ユイが駆け込み、光弾を撃ち放った。
まばゆい輝きが影を焼き、子供の体を抱きかかえる。
「大丈夫、怖くないよ!」
少女の優しい声に、泣きじゃくっていた子供が小さく頷いた。
——
別の路地では、複数の住民が逃げ遅れていた。
カナメは拳銃を構えながら、冷静に呼吸を整える。
「……全員、後ろを向いて走れ」
パンッ、パンッ、パンッ!
彼女の銃弾は寸分の狂いもなく急所を撃ち抜き、住民たちは走り抜けていく。
——
一方、マコトは必死に端末を操作していた。
「……座標がズレてる……! 異形は“夢に囚われた人間”をベースにしているなら……その繋がりを切れば——!」
(時間を稼いでくれ、みんな……!)
——
「っ……はぁっ、はぁっ……!」
蓮は短剣を振るいながら、住民を守るように前に立ち塞がっていた。
刃が炎のように光を放ち、影を裂く。
だが数が多すぎる。押し寄せる闇の波が、彼の身体をじわじわと押し潰していく。
「蓮、下がれ!」
ハヤトが叫ぶ。
「いや……俺が——前に出る!」
その瞬間、蓮の胸が焼けるように熱くなった。
短剣の光が形を変え、炎の刃は大きく膨れ上がる。
「……っ!?」
蓮の瞳に、紅い光が宿った。
刃が爆ぜるように輝き、異形の群れをまとめて焼き払う。
炎は波紋のように広がり、周囲の影を押し返していった。
「な、なんだ今の力……!」
ユイが驚きの声を上げる。
「これが……俺の……?」
蓮は震える手で短剣を見つめた。
だが次の瞬間、頭の奥にあの声が響く。
『……それは“目覚め”の始まりだ』
仮面の男の嘲笑が遠くから木霊する。
蓮は歯を食いしばった。
(……違う。これは俺の力だ。俺が、守るために……!)
燃え上がる短剣を握り直し、蓮は仲間の前に立つ。
街を飲み込む闇はまだ止まらない。
だが、確かに“光”はそこにあった。
——戦いはさらに激しさを増していく。