第4話:失踪者たち
銃声が廃ビルの闇を裂いた。
蓮の弾丸は異形の頭部を貫き、黒い霧となって四散させる。
しかし、倒しても次々と湧き出す影の化け物たち——人型に歪んだもの、腕だけの怪物、壁に張り付く蜘蛛のようなもの。
「数が多すぎる!」
ハヤトが舌打ちしながら二丁拳銃を乱射する。
乾いた連射音が続き、敵を次々と撃ち抜いていく。
「蓮! 後ろだ!」
「っ……!」
振り返ると、異形の腕が床下から伸びてきていた。反射的に短剣で斬り払う。
夢の世界だからなのか、刃が炎のように光を帯び、影を焼き裂いた。
(これが……俺の力……?)
驚きに震える暇もなく、敵は再び群れを成す。
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「包囲される前に突破するわよ!」
カナメが冷徹に指示を飛ばす。
彼女の拳銃は正確無比で、撃つたびに敵の急所を射抜いていた。
ユイは後方で治療用の光を発し、仲間の傷を癒していく。
マコトは端末を操作し、敵の動きのパターンを解析しようとしていた。
「……待て、妙だぞ」
マコトが目を見開く。
「この異形たち、全員——“人間の影”をベースにしてる」
「人間……?」
蓮は息を荒げながら問い返す。
マコトが画面を突きつける。
そこには現実で失踪した人々のデータ。年齢も性別も一致する輪郭が、異形と重なっていた。
「こいつら……失踪者たちの夢の姿だ!」
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その瞬間、仮面の男の笑い声が廊下に響き渡る。
「……フフ……気づいたか」
男の声は低く、掠れている。
「人は夢を見る。夢の中で本性をさらけ出す。ここにいるのは、現実を捨て、夢に囚われた者たちの成れの果てだ」
「成れの……果て?」
蓮の胸に冷たい衝撃が走る。
「お前たち警察は、夢を管理しようとしている。だが夢は誰のものだ? ——俺たちのものだ」
仮面の下で、赤い光がぎらりと瞬いた。
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「戯言はそこまでだ!」
ハヤトが叫び、銃を乱射する。
しかし影の壁が展開され、弾丸を吸い込んでいった。
「効かねぇだと!?」
ハヤトが歯ぎしりする。
仮面の男はゆっくりと腕を伸ばし、影を槍のように鋭く変形させる。
一直線に蓮めがけて放たれた。
「——!」
反射的に短剣を構える蓮。衝突の瞬間、火花のような光が迸った。
力と力が拮抗する。
その瞬間、蓮の脳裏に断片的な映像が流れ込んだ。
——誰かが泣いている。
——“助けて”という声。
——そして、仮面の男の素顔が一瞬だけ、歪んだ影の奥に浮かぶ。
「な、なんだ……これは……!」
蓮は頭を抱えながらも必死に踏ん張る。
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「蓮、下がれ!」
カナメが彼を引き寄せると同時に、影の槍が壁を貫通し、コンクリート片が飛び散った。
「ふふ……次は外だ。見せてやろう、夢と現実の境界が崩れる瞬間を」
仮面の男が指を鳴らす。
ビル全体が大きく軋み、壁の向こうに——現実の街がちらついて見えた。
夜の住宅街と、この異形の空間が、ひとつに重なろうとしていた。
「やばい、これ以上は現実に干渉する……!」
マコトが叫ぶ。
「止めるぞ!」
蓮が叫んだ瞬間、仲間たちは再び武器を構えた。
——戦いは、次なる局面へ突入する。