三十、全て
第三十話突破!
どんだけ待たされたと…。
国の要人を門前払いするのもなんだが、ずっと立ったまま待たせるのもどうかと思う。
広い屋敷だ…。爽の家にも負けず劣らずくらいの大きさである。
「ここだ」
随分と、えらく調子乗ってるな…。
苛立ちというよりも呆れに近い。
「可樹さま、来ました」
「入れ」
「失礼致します」
案内役が部屋に入りその後に続く。
「爽さまではないか。やけにやつれて可哀想に」
笑いながらそう言う可樹の姿は人間の大切なものを失っているように見えた。
「そっちこそ、民の表情に余裕がなさそうに見えたが?」
「それは国のせいではないな。個人それぞれの事情があるのでしょうよ」
「個人…それもあるだろうがそれよりも国の機関が整ってなければ民の余裕も無くなるでしょうよ」
爽は鋭い目線で可樹を射抜いた。
「…何を言いに来たかと思えば…火に油でも注ぎに来たつもりかな」
可樹は真顔でそう言い放った。
つまり、認めるということか…。
隣国に戦いを仕掛けてきたことを。
「そんなアホなことをすると思うか?」
「民中心すぎて周りが見えていないようで可哀想だ…」
話が通じないことに苛立ちを覚えつつ、爽は本題へと踏み切った。
「可樹。お前は条約を放棄した。その罪を償ってもらう」
可樹は少しだけ目線を動かすと、横に立っていた側仕えに何かを用意させた。
爽が明らかに警戒態勢をとっていると、可樹は相反するように、にんまりと笑って見せた。
「爽さまはここへ来られることへの危険を考慮してこられたのでしょう?」
「そう、だが」
硬い声で爽は答える。
可樹が余裕のある笑みを浮かべてこちらを見る姿がただただ腹立たしくて同時に悪寒すらする。
「ならば、滑稽なことだな…ざまぁって感じだ」
意味を聞こうと口を開きかけるがその前に可樹が話し出す。
「貴様の大切なものなんざ、たかが知れてる」
その瞬間、部屋に大きな音が響き渡った。
爽は驚いてそちらを見ると扉を蹴破って入ってきた華楊がいた。
「な、んで?華楊が!?」
「礼儀作法等はこの際お許しください。というか早く帰りますよ」
「え、は?いや今さ…」
「この馬鹿達相手に交渉なんて頭を使うことをしても無謀です!」
と、きっぱり言ってしまった。
そして予想通り、それは火に油を注ぐこととなる。
「貴様…侵入してきたと思えば…」
怒りなんとか押し殺して呟く可樹。
「陛下、早く戻ってきてください!大変なことに…」
爽を椅子から立たせようとしたところで、刃が目の前に降ってきたので、爽と華楊は咄嗟に飛び退いた。
「危なかった…」
2人は同時に息を吐いた。
「陛下、コイツとの交渉は諦めてもらいたいのですが…よろしいでしょうか?」
爽は少し逡巡を見せた。
が、「あぁ。大切な妃に刃を向けた罰だ」
その妃が華楊のことなのか、今後宮で被害を受けている妃たちのことなのかは分からないが…華楊は腰から刀を引き抜いて可樹に刃先を向ける。
「可樹、貴様は自分の意思で全てを壊したのか?」
静かに重量感のある声で問いかける。
ただ、華楊の瞳では有無を言わせないとても大きく静かな怒りが燃えていた。
それに少し気圧されかけた可樹だったが、そう簡単に認めるはずもない。
「…壊してなどいない。ただ、その業突く張りを諫めるために…」
「諫める?貴方のやり方は臣下のやることではない。主君の全てを壊すことすら諌めると言われるなら、世も末だな」
華楊は刀をさらに可樹に近づける。
可樹の側近が可樹を守るために近づこうとするがそちらは爽が抑えた。
「さて、決着をつけるぞ。だが、貴様だけ倒しても根本的には解決されぬ。故に…」
華楊は艶やかな動きで自分の唇を舐めた。
「主犯よ。出てこい」
「は?」
華楊の台詞に一番に反応したのは爽だった。
「え、可樹が琉千峰を動かしていた主犯じゃないのか?」
だから、わざわざ足を運んだのだ。
「琉千峰、可樹、そして誰か。そいつが全ての主犯だろ」
華楊は可樹を見つつ言った。
「いや、可樹以外にいたか?そんな素振りを見せるやつ」
爽は戸惑いつつ尋ねた。
「私が一度潜入捜査したことありましたよね?」
「あぁ。あの時は驚いた」
なにせ、仲間だと思って潜入させたやつが本気で来たのだから。
「うっ、…その節はすいませんでした」
華楊はそれを思い出して罰悪そうに頭を下げた。
だが、すぐにこの話じゃないと、続けた。
「では、なくてその際にその陛下を狙う刺客たちからいろんな情報を聞いていたのですよ」
その時は関係ないと聞き流していたが興味深い内容があったと言う。
「陛下、貴方は全てを奪われていたのです」
華楊の感情を含まない声は風に乗って消え去って行った。
ありがとうございました!!




