二、妃の護衛伝
二話目です。
「皇帝陛下、他の護衛はいないのですか」
次の日…ふと疑問に思ったことを質問した。
「おらぬ。そなただけだ」
つまらなそうに呟くと皇帝はあくびを噛み殺した。
「そうなんですか」
「あぁ」
「そうなんですか!?」
大声を出した後、我に返った華楊は「失礼」と咳払いをした。
「護衛が私だけって今まではどうしてたんですか?」
「今までは海蘭が護衛をしてくれていた」
「一人で、ですか?」
どういうことだ…華楊はすぐに思った。
とんでもない数の人に恨まれているだろうに、今まで護衛が一人だけで生き残っているのか、と。
兄の凄さなのか、皇帝が恨まれずに平和なのか…。
難しい顔をして考えていると皇帝の爽が声をかけてくる。
「そんな風に疑問を持つのも無理はない。ただ、お前の兄には世話になっている」
いつのまにか、解雇されたのかそれとも休憩中なのかいなくなっている海蘭のことを言う。
「そうですか。私はこの部屋では何をすれば?」
広すぎる執務室に声が響く。
妃の仕事を優先するべきか、補佐としての仕事をするべきか、どちらが良いのか分からない。
「書類仕事を“少し”手伝ってもらえるか?」
「御意」
だが、それはやはり“少し”の仕事ではなく、内心愚痴を言いながら皇帝の隣で書類整理に専念していた。
つまらない…せめて、武官たちに混ざって特訓をしたいというのに。
敵は来ないのか、と不謹慎なことを考えつつ手だけは止めようとしなかった。
___午後九時___
「今日の仕事は終わったから戻れ」
言われなくとも!
そう叫びたくなったが、拳を握って抑える。
「はい」
執務室を出て渡り廊下を渡り、さらに渡り廊下を渡ったところに部屋はある。
「疲れた〜」
誰もいない部屋に一人、疲れ切った吐息が溶ける。
「にしても、本当になかなか平和ではないか」
毒味もすることになったが、今はとても元気だ。
「皇帝の閨も何事もなく行われてるみたいだし…私がいる意味はないのか?」
敵はいないよりいる方が良いというなんとも不謹慎にも程がある考えの持ち主の華楊は頭を抱えた。
すると、戸を叩く音がした。
「華楊。いるか?」
この声は皇帝…。
何の用だろうか。
「はい」
「入るぞ」
堂々とした様子で部屋に入ってくる。
「なんのご用意でしょうか?」
さっきと帰れ、と追い払いたいところだがそれは出来ない。
「後宮内で嫌な話を聞くんだ」
「具体的には?」
「よくあるものだ。…国を滅ぼす計画だ」
その瞬間、華楊の目はきらりと輝いた。
「まぁ、噂話程度なので毎回気にしていたらもたない。とりあえず、そう言う計画があることは知っておいてくれ」
爽はそこまで深刻に考えていないようだ。
日常茶飯事なのだろう。
だが、それは華楊からしても同じだ。
日常茶飯事だからこそ久しぶりの危機になるかもしれない時、護衛対象を守れると思うとつい興奮してしまう。
「護衛は私にお任せください。陛下」
深々と頭を下げると華楊は不適な笑みを浮かべた。
ありがとうございました!
華楊の護衛力はどれほどのものなのか…。
次回もよろしくお願いします!