桜の香り
「あ、この映画、俺も好きだよ。」
14回目の春。ふいに話しかけられた。
1つ上の先輩が私に。信じられなかった。
先輩は学校の中心人物である。だから、学校で浮いた存在の私に話しかけてくれたのが尚更信じられなかった。
(いい匂いだったな……。)
甘い、バニラのような香り。
次の日、まだ浮かれながら登校した。今度は私から先輩に話しかけた。ついでにメールも交換するようになった。
あぁ、先輩。どの瞬間も格好いい。会長挨拶、痺れたなぁ。声も格好いい!これが俗に言うイケボというやつだろうか。
その次の日、まだ浮かれながら登校した。先輩のクラスに遊びに行った。この前の映画の雑誌を見たか聞いた。まだ持ってないんだよね、と先輩は言った。明日、先輩に貸すことにした。
あぁ、先輩。今日も格好いい。私のくだらない話にも笑ってくれて、優しかったなぁ。笑顔も格好いい!でも、今日は1つ可愛いところをみつけた。笑った時、左側の歯に小さな海苔がついていた。おっちょこちょいだなぁ。
その次の日、一緒に下校することになった。先輩は自転車を押しながらゆっくりと私のペースに合わせて歩いてくれた。貸した雑誌を休み時間に読んでいてくれたらしく、感想を語ってくれた。
あぁ、先輩。今日はかわいい。しどろもどろに話すのは私を意識しているからだろうか。
いじわるをして私のことが好きか聞いた。「好きだよ」と返答してくれた。貴方の瞳に映る私は口元が緩んでいた。
その次の日、学校が休みだったので先輩の家に遊びに行った。昼間なのに先輩はパジャマのまま出てきた。
あぁ、先輩。今日もかわいい。学校での堅い制服姿とはまた違う良さが味わえる。先輩は寝ぼけ眼で、さっき起きたというような感じだ。帰ってくれ、と私に言った。サプライズに突然押しかけたのが効いたのだろうか。先輩は頬が桜色に染まっていた。
―その次の日、先輩に恋人がいたことを知った。
相手は先輩と同級生の女らしい。先輩は、男は恋愛対象外なのだと人づてに聞いた。
私は男である。男である私のこと、どう思っていたのだろうか。ただの友達?ただの後輩?
土俵にも上がれない私のことどう思っていたの。
きっとこの恋は愛になれないまま終わる。
色褪せることなく、誰にも話さずに。
―18回目の春。私はまだ君を想っています。
君が働いているのか、それとも大学に行っているのか、はたまた別のことをしているか、生きているか、死んでいるかもわからずじまいです。
あの頃とは変わってしまっていると思いますが、これだけは変わっていてほしくないな。と、本能的に感じます。
――甘い、バニラのような香り。
ふいに鼻先を桜の香りがくすぐった。