表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼月の軌跡  作者: チョコレ
序章 廃鋼の叛逆機
6/190

(6)無敵幼馴

 ロードラストのメンテナンスをしていると、夜の冷たい空気が肌を刺すようだった。トレーラーの荷台に腰を下ろし、ぼんやりと工具をいじりながら、俺は視線を上げる。月明かりがロードラストの装甲に反射し、静かに輝いていた。


 ——こいつはもう、ただのジャンクじゃない。

 俺とアヤカが積み上げた時間、そのすべてが詰まった機体だ。


 だけど——。

 ルナの言葉が、頭から離れなかった。

 月から逃げてきた? 機体が海に落ちた? 普通なら作り話としか思えない。

 でも、あの目——あんな必死な表情、嘘をついてるようには見えなかった。


 「リュウト!ちょっとこっち来なさい!」


 突然、背後からアヤカの怒鳴り声が響いた。


「…なんだよ、急に。帰ったんじゃなかったのか?」

 工具を置いて振り返ると、アヤカが全速力で駆け寄ってくる。息を切らし、いつもの余裕はまるでない。


「ルナちゃん、泣いてたわよ。一人で!」


「…泣いてた?」

 思わず聞き返す。


「そうよ! あんたがあんな冷たいこと言うから!ムーンギアバトルの話、全然聞く気ないじゃない!」


 いやいや、冷たいって言われてもな。月から来たなんて、まともに信じられる方がおかしいだろ。でも、それが理由で泣くほどのことか?


 アヤカは息を整えながら続ける。


「あたしを三ヶ月も修理に付き合わせた機体、せっかく動くようになったのに、活躍させる気もないなんて、何考えてんの!」


「…活躍って、簡単に言うけどさ。バトルなんて負けたら壊れるだろ。」

「壊れたら壊れたでいいじゃないの。元々ジャンクだったんだし!」


 その言葉に、カッと熱がこみ上げる。

 ただのジャンク?こいつは違う。俺たちがここまで仕上げた機体なんだ。

 その努力も、積み重ねた時間も、そんな一言で片付けられるわけがない。


「…でも、バイトだってあるし、母さんのことだって──」


「だからよ!」

 アヤカの声が遮る。

「勝てば賞金が出るんだから! そしたら、あんたのお母さんの負担も減らせるでしょ?」


 ——母さんの負担。

 一瞬、息が詰まった。


 アヤカが真剣な目で俺を見つめる。

 「だって、あんたんとこ、お父さんいなくて、お母さん、いつも働きっぱなしでしょ?」


 言葉が出なかった。

 俺がずっと頭の隅で気にしていたことを、アヤカはズバリと言い当てる。


「賞金、ね…」


「それに、もし負けたとしても、あたしがまた最初から付き合ったげるから!」

 アヤカは腕を組み、得意げに笑った。

 「軌道エレベーターでいくらでもジャンクは降りてくるんだから、壊れたらまた次がある!」


「…お前、簡単に言うけどな——」


「簡単になんか言ってないの!」

 アヤカが俺の前に詰め寄る。

 「それにね、もうあんたが断る余地なんてないの!」


「…は? どういうことだよ。」


 アヤカは口元に不敵な笑みを浮かべた。


「もうエントリー済ませたわよ! あんたの名前で!」


「…おいおい、マジかよ。」


「マジよ。」

 アヤカは満足そうに笑った。

 「あんたの個人情報も、ロードラストのデータも、全部提出済みだから!幼馴染をなめんな!」


 ——幼馴染ってのは、こんなに強引で無敵な存在だったのか。


「…お前なぁ。」

 俺は深いため息をつき、頭をかきむしる。

 もしかして、そもそも断る選択肢なんて最初からなかったんじゃないか?


 目の前にはロードラスト、そして満足げなアヤカの顔。

 頭の中には、ルナの切実な表情が浮かぶ。


 まるで、逃げ場がどこにもない。


 こうして、俺のムーンギアバトルへの道は、強引かつ予想外な形で開かれることになった。

ページを下にスクロールしていただくと、広告の下に【★★★★★】の評価ボタンがあります。もし「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、評価をいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ