(1)鋼月機王
「地球が、青く見える。」
コクピットの窓の向こうに、蒼い惑星が浮かんでいる。
胸の奥が熱くなる。
少し前まで、スペースポートでジャンクを漁っていたのに。
今はムーンギアに乗り込み、月の上で戦おうとしている。
何が待ち受けているのか、まだわからない。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
もう、後戻りなんてできない。
──
未知の鉱物、ルナリウム。
その発見が、世界を変えた。
エネルギー革命、宇宙進出——すべては月の石から始まった。
「すげえ石」なんて、子どもの頃は他人事だった。でも、ニュースで見るたびに胸がざわついた。いつか、あの石に触れてみたい。そんな憧れが、俺の中にあった。
バイト先は「紀ノ國スペースポート」。
軌道エレベーターのふもとに広がる、巨大な物流基地。
月から運ばれる荷物の仕分けが、俺の仕事だ。
降ろされるのは、ピカピカのルナリウム製品ばかりじゃない。ボロボロの廃材や部品、いわゆるジャンク品も山ほどある。月ではゴミ扱いでも、地球ではまだ使い道がある。俺はそれを探すのが好きだった。
その日も、いつものように黄色い重機を操作しながらジャンクをかき分けていた。
「またガラクタか……」
そう思った次の瞬間、息をのんだ。
そこにあったのは、無骨で、しかし威厳を感じさせる機械の残骸だった。
分厚いダークグリーンの装甲は剥がれ、錆びたオレンジ色がむき出しになっている。剥き出しのパイプ、複雑に絡み合う機械の部品。まるで戦場をさまよい続けた鉄の戦士。
たぶん、月面採掘用のムーンギアだ。
バス二台を縦に積んだほどの巨体。
ボロボロのはずなのに、なぜか「まだ生きてる」気がする。
仕分け作業を放り出し、俺は主任——普段は「先輩」と呼んでいる人に声をかけた。
「あぁ、それか。そいつはジャンク中のジャンクだよ。修理しようにも費用がバカ高くなるだけだ。正直、処分するしかないかなって思ってるんだがな。」
「じゃあ!俺がこれ、好きにいじっていいですか!」
「……お前、本気か?」
「はい!」
「バカかお前、そいつスクラップ以下だぞ。」
「それでもやります!」
俺が即答すると、先輩は呆れたように笑った。
「……好きにしろ。ただし、ケガだけはすんなよ。」
俺はそっと機体の装甲に手を触れた。
ひんやりとした金属の感触。
そっと機体の装甲に手を触れたとき、ふと頭に浮かんだ名前があった。
「ロードラスト」
錆びた装甲の風格が、まるで王様みたいに見えたからだ。
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