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弟わんこの片思い  作者: 苺屋カエル
10/22

鷹矢の知らないこと



「たまには変種でも相手にするか。話のネタに良いよな」来栖の提案に愉快そうに笑う複数の声。リラックスした友人同士、話の内容はエスカレートしていく。


「鷹矢なら余裕で落とせるだろ。どうせならゲテモノに挑戦しろよ。紹介するか?」どんな女にする、思いきって不細工にいくか?と面白そうに知り合いを次々に挙げていく男が一人。

「男慣れしてないと別れ話が面倒だろ。後で付き纏われると大変な目に遭うぞ」忠告をしつつも止める気はない男。

「俺がそんなヘマをすると思うか?別れるまでがゲームの一環だろ。綺麗に後始末はつけるさ」自信たっぷりに勝利を宣言する来栖鷹矢。

「おおっ、さっすが連戦連勝の鷹矢は言うことが違うねぇ」来栖の友人は声を揃えて手を叩いた。


鳩子は薄い存在を更に意識して気配を消した。

パーテーションを一枚隔てた向こう側に、来栖と高校時代からの友人が三人で盛り上がっている。

(会社内で大胆な話をするなぁ)

鳩子は紙コップに入った、温いコーヒー牛乳をすする。

来栖たちは最上階にある特別フロアに人がいるとは思ってもみなかった。ここは決められたパスを持たないと簡単に出入りすることも認められない。そしてフロアの主である銀字は出ている。事実上、来栖は誰もいないと思い込んでいた。


(まいったな。ちょっと休憩のつもりが出られなくなったな)

最上階の休憩所は他のフロアよりも広く、軽い打ち合わせ程度も可能なようにテーブルもイスも余裕を持ってとられている。鳩子は観葉植物とパーテーションで区切られた奥に座っていた。来栖はここに来た時点で一度、中を覗いて人が居るのかを確認した。残念なことに、鳩子の居る位置が死角になっていたのと、存在感の薄さで来栖の目に留まることはなかった。

誰もいないと確信しきっている来栖たちの話題は近況から、政治、スポーツと飛ぶように進んだ。この時点で鳩子は驚かれるのを覚悟でさっさと休憩所を後にすれば良かったが、目立つことを嫌がる性格のために先に三人が退席するのを選んでしまった。


話の矛先が女性についてに向うと、第三者が立ち入るには赤裸々で躊躇うものとなり、鳩子はますます出て行かれなくなった。


「そういえば、彼女どうしてる?」一人が誰かに向って聞いた。

「どの彼女?、千里?理奈?どれ?」人でなしの声は鷹矢ではなかった。

「違う。由梨ちゃん。その様子じゃ別れてるな。鷹矢、お前は?」

「最近は仕事のほうが楽しい」

「女に飽きたとでも言いたいのか。羨ましい発言だな。一度はそんな発言をかましたい」

「俺の場合はもともと興味が薄いんだよ。落とすまでは楽しいけど、それ以上に深くなるのはごめんだね。いかに関係を持たずに落とせるかが楽しい」

「ちょっと淡白じゃね?どうせなら最後までしちまえよ」

「鷹矢には無理無理。なんせあんな美人のお母様をガキの頃から眺めてんだぜ。他の女はゴミとしかみえんだろ」しみじみと言う。

「あー・・・綾子さん美しいもんな。確かに世の中の女が色褪せてみえる」同感だと頷く気配がした。

「別に普通だろ。皺とかばっちりあるし」鷹矢は呆れた。

やめろ、お前は幻想を壊すな、綾子さんは青春のマドンナなんだぞ、二人の悲鳴と抗議の嵐が続く。


「しかし鷹矢の見る目は無駄に肥えている。レベルが高いのは事実だ」

「綾子さんを普通とか言える時点で、そもそも異常だ。今までのお前の遍歴を考えても美女揃いだぞ、自覚あんのか、こんちくしょー」

「遍歴って大したこないだろ」

「あれだけの美女とオツキアイしておいて、なんて鬼畜な」

「そうだ。お前は鬼だ。散々その気にさせて後は見向きもしないだろう」

「いっそ清々しい。俺には捨てることを目的に女を引っ掛けているとしか思えん」

友人は畳み掛けるように妬みも混ぜて鷹矢を責める。

「否定はしないな。そもそも結婚を前提にしてない女だ。結末は決まっていて当然だろう。別れる為の下準備は楽しくさせてもらわないと」

「あー、やだよ。この顔で人でなし発言。人間不信に陥っちゃう」

「それはこっちの台詞だ。相手は来栖の財産を狙ってくるハゲワシみたいなもんだぞ。下手な真似してみろよ、あっと言う間に貴方の子よ、と言い出す奴がいるさ」嫌悪が込められていた。

「うわっ。そのサスペンスドラマ怖すぎる。鷹矢、経験あるのか?」

「ある訳ないだろ。顔も知らない女が勝手に婚約者だと吹聴していることもあるんだぞ。少し位こちらの憂さ晴らしに付き合ってもらっても罰は当たらない」

「改めてお前の非道を確認した。そうやって女の心を弄ぶんだな」

それでこそ私の来栖様よっ、とあとの一人が声を高くして称えた。

「向こうもそれなりに夢を見てんだよ。感謝されてもいいくらいだ」


「でさ、結婚相手の女に条件ってあるのか?」

「さあね。両親とそこまで話したことはないな。どうせなら来栖家に役立つような便利なのを選ぶつもりだよ。あとは俺の隣に立っても見劣りしない程度に美人でないとな」


その後の話題は旧友の結婚話に移り、やがて三人は退席した。



鳩子はとっくの昔に空になった紙コップをゴミ箱に捨てて大きく背伸びをした。

(なかなかスリリングな会話だった。久しぶりに面白い話を聞かせてもらった)達成感と共に、疲れた肩を軽くほぐす。

「おや、鳩子ちゃん。まだ居たのかね」銀字が通りがかった。

「あれ、そんな時間ですか?今まで出られなくて」

「ははは、またかね。場所がここなら、そうだな鷹矢だろう?。何か特ダネはあったかな?」

「まあまあ、かな」

来栖の女性に対する価値観について報告できるはずもなく曖昧に答えた。

「そうだ、今夜辺り家に来なさい。市也が心配していたしな、顔を見せてやってくれ」

「はい、それではお邪魔します。市也くんも気軽に遊びに来てもいいのに。あっ、父から銀字さんにお土産がありますよ。現地のお酒みたい」

「楽しみ、と言いたいが、またとんでもないモノだろうな」「その通りです」二人は仲良く休憩所を離れた。


これは来栖が入社して間もない頃、鳩子がたまたま聞いた話。

そして来栖が鳩子を意識する一日前。

仲の良い友人といるので悪ぶってる感もある。

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