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リトルライト ~僕は終わりを望む者~  作者: 旭ノ景
第一章 欲望から生まれるモノ
9/9

第七話:消えぬ影の歌

 ブツッという音が響くのが聞こえて目を開いた。


 仰向けになった身体を起こすと、画面が真っ黒なモニターがあった。パソコンを見ると電源が落ちている。


「あれ、僕はさっき……」


 現実味がある夢を見た。


「どうして、あの少年は」


 自分が、少年の首を斬った生々しい感覚がそのまま手に残っていた。


 けれど、あの少年の体は元に戻っていて、その体を燃やしながら僕を睨みつけていた。


「っ……どうして」


 殺せなかった、消せなかった。


 彼の苦しみを、見たくなかったのに。


 彼の感情に、嫌気が差したのに。


 彼を、彼の心を消したかったのに。


 僕は、それが出来なかった。


 何故、出来なかったのか……。


 いや、違う。


 僕はそもそも、何故その行動に至ったのか。


「……もう一度、彼について確認しよう」


 再度、僕はパソコンに電源ボタンを押す。


「……?」


 電源が点かない。


「あ、コードが……」


 よく見ると、コードが焼け切って断線していた。


「火事にならなかったのは幸いだけど。……どうしよう」


 僕は状況を整理するために見上げて日付を壁掛け時計で確認する。


「……? じゅう、よっか」


 2日が既に経過している、時刻も17時だ。


「……ああ、そっか。2日も無断欠席、しちゃったんだな」


 こんな事は、今までで初めてだ。


 いつもは体調不良の時はこちらから連絡して休みを取っている。


 記憶を失ったあの中学の頃から、ずっと自分から連絡している。しなきゃならない。


 それなのに、連絡する事も出来ず丸2日寝ていた。


 けれど、きっと誰も僕が欠席したことは認識してないだろう。だって僕はずっとここにいたんだし。


 「……ふう、そんな事はどうだっていいんだ」


 僕は立ち上がる。


 学校に行かなければならない。


「探らなきゃ、知らなきゃ。僕は彼のことを、西宮大輔をもっと知らなきゃならないんだ」


 急いでシャワーを浴び、着たままだった制服を整え着直して、学校に連絡をする。


「もしもし、蔵部です。すみません、ちょっと忘れ物が……」


 箱買いしてある栄養ゼリーを箱から一つ手にとり学校へと向かった。


□ □ □


 三十分程経って、ミサキ市に到着して亜桜高校に向かう。


 歩く道中、帰宅部や受験を控えている三年生は帰っているようだった。


「もう放課後か、それもそうだよね」


 門をくぐると、下駄箱のスペースに人影が映った。


「学校サボってんのに今更登校か、蔵部」


「っ、岩井先生」


 靴を履き替えている所で唐突に声かけるのやめません?


 慌てて上靴を履く。


 あれ、連絡はしてあるはずなんだけれど。


 僕が動揺していると、困った顔でフッと岩井先生は笑う。


「お前は顔が分かりづらいのに雰囲気は分かりやすいな」


「……僕の存在忘れたのかと思いました」


 そんな冗談を言ってみると馬鹿ヤロウと軽いゲンコツをもらう。


「忘れるわけないだろ、お前とは中学からの馴染みだろ」


 そういって、僕の頭をガシガシと撫でる。


 中学二年の頃、冬に豪雪で家に帰れなかった時に当時からこの学校で働いていた岩井先生と出会い助けられて以来、長い付き合いとなっている。


 僕を忘れることなく覚えている、数少ない人の一人。


「やめてください……痛いです」


「へっ、とりあえずは元気そうで安心したよ。にしても珍しいな、こんな休み方するなんて。いつもなら休みの時はお前から連絡してくるのに」


「すみません……」


「……まあお前の家庭事情は把握してる。だからあまり干渉しないでいた。まさか丸2日連絡来ないとは思わなかったがな」


「僕は、この2日ずっと眠っていたみたいで」


 岩井先生は腕を組んで目を閉じ、少し溜息を漏らして再度こちらに目を向けた。


「そうか。まあともかく、忘れ物取りに行ったら帰るんだぞ。寝れるところがあるだけマシだからな。ん、栄養チョコ」


 手渡してきたのはタンパク質十五グラムの字が際立つ「カカオジョイ!」というチョコバーだった。


「チョコ……。あの、いいんですか?」


「内緒にしておけ。それより、お前の顔色いつもより悪いぞ」


 そんなに、酷いのかな。


「……ありがとうございます」


「おう、気を付けろよ。忘れ物取ったら、今日は早く帰れ」


「はい」


 僕は先生に会釈をしてその場を去る。


「すみません、僕はそれでもすぐ帰るわけにはいかないんです」


 自分の教室に向けて足を運ぶ。


 なんとかして、黒い影の件を終わらせたい。


 ……でもどうやって?


「……」


 何をすればいいかわからないまま、教室にたどり着く。


 扉を開くと今日はみんな部活があるようで、部屋の中は静かだった。


 とはいえ、自分のクラスの教室にぽつぽつと人がいた。


 自分の机に目を向けようとした時、学級委員の女子と視線が合った。


 容姿は、赤みがかった茶色の長髪をヘアゴムで後ろ一つにまとめている。瞳も髪と同じような色をしていて、ちょっとつり目気味の綺麗で眼力のある目だ。


 ああ。まただ、また“空気”ではなくなった。


 この間の橋本と同様、普段認識されない人に認識されるとどうすればいいのか分からなくなる。 


 視線をずらして自分の席に向かおうとすると、ねえと声を掛けられる。


「あれ、君はえっと……」


 更に声をかけられるとは思っていなかった。


「……僕?」


 一度目線をそらし、ちらっと目を配るとその子は頷いた。


「んー、名前なんだっけ?」


「その、えっと、蔵部、です」


 不自然な丁寧語を使ってしまった。それにカタコトだ。


「なんでそんなカチカチなの? アハハ!」


 笑いながらこちらに近づいてくる。


 彼女の名前は――。


西宮(にしのみや)(ひびき)さん、です、よね」


 そう、西宮響。クラスの委員長であり、次期生徒会長候補の一人。


「なんでうちのことフルネーム? というか堅苦しいな、タメでいいよ。クラスメイト……なんだし」


「そ、そうだね。ハハ」


 彼女の綺麗に整った細い眉が軽くハの字になる。


「えっとクラバ……じゃなくて、くら、くら……クラ君でいいね!」


 僕の名前は、基本覚えられることはない。


 けど、クラ君なんて呼ばれ方は今までに無い。


「っと……」


「もー! 表情常に一緒で怖い! なんか声もボソボソしてるし話しづらいな! 目も前髪で隠れて目が合ってるのかイマイチ分からないし! こういうのは陰キャ? フンイキチョー暗い感じだから、(クラ)君ってことで!」


 容赦ないあだ名をつけられた。


 まあ、実際の僕は陰にもならない空気なんだけど。


「う、うん」


「オッケー! じゃあじゃあ本題! クラ君、君ってさ坪谷どこに行ったか分かる?」


「坪谷? えっと、分からないけれど、彼がどうしたの」


「それがさ、昨日から連絡もなく休んでるの。皆はサボってるだけだって言っているんだけどさ」


「……え?」


「なんか、うちは只事じゃない気がするんだよねー。アイツ、今まで出席だけはシッカリしてたし」


「彼の事よく見てるんだね」


「まあね、小学生の時からのヨシミだし」


「……あの、坪谷って昔からあんな感じだったの」


「いいや、この学校に入ってからなの。何か突然一人になりたがるし、誰にも言わずに何か背負って頑張ってる感じがするんだ。アイツの家柄もあるのかな……」


「そう、なんだ」


 さっき西宮がぼそっと言ってた彼の家柄って、なんだろう……。


「あの多分だけど君さ、三日前アイツと一緒にいたんじゃないの? ダンスサボって!」


「……えっと」


 西宮は僕の様子を見て、ジト目をこちらに向けて頷く。


「やっぱり……。なーんかその時からおかしかったんだよね。いつも以上にイライラしていたというか……」


「イライラ……?」


「とにかくさ、君の責任でもあるはずだよね! アイツの事、お願いできない?」


 グイグイとくる西宮に、戸惑いを隠せず流れるままに頷いてしまった。


「……うん、分かったよ」


「じゃあよろしくね! もし見つかったら、アイツの引き出しに配布物あるから渡しておいてね! それじゃっ!」


 そう言って、西宮はスクールバッグを背負って教室を飛び出していった。


 ああ、半ば強引に押し付けられた。


「けど……やっぱり」


 間違いない、彼だ。“西宮大輔”の関連だ。


 西宮大輔が、何かしら坪谷に干渉したんだ。


 西宮大輔は、きっと怒り続けている。


 その影響で、坪谷が苛立っている。


 あまりにも雑な憶測だけど、全てはあの影が物語っている。


 彼が向かった所はきっと……、なおさらそのままにしていい事がない。


 そういえば、彼女の苗字も「西宮(にしのみや)」だよな。


「……なんだかモヤモヤするな」


 そんなことを考ていたら、頭の中が整理つかなくなっていた。


 いやいや、今はそんな事してる場合じゃない。


「うん、急ごう」

 

 屋上へと向かう、前と同じパスワードを求められる。


 確か……基盤となるのは、“死体の言葉”だ。坪谷が送ったメールの文章の中で、印象深く頭に刻まれている詩があった。


 想いは影と沈みゆく

 言葉は歌で絡みつく

 絡む歌は想いと共に

 

 動かぬ身体に赤が滲む

 赤は寒さで青く染まり

 青は熱で黒く穢れゆく

 黒は影となり身体を覆う


 死体は影に飲まれる

 影に潜む死体は歌い続ける

 骸は影と踊る

 影は言葉と踊る

 言葉は想いと踊る

 想いは骸と影と絡み合う

 死体の言葉は絡みつき

 闇と骸が混ざり合う


 骸の秘密は歌の中

 言葉は死体の中に眠る


「――」


 ドアノブに触った途端、その歌が坪谷の声で脳裏に再生された。


 パスワードをかけたのが誰だったのか、今分かってしまった。


 そうだよ。


 その現場をみたものにしか、そんな詩書けないじゃないか。


 影の動きが見える者しか見えない。


 あの影が落下した時誰も反応していないと思っていた。


「けれどそれは、違ったんだ」


 あの時、喉を鳴らした方は彼の席からだ。


「君はずっと、彼を探してたんだ。彼の霊を、死体を」


 数字化させるんだ、彼が探していたものを。


 696-5108(むくろのことば)

 

 カチッと音がする。


 扉を開く。


 束の間、「バン!」と叩きつけられる音がした。


「今の音は、一体……」


「ドウシテ シナナイ」


「!?」


 言葉が鮮明だ、西宮大輔の声だ。


 近くに彼がいる。


「西宮大輔、君はどうしてここに居続けているんだ?」


「俺ニ……話シカケルナ!」


 黒いモヤが、足元からわらわらと上ってくる。


 コレは……怒りの感情。


「坪谷がおかしかったのはつまり……。は!? じゃあさっきの音は!!」


「……燃エ上ガレ」


「ッ?! ぁ゙っ!!!」 


 頭痛が、あの時の頭痛が……!


 心臓が脈打つ度に脳が焼かれていくっ!


 アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ――


「全部燃ヤシテシマエバ、イインダ。コノチカラデ、オ前モ、俺ノ寒気モ、俺モ、全部燃ヤシテヤル……」


 身体が……熱に、炎に……覆われていく……。


□ □ □


 “……ちゃん。……ちゃん。……ちゃん!” 


「っ!」


 誰か揺さぶってくる。


 気がつけば、俺は自室で座っていた。


“もう! なんでそんなボーッとしてるの?”


 ???がそうやって怒鳴りつけてきた。俺の大事な……。


 “あれ、今日はけいちゃんと一緒じゃないの?”


「ああ、ごめん。ちょっと、アイツは忙しくてこれないんだって」


“ふーん、彼女さんも忙しいんだ” 


 短いポニテをブンブン振り回して不満げにしている。


「ああ……ごめんな」


 コイツには、黙っていないとな。


 今日、あんなことがあって俺は正気を保つのが精一杯だった……。


 俺は自室でボーッとしていた。


 けいちゃんとアイツとタツヤ、ずっと仲良くできると思ってた。……けど、俺は2ヶ月前からけいちゃんととケンカして、ギスギスしていた。それも、口を利かなくなるくらい。


 発端はけいちゃんの浮気まがいの行いにあった。


 クラスメイトの男達と仲良くなる、それはいい。


 学祭の買い出しで仲良くする、それもいい。


 けど、俺と付き合っていながらアイツは学祭の時、俺の親友のハクヤと回ってたんだ。委員とか部とかの関係ではなく。


 手をつないで歩いていた。


――――――


「おい、お前どういうことだよ」


「どういうことって、仲良く回ってただけだけど? デートの練習してあげてんの」


「なんだよそれ、この後の俺達の約束は!?」


「ゴメン、タツヤにも言ったんだけどちょっと学祭用事があってさ」


「ダイスケ、ゴメン。本当に」


「お前ら揃ってゴメンって……チッ」


 問い詰めたらはぐらかしてばかりで、本当のことは言わない。


「ああそうかよ、勝手にしろ」


「なんで切れてんの、別にアタシハクヤとは付き合ってないよ」


「そうかよ」


「ダイスケ、俺は――」


「うっせえな! お前等の言い分は聞きたくねえ、もう見たくもねえ」


 それを最後に、けいちゃんとは会話が極端に減った。


 けいちゃんに話しかけられても、一言二言ですます。家ではけいちゃんとアイツが仲が良いからよく料理をしたり、ゲームをしたりして遊んでいた。……俺は、喧嘩してからバイト先の飯屋で済ましてくることがほとんどだった。


 「付き合ってないよ」、そんな言葉だけは信じていたかった。


 けれど、けれどさ……。


 あの二人がラブホに入った写真を携帯で眺めていた。


「はは、笑えるわ」


 アイツとお互い初めて同士の、ぎこちなかった頃を思い出した。


 それから一年経ってこれとはなあ……。


 ……殺してやる。


 アイツラまとめて殺してやる。


 裏切り者には罰与えねえと気が済まねえ。


 恋愛は自由だ? 冗談じゃねえ、裏切られた側は傷心してばっかで何も得られやしねえだろうが。


 でも、大事な家族なんだ。未だ、アイツにとっては。


「けど、この怒りは、スッキリさせてぇ」


 笑いがこみ上げてきた、盛大に笑った。


 成功したらスカッとするだろうなと。


 携帯が鳴った、裏切り者からだ。


「はあ、何の用事かなあ」


「もしもし、夜にゴメンね。あのさ、明日って会える?」 


 明日は祭日だ、“会う必要もない”のに会いたいとはな。


「ああ、俺もお前の顔を見たいなって思ってた。また明日な」


「え、急にどうしたの……? ……うんっ! 会うの楽しみにしてる」


 なんか嬉しそうにしやがって。どうせ別れてくれって話だろうな。アイツと俺とこれからもずっと仲良くと約束してたのに……。


――――――


「……」


 思い出のある岬で、街灯に照らされながらぼんやりと眺めていた。


 アイツが落ちていった崖を。


 アイツラと近所にすむチビ達と遊んだ頃を思い出した。


「ここで遊んでいたっけなあ」


あの頃は、何かに悩むこともなく、自分もただアイツラの童心に合わせて遊んでいた。


「あーあ、なんでそんな事思い出したんかな……」


 自分が処方されていた空になった睡眠薬を握りしめてボーッとしていた。


 手をかけるのは一瞬だった。細かく砕いた少しの睡眠薬。酸っぱい味が好きだったアイツには、酸味強めのラムネ入りと言ってクエン酸とそれを入れたレモンジュースを渡した。

 健全だったアイツの身体には速攻で効いた。


 俺はずっと寝れなかったっつーのに。


 あとは、落とすだけ。


 寝ぼけたアイツの口からは、俺の名前が出ていた。


 どんだけ幸せな頭してんだよ、イライラに耐えきれず、アイツを俺の手で海のモクズにした。


 「……そうだ、予定通り警察呼ばなきゃな」


 ――――――


 電話して警察に捜索をお願いしてから次の朝、アイツの死体が見つかった。


 俺は顔を覆った。どんな表情を自分がしてるのか分からない。けど、きっと悪魔のような顔をしていたと思う。


 アイツは泣きじゃくっていた。俺も一緒に泣いてやった。なんで助けなかったのと怒られた。 


 そんな言葉にこうやって返した。


 俺も助けられるのなら助けたかったよ、と。


 警察に事情聴取された後、事故死と判定された。 


 睡眠薬について事情聴取されなかったのは、少し疑問点だったが、それはラッキーだ。


 悲しむ演技は、アイツラとの過去を思い出すことで出来た。


 全部計画通りだった。


 それから一週間後、屋上に呼び出された。


 憎たらしいハクヤからだ。


「俺さ、見ちゃったんだよな。ケイコちゃん事故死って言ったけど、あの子背負ってるお前背負ってたの見てたんだよな」


「はあ」


「これを警察に突き出して……っ!!」


 ぶったたいた。スマホを持つあいつの腕を。


「証拠? それが、どうしてたって!?」


 腹を膝蹴りして、顔面をぶん殴り、足首を踏みつぶし、腕も蹴り潰した。


「どうせ! 直ぐに逮捕されるわ!」


 ハクヤのうめき声が、俺の苛立ちを加速させた。


 うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえ。


 そして、反応が薄くなったそいつを、胸より低い手摺よりも高く投げ飛ばした。


 ドサッと音がした。


 あーあ、スッキリした。


 ……なわけ、ねえだろ。


 俺の犯行を、見た奴がまだいる。


 後ろを振り返ると、そいつがいた。


「……タツヤ、なんでここにいるんだかなぁ?」


「ついてきてたんだよ、ダイスケさんのこと。オレのワザで……。クソ、間に合わなかったっ……!」


 涙目でタツヤはこちらを睨み見つけてくる。


「あー、お前等の家ってソーユー家だったの忘れてたわ」


「ダイスケさん……。オレ、アネキの事大キライだったよ。死んでほしいって思うくらいのことだってあった。あの時だって、ホントはチョットだけざまあみろなんて思ってたよ。けどさ……」


 こちらに小さい体が詰めてくる、鬼の形相で。


「けど! コレはチゲーだろ!!!」


「ころしていいわけねーだろ! アネキはさ、クズだったけどさ! アンタのこと大スキだったんだよ! あのときのアネキ、めっちゃよろこんでたの今でも覚えてるんだ……」


「……るせー」


「うらぎりものうらぎりものって顔に書いてあったけど、アンタもうらぎりものだろうが!!」


「うるせえぇ! お前のその術みてーなので見てくるんじゃねえ! 分かったのなら俺をさっさとお縄に着ければよかっただろうが! そもそも、睡眠薬がバレてねえのはお前の技のおかげだったんだろ!」


「ちがう、それはアネキがやった」


「……は?」


「アネキは、受け入れたんだよ。アンタにころされることを」


「なんで、意味分かんねえ」


「自分がウワキしたところ見られたこと、知ってたから」


「……チッ」


「そして、アネキは消えてったよ。オレにアンタのこと助けてやってって」


「ふっざけんな! なら! 浮気すんじゃねえよ! 意味わかんねえよ!」


「うちのアネキはさ、ちゃんとしたあいしかたが分からなかったんだ。うちの両親が両親だしさ。その上、しきよくには振り回されるクズなのはまちがいないけど」


「アバズレ女なのお前も知ってんじゃねえかよ」


「けどそれは、アネキだけじゃない。ダイスケさん、アンタも悪いから」


「は?」


「アンタだってさ、モテてたでしょ。言い寄られてたりしてた子と一緒に歩いてたりしてたんでしょ」


「いや、いやいや俺マジで全く何もなかったし」


「オレとはちがってアネキは心を読めない」


「……」


「不安になってたところをハクヤというやつに言いよられて、関係持ったって」


「……じゃあ何でタツヤ止めなかったんだよ」


「アンタも止めなかっただろ!!」


「っ!」


「オレだって止めた! けどアネキもアンタの“おもい”をみたかったんだ!」


「なんでそんな……ふざけんなよ!」


「アネキもアンタをためしたりしたのはクソだったよ! けど! アンタも何で止めなかったんだよ!」  


「うるせえええええ!!!」


「オレは、アンタラカップルに失望したよ。マットーな付き合い方もケンカもせず、一人はサツイに飲まれて、一人はそんな運命を受け入れて……」


「なんで俺を、止めなかったんだよ」


「アネキがオレラ家族を眠らせたから。そのワザに長けてんだ、あのクソアネキ」


 タツヤ、何だよ、その真っ黒に見えるその瞳は。


「そう、ダイスケさん。クソアネキはアンタのおもいを受けとめるために、アンタの今後を守るために、アネキはワザを使い倒して、つかれ果てた体でアンタに会いに行った。ホント、ゆがんでるよね。」


 そんな目で見るんじゃねえよ。


「そんなくねっくねに曲がってるアネキのゼンイそっちのけで、また一人アヤめちゃったんだ。アンタは」


「……はは、そうだよ。それが?」


「そんな事も気付けなかったんだ。……“ヒビキちゃん”可哀想、今度こそマジで犯罪者の妹なんて言われるんだよ?」


「っっっ!!」


 タツヤの言葉を聞いて自分が抱いていた、焼けるような憎悪が全部飛んでいった。


「それなのに、ヒビキにあやまらないの? 彼女一人残して死のうとするんだ。クズだね。ヒビキにあやまれないクズが、さっさと死んじまえ!」


「……はは、そうだよな。そう言われちまうよな」


 なんで、今まで大事な事気付かなかったんだ。


 大切な人の事を忘れて、日常を奪う可能性のこと考えられてなくて、俺のことバレたら全部……。


「当たり前じゃん」


 俺だけで済まねえじゃんかよ。


「だけどさ、やり直そうよ。オレと一緒に……おい待てまさか、それ本気で――」


「はーあ、もういいや。疲れちまったな」


 そうだよ、タツヤ。俺は“そうする”よ。


 まあ、元々そのつもりだったし。


 オレはビニール袋で持ってきていた透明な液体を被る。


「何してんだよダイスケぇ!!!」


 そして火をつける。


 死ぬほど熱いなぁ……まあ死ぬんだけどさ。


 あとは、この手摺を飛び越えれば……。


□ □ □

 

「そうか、西宮大輔。怒り狂いながら後悔しているんだ君は。死ねない苦しみの正体は、その後悔と怒りが混ざり合ったから、そんな姿に」 


 姿が見えてきた。皮膚は焼き爛れ真っ黒になっている。むき出した皮膚は、火を吹き出す口となり、心臓からは常に凍りつけるような冷気が漂っている。


 彼の眼球の無い目には、心臓と同じ冷気を纏った雫が垂れていた。

 

「君が僕に直接触れてきたから、分かった」


「大切な人達に、裏切られたから」


「その人達を憎み、その人達の命を奪ったから」


「奪った後に、失ってしまった現実を自覚したから」


「その己の愚かさに、打ちひしがれたから」


「大切な人に、謝ることすら出来なかったから」


「大切な人から、見放されたから死のうとしたんだ」


「けど、君は死ねなかったんだ。そんな姿になって、後悔と怒りから抜け出せずにいる。そして今度は、人を巻き込もうとしているんだ」


「生命がなければ、怒ることも憎むことも、後悔することもなかった」


「死ねない体に苛立ちを覚え終わりなき後悔に沈んでいく西宮大輔。僕はそんな君を、『否定する』」


「アアアアアアアアアアアアアアアアァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!」


 耳を塞ぎたくような奇声を上げ、燃え上がった身体で、再びフェンスをすり抜けて“西宮大輔”は飛び降りた。


 追いかけて下を見たが、姿が消えてしまったようで見えない。燃えカスが、その落ちたであろう場所に残こっていた。


「――早く探さなきゃ」


 誰もいなくなった屋上から飛び出し、階段を急いで下っていく。


 一階にたどり着くとなんだか玄関先が騒がしくなっている。


 地面を激しく蹴る音で廊下が忙しない――


「クラ君? クラ君?! 大変なんだよ!!!」


「お、落ち着いて! 西宮さんどうしたの」 


「坪谷が、坪谷が!」


「坪谷が?」


 □ □ □



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