表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リトルライト ~僕は終わりを望む者~  作者: 旭ノ景
第一章 欲望から生まれるモノ
8/9

第六話:溜まる涙は燃ゆる沼へ、沼の主は君を見る。

「……ここ、は」


 蒼い空間、暗く湿り気を感じる空間に、気づいたらいた。


 その空間に鳴り響く、静けさを奏でる音。


 波紋を生むその音は、僕の胸の中を霞んだ青色に染め上げる。


 その音を聞く度に、感じたことのないものが、その空間の背景を通して、奥底から滲み出してくる。


 痛みよりも苦しい、別の何か。


「寒気がする……。?!」


 胸の中を何かが、ガンジガラメのように思考を制御してくる。


 水溜まりに足元をすくわれて、溺れていく。


「な!?」


 溺れ、沈み、落ちていく……。


 やがて、ソコは熱を発し始める。


 焼かれていくその青さは剥がれ落ち、マグマのごとく揺れ動く赤さを放つ。


 冷たさを感じたその水溜りは、マグマの沼となり、虚しい空間を覆い尽くしていく。


 僕は、赤く染まったその中で、底が見えるところまで沈むと、黒い影を見つける。


 ゆっくりと、僕の体が降りていく。


 地に足が付く。


 その隅っこには、縮こまるように膝を抱え、地べたに座っている同年代と思われる少年の黒い影があった。 


「“キミ”は、一体……。ッ!」


 彼に触れようと手を伸ばした瞬間、彼の体が燃え上がる。


 制御しようのない熱が、彼を覆いつくす。


 マグマの沼地にいる彼の感覚が、間接的に伝わってくる。


 脳裏に、電流が走る。


 迸る感情。


 繰り返される、情動。


 身が凍てつき震えるほど寒く、焼けるほど激情した心は炎となり、その炎に溺れるほどに黒く染まり、熱で焼け焦げ塵となった心は、再び訪れる震えるような寒さを振り解く為に燃やす。


 繰り返される、※※。


 後悔をも焼き尽くす、※※。


「“キミは”……自殺したの?」


 僕の声に反応し、彼は伏せた顔を上げる。 


 瞳は赤く染め上がっている。その瞳から、さっき感じた苦しみを感じる。


 その瞳から、涙が流れていた。


「泣いている……?」 


 僕は、無意識のうちに彼の前に立っていた。


「キミは、どうしてここにいるの……?」


『ッ!!!』


 彼の赤い瞳が、こちらを睨みつけると、謎の炎の力で吹き飛ばされる。


『ニクイ……ニクイニクイ!!!』


「ニクイ……? あ゛ッッ」


 胸の内側から、焼かれていく。


 僕の胸の中が、彼のマグマの沼と一体化してしまう。

 

 “ニクイ”という言葉を発したときに感じた、全てを赤く塗りたくるような燃え上がる感情が、僕の胸の中から止まること無く溢れ出ている。


〚許せない、何もかも。全てアイツラのせいだ。けど、何よりも許せないのは……〛

 

 熱い、意識が遠のくほど焼かれるその炎は、感情だった。


〚誰だ。何の為に、俺の中に……! ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!!!〛


「く、ぅ゙、ぁ」


『キエロ……キエロ!!!』


 マグマのような血とそこから噴き出す炎が、彼のうずくまった体から吹き出す。


 そうだ。これは、『怒り』だ。このマグマの沼を連想させる感情の正体は。


 留まることの知らない荒れ狂う情動。


 『怒り』は、まさに制御の利かない炎そのもの。


 炎が一帯に広がる。

 

 怒りの沼に沈められていく……。


 胸を締め付けてくるものを忘れたいが為に、全てを燃やし尽くそうとしている。


 目の前の“人だった者”。その存在に対して、僕は締め付けられるような感覚を覚える。


〝ああ、何と醜悪で穢らわしい存在か。虚しい、感情という虚空の中に溺れた哀れな存在だ。否定せよ、あってはならんのだ〟


 耳元で声が聞こえた。眼の前にいる彼を、この手で無かったことにしなければならないと。


 足が彼の方へ進んでいく、彼の鬱陶しい炎と感情を受けながら、前へ前へと進んでいく。


『ナンナンダ、オマエハ!!!』


 なぜ僕は焼かれないんだろうか。そんなことを考えているうちに彼の目の前に立っていた。


 近くにいると寒気を感じる。

 

 何かをごまかしているのか。


「……君を、否定する」


 僕は、いつの間にか手にもっていたそれを彼の頭へ振り下ろした。


(……あれ、僕はいったい何を) 


 何故、僕はこんな鋭利なモノを持っているのだろうか。


 振りかざしたそれを、止めることができない。


(なんで、なんで僕は)


「あ」


 肉が裂ける音がした。


 骨を擦り、絶つ音がした。


 皮を千切る感覚が、人を斬り落とす感覚がそれから全て手に刻まれた。


 転がる頭が、目の前に在る。


 頭が、マグマによって溶かされていく。


 マグマに沈んでいく頭のない体を、ぼーっと眺めていた。


「あ……あ……」


 言葉が出なかった。


 憤怒、憎悪、悲痛、絶望、鮮血、猟奇的場面……。


 そんなものを、どうして僕は経験しているのか。


 そもそもここはどこだ。


 考えることができない。


 眠い、ひたすらに眠い。


 そうだ、この眠気に委ねよう。


 そうして、あおむけに倒れたその空には、なぜかいた。


 沈んだはずの死体が。断ち切ったハズの体が。


 全身打撲の血みどろな西宮大輔の死体が、こちらを見ながら燃え続けていた。


 ――そう、これは夢でしかないんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ