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リトルライト ~僕は終わりを望む者~  作者: 旭ノ景
第一章 欲望から生まれるモノ
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第二話:変わりゆく兆し

 違和感を抱えたまま、玄関へ辿り着く。


 靴を履き替え、駆け足気味で一階から二階に登っていくと直ぐに2学年の教室が並ぶ廊下へと繋がる。


 歩いてその廊下の真ん中へ差し掛かると、目的の場所に辿り着く。


 [2-2]と記載された板が入口の天井付近にぶら下がっている。ここが、僕の教室だ。


「ふう……。ん?」


 汗を拭って、扉を開けようとすると教室の中から叫び声と床が震える。


「……うわ」


 男女二人が、扉から飛び出してきた。


 思わず仰け反って、転んでしまう。


 尻餅をつきながら、走る二人を見ているとどうやら追いかけっこをしているようだ。


「あっ、ゴメ! うわ来んな!」


「待て!! 濁したようにいいやがって! ヒビキがなんだって!?」


「だーーシツコイなあっ!! ハハッ、アタシを追っかけてないで本人に聞けって!」


橋本(はしもと)遼哉(りょうや)綾野(あやの)千華(ちか)。あの二人は、今日も元気にじゃれ合いをしている。


 ドンドンと廊下を揺らし、階段を飛び降りていく音が廊下に響き渡る。


「……中学生かな」


 こういうのもまた青春というやつなのだろうか。元気が有り余っているのは、少し羨ましい。


「んっしょ、イテテ。でも、あそこまで元気はいらない、かも」


 僕は立ち上がって、ズボンに付いたゴミを払い、教室に入る。


 雑談をして盛り上がっている人達や勉強をしてる人達がいる。夏休みの予定やらバイトの話、部活の大会の話、趣味の話。色んな話をしている。


 それにしても、こんな中で黙々と勉強できるのは凄いなと思う。


 僕は、誰とも挨拶をすることなく、そそくさと最奥の隅っこにある自分の席へ移動をする。


「はあ」


 朝の事で、少しぐったりと机に寝そべる。


 今日も、試しに皆に視線を送ってみる。


 ……やはり、誰も反応しない。僕が視界に入ろうとも、何もなかったかのようだった。


 こんな感じで、僕はこのクラスではボッチだ。というよりは、空気だ。


 何故か昔から、僕は影が薄くて、僕の姿が人の目に入っても眼と眼が合うことはない。それは家族ともそうだった。


 声を大きく発さない限り、認識されない。


 瞳を合わせても、こちらがしっかりと意識を持って接さないとすぐに存在を忘れられたかのような現象が起こる。


 いや、そもそもが“僕がいる事を認識されていない”のかもしれない。


 原因はわからない。どうして、こんなにも存在感が薄いのかを知りたい。けれど、それを解明する為の有力な情報がない。


 一つ挙げるとすれば、人と比べて欲求や感情が薄いことかもしれない。


 その場その場で細かな感情が動いたりしても、皆が抱いてるような喜びや悲しみには繋がらない。


 そのせいか、何となくこの生きている世界から疎外感を感じてしまう。


 まるで、僕はあってはならないものかのような。


 僕が、世界から存在を認めざる者として、見られているかのような。


 そう考えると、坂井は僕をどうして認識できるのだろうか、そして柳原も。 


 あ、何で気づかなかったのだろうか。

 

 彼等は、何か僕のことを知ってるのかもしれない。


「……兎にも角にも、あと5日間過ごして落ち着こう」


 そしたら、本格的に自分について調べよう。


 感情が周りの人と比べて薄い理由や、存在感が薄い理由が、一体何なのか。


 ガラスに映る前髪に覆われた顔。その顔にある前髪から覗いている、人とは違う、この曇りかかった瞳。


 この瞳について調べれば、何か分かるかな。


 そしたら、高校以前の過去の曖昧な記憶が、きっと。


「おはよーさん、みんな来てるかー?」


「おはよーございます! 岩井先生」


「薬指のそれ、やっぱ眩しいっすね!」


 八時になる5分前、二年二組担当の男性教師、岩井先生がやかましいわとニヤついた笑顔と共に悪態をつきながら教室に入ってくる。


「……橋本と綾野はどうした?」


 教卓に立つや否や、太眉の左片方を上げてそう聞いてくる。


「あー、あの二人はいつも通りです!」


 学級委員の女子が、元気良く答えると、岩井先生はまたか、と頭に片手を置きため息をつく。


「相っ変わらずアイツらは、全く手間がかかるな。……お?」


 再びドタドタと足音が聞こえてくると、教室の扉が強く開かれ、教室にその音が響く。


 チャイム音と共に扉が開く。


 汗だくになった橋本と綾野が、ドタドタと倒れ込むように入ってきた。


「お、おはよう、岩井先生」「ま、間に合った……」


「間に合ってねえわ。ったく、仲良くご登場なのは良いことだがお前らのせいで毎度ホームルームの時間狂うんだよな?」


「良いじゃんかよ! はあ、ちょっとぐらい!」「やばい、死にそう……」


 息が切れながら抗議をする橋本、その隣で両手をつきしんどそうに笑顔でいる綾野という図だ。


「はあ、もういい、バカなカップルのてめえ等相手にしても――」


「「カップルじゃねえ!」ない!」


「ていうか遅れたのコイツのせいだし!」「はあ?! お前がテキトーなこと言って逃げるからだろ!」


「うっせえバカップル! 黙って席につけ」


 アハハと、皆の笑いが起こる。


 岩井先生がしっしと、手を払うジェスチャーをする。

 

 仲良しな二人が、渋々自分達の席につくと、「日直ー、号令をかけろー」と岩井先生が呼ぶ。


「あ」 いけない、ぼーっとしてた。自分が、今日日直だった。


「起立!」


 声を認識してもらうために声を張り上げる。


 数人はびっくりしてこちらを見るが、すぐさま立って教壇へ視線を戻す。


 こんな感じで発声を頑張れば、皆が一応声だけは認識してくれる。……声だけだけど。


 皆が立ったところで、「礼!」と腹から声を出すと、みんなが頭をダラダラと下げ、それぞれが席に座る。 


「改めて皆おはよう。さて、朝の連絡だが――」


 朝のホームルームは、桜竜祭(僕らの運動会と文化祭の合併行事)と、夏休みの課題について語られていく。


 学校行事のことで喜んでたり、課題のことでゲンナリしていたりと皆のコロコロ変わっていく表情や、和気あいあいとした会話を端っこから眺めていた。


 今日もまた、何事もなく一日を過ごすのだろう。


「さー静かに! 今日も授業が待っているんだからな。今日も頑張れよ。蔵部、号令を頼む」


 ……そう考えつつ、閉めの号令を口にする。


「起立! 礼!」


 そして、座った瞬間、違和感を覚えた。


 窓からなにかが、落ちてきた。


 鉄の匂い。


 耳元に、何か砕けて飛び散ったような音が聞こえる。


 その音を聞いた嫌悪感で滲み出てくる手汗を、袖でごまかしあたりを見渡す。


 まわりは特に何も変わった反応はない。


 少し喉を鳴らす音が聞こえただけ。


 談笑しながら皆次の授業の準備をして、教室を出ていく。


 乱れた心拍が、一定になるまで深呼吸をした。


「……今のは」


 今まで聞いたことのない音だった。


 奥歯を噛み締めて、僕は立ち上がり、窓を見る。


 下を見たが、何もなかった。


 影が見えた気がしたけど、幻視かな。


 ……こんなに感情が揺れ動くのは、初めてだ。


「いけねっ! シート忘れ……あれ、お前蔵部、だよな? おいおい、ぼーっとしてんなよ。一限全クラスと合同だろ?」


「は、橋本……? う、うん。急いで、いく」


 眉をハの字にしたジャージ姿の橋本に名を呼ばれ、話しかけられた。


 ……話しかけられた? 名前、呼ばれた?


 そそくさと、自身の忘れ物と思われる袋を担いで走ってった橋本の背中を見送る。


 次第に、疑問が僕の頭を覆い尽くしていくだけだった。


「どういう、こと……?」 


 静かな教室の中で、僕は授業が始まる直前まで立ち尽くしていた。

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